第30話 食材の宝庫
「じゃあ、みんな。魔王様の為に食材を探してちょうだい」
シャルがそう告げると、野良ゾンビ達は「ウーウー」言いながら素直に行動を開始した。
うわ……本当に命令を聞いてるよ。すげーな。
でも本当にあれで食材を探してるのかな。
傍目にはゾンビがヨロヨロと徘徊しているようにしか見えないんだけど……。
すると俺の心配を知ってか、シャルが説明をしてくれる。
「ゾンビさん達は鼻がとても良いんだよ。だからすぐに見つけてくれると思う」
「へー、そうなんだ……」
「本来は大好物の人間を嗅ぎ分ける為に発達した能力なんだ。あらゆる感覚器官が腐っちゃってるからね。嗅覚だけは良くないと」
「は、はあ……」
今、人間大好物って言った!?
捕食しちゃうの?
ちょっと笑えないぞ!
ま、まあ……俺は今、魔王だから大丈夫そうだけど。
乾いた笑みで様子を見守っていると、早速一人のゾンビが何かを見つけたようだ。
太い木の根元に顔を向け、くんくんと半分もげている鼻をひくつかせている。
俺とシャルはゾンビが反応を示している木に近付いてみた。
するとすぐにシャルが、
「あ、エビルマッシュだ」
そう呟いた。
そのまま彼女は木の根元に生えている黒くて丸いものを引っこ抜く。
見た感じキノコっぽいけど、やや毒々しい感じがする。
「これは、もしかしてキノコ?」
「うん、そうだよ。とっても美味しくて、香りもいいの。ほら」
シャルがそのエビルマッシュとやらを俺の鼻先に近付けてくる。
「ん……確かに、良い匂いがする」
ふんわり香るキノコ系の匂い。それは前世で食べていたキノコ類と同系統の香りだ。
ちょっと違うのは、凄く芳しいということ。
言うなれば高級感を感じたのだ。
これは俺にも食べられるんだろうか?
ゲームみたいに鑑定能力があればすぐ分かるんだけど……って、俺にもあるじゃないか。似たような能力が。
アイテムボックスの中に入っていたリゴルの実は、
ということは、このエビルマッシュも一度アイテムボックスの中に入れれば見られるはず。
「そのキノコ、ちょっといいかな?」
「えっ、あ、うん」
意図を理解したシャルは、キノコを差し出してくる。
俺はそいつを
[エビルマッシュ]
高級キノコ。薫り高く、味も最高。
そのまま焼いても美味しいが、他の食材と合わせることで風味が際立ち、より一層料理の味を引き立ててくれる。トリュフに似ている。
おー、ちゃんと出た。
しかも第一印象で感じた通り、高級なキノコらしい。
というか、トリュフに似ているとか書いてあるんですけど!
まさかの前世の知識寄りの説明。
分かり易いと言えばそうだけど、ちょっと違和感を覚える。
でも、ここまで書いてあれば、普通に食べられるんだろうな……という安心感はある。
そうこうしているうちに、そこかしこでエビルマッシュが採れ始める。
両手で抱えきれないほどのそれがゾンビ達によって次々に集められ、俺はそれを端から全部アイテムボックスの中へ収納してゆく。
たくさん採れるのは良いことだが、他の食材も欲しいなあ。
そう思っていると、ちょっと離れた場所でゾンビ達が集団で何かを取り囲んでいる姿が見えた。
「あれ……何やってんだ?」
「あー、
「ム、ムートリ……?」
なんだそれ?
良く分からないので、実際にこの目で確かめた方が早いだろう。
俺とシャルはそこへ向かった。
そこではゾンビ達が手を繋ぎ、円状の柵を作っていた。
その中心に見慣れぬ生き物がいる。
牛に似た四つ足の動物。
だが、牛と違うのはその体毛が緑色で、背中からは草が生えているということだ。
まるで屋上緑化状態である。
「あれが……ムートリ?」
「そう、ムートリ。お肉がとっても美味しいんだよ」
「肉ねえ……って」
良く見たらこのゾンビ達、生で喰い付こうとしてないか?
なんか涎垂らして「ウウアァ……」って言ってるし、絶対そうだ。
目の前で生きたままムシャムシャやられてしまっては、夢に見ちゃいそうなのでその前になんとかする。
そこで俺の中に一つの案が。
もしかしたら、このムートリも
これまでのことから鑑みると出来る可能性は高い。
特にリスクは無いし……。
なら、やってみるか。
ゾンビ達がムートリの尻に噛み付く前に、
突然、目の前から消えた獲物にゾンビ達はきょとんとしていた。
それはさておき、アイテムボックスの中を覗いてみる。
[
哺乳類。牛に良く似た動物で生態も酷似。
家畜として最適で、その肉や乳は食用として用いられる。
また背中から生える麦からは年間を通して良質な小麦が収穫出来る。
ちゃんと格納出来たみたいだ。
にしても、背中の草って小麦なのか!? どこから養分取ってんだ?
まさか、体から!?
気になるが……それはともかくとして、
牛と似ている部分も多くて家畜に最適ってことだから、ダンジョン内で飼ったら食材を安定的に供給出来そうだな。
サンドボックス系のゲームでも動物飼って、素材を得たりするものもあるし、そんな感じで行けるんじゃないだろうか。
これはこのまま持って帰ろう。
ダンジョン内での放牧プランを頭の中で練り始めていると、背後からシャルが声を掛けてきた。
「魔王様、これも美味しいよ」
「ん?」
何かまた新しいものを採って来てくれたのかなーと思って振り向くと、眼前に凶悪な顔をした生き物はぶら下がっていた。
「ぎゃーっ!? な、ななな何これ!?」
それは巨大なコウモリのような生き物だった。
ただ、ギョロリとした目と大きな牙がおどろおどろしく、それを唐突に目の前に出された日には、心臓が止まってもおかしくないほどだ。
シャルは、そのコウモリモンスターの足を手で掴んで、逆さまにぶら下げていた。
「
「
「そんなことないよ。私は
「ヘルシーって……」
ま、いいや。
こいつも取り込んでみよう。
[
その名の通り、凶悪なコウモリ。人間の血を好み、その鋭い牙は骨をも砕く。
しかし、その肉は臭みも無くて、とても柔らかく、食用として用いられている。
翼から取れる出汁は絶品。鶏肉に近い食味と食感。
どうやらこれも見た目に反して優良食材のようだ。
こうしてる間にもシャルとゾンビ達は、新たな食材を次から次へと見つけては俺の所へと持って来る。
それらがMPの回復にどれだけ繋がるかは分からないけど、この森は案外食材の宝庫なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます