第212話 勇者は旅立った


 帝政ゼンロウの勇者ユウキは、レジニアから送られたという新たな勇者を撃退してみせると言い出した。



 それが俺こと魔王に信用される為の手段だ……とか。

 確かに、勇者は少ない方がいいし、俺が受けるリスクもほぼ無い。



 そんな彼らは、既にこの場所から旅立っていた。

 早速、その足でレジニアの勇者を倒しに行くんだそうだ。



 だから礼拝堂の中には瞬足くん(俺)とラウラしかいなかった。



「あの者達……信用して良いのじゃろうか?」



 ラウラは不安げに言う。



「ああ言ってはいるけど、勿論、嘘ってこともあるし、他にも色々な可能性が考えられる。だから今の所はグレーラインのまま対応して行く」

「魔王さ……じゃなかった、瞬足くんもそう思うか?」



「誰もいない時は魔王でいいよ」



 すると彼女は嬉しそうな顔をする。



「では魔王様、あの者達のその後はどう考えておるのじゃ?」

「取り敢えず監視を付けてみるよ。ラウラは引き続き、城の建設をお願いね」

「承知しましたのじゃ」



 ラデスの方はそれで良しとして、ユウキ達の監視にはメダマンでも飛ばしておこう。瞬足くんの荷物の中に何匹か入ってたはずだから。



 そんな事を考えていると、ラウラの様子がおかしいことに気がつく。



 なんだか頬を染めて、体をモジモジとくねらせているのだ。



「あの……それで魔王様?」

「なんだい?」

「妾達の祝言はいつ頃……」



「しゅ……!?」



 そういえば、それがあったな……。



「ええと……そうだなあ……」

「それに妾はまだ魔王様に直接お会いした事がないのじゃ。だから是非……その……妾を魔王城に……行かせて欲しいのじゃが……」

「ああー……そうだね……うーん……」



 どうやって誤魔化したらいいか悩む。

 そもそも会った事も無いのに、よく結婚を決めたと思うよ!



「でもさ……やっぱそういう話になると……結納とかそういう準備が必要なんじゃない? 一国の姫を迎え入れる訳だから、それなりに……」

「国の体制は変わったのじゃから、細かいことは気にすることはない。結納金なら妾が用意するぞ」



 え……そっちが用意するの!?

 そういうのって普通、男性側が送るものなんじゃ……。



「資金は潤沢にあるからのぉ。気にするな」

「……」



 そういう問題じゃないと思うんだけど……。



「いや、それは貰えないよ」

「なんでじゃ?」

「儀式的になんか違う気もするし」



 この世界では、そこの所どうなってるのかは知らないけど。



「じゃあ、何か代わりの物を送らせてもらおうではないか」

「え……」



 何がなんでも何か送りたいんだな。

 てか、なんでそんな話になってんだ!?



「魔王様が今、欲しいものがいいじゃろうな」

「今欲しいもの?」



 うーん……。

 欲しいものねえ……。

 って、真面目に考えちゃったじゃないか。



 そうじゃなくて……。



 と、切り替えようとした時だ。



 ん? そういえば最近、すごく欲してたものがあったような……。



 頭の中に金色に輝く鹿の姿が思い浮かぶ。



「そうだ!」

「ん? 何か思い付いたのか?」

「ラウラは金色鹿って知ってる?」



「金色鹿? うーん、残念だが知らぬのぉ……」



 そうか、知らないか。



「その鹿の角が欲しいんだけど……」

「なるほど、では魔王様の為に妾が全力で探すとしよう」

「おおっ、やってくれるの?」

「無論じゃ」



 彼女は自信満々に小さな胸を張った。



 なんだか悪い気もするけど……それで一時的に彼女の意識を別の所に持って行くことが出来る。

 結果、その素材が見つかったら幸いだしね。



「ということで、それも併せてよろしく頼むよ」

「了解なのじゃ」



 彼女は小さな手で敬礼した。



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