第213話 ご褒美


 ラウラが礼拝堂を出て行き、独りになった所で俺は考えた。



 レジニア皇国も気になるが、この世界の中心たる存在、イスラ法王庁というのも気になる。



 そちらについても調べを進めたい所だが……。

 一体、どこにあるんだ? そのイスラってのは?



 その辺の所も我が配下の誰かに聞けば分かるかな。

 キャスパー辺りが詳しそうだし。



 そういえば、彼らは世界のことをそれなりに詳しいけれど、いつから存在しているのだろう?

 それも前々から気になっていた。



 前の魔王の事は知らないっぽいので、それ以降に生まれた(?)のだろうか?

 俺がこの世界に転生した時には、魔王の誕生を待ち詫びていた節があったし、少なくとも俺が転生するより前から存在していたことは間違い無い。



 その辺の所も今回の勇者問題と関係してくるのだろうか?



 色々、降り積もっているが、順次なんとかして行きたい。

 そんな事を考えていると――、



 ドガシャンバタンッ



 突然、礼拝堂の扉が勢い良く開け放たれた。



「!?」



 何事かと思ってそちらに目を向けると、そこには先ほど出て行ったはずのラウラが立っていた。



 そんな彼女は血相を変えてこちらに近付いてくる。

 何かあったのだろうか?



「どうしたの? 緊急事態?」



 心配になって尋ねてみると、彼女は後ろ手に持っていたある物を俺に見せてくる。

 それは木の枝のような物だった。

 ただ、木の枝と違うのは、やたらと金色に輝いていること。



「こ、これは……?」

「金色鹿の角じゃ」



「探すの早っ!」



 驚きの声を上げると彼女はニンマリとした笑顔を見せる。



 それは確かに動物の角に見えた。

 色も金色だ。いかにもそれっぽい。



「ええー……どうしたの? これ……」

「我が国の宝物庫に眠っておったのじゃ」



「宝物庫……」

「昔、そこで金色の角を見た記憶があってな。ふと、それを思い出したのじゃ。いやあ、それにしても宝物庫が城内とは別の場所で良かったのじゃ。そうでなければ今頃、共に消し飛んでいたはずじゃからのお」

「……」



 まさか、こんなに早くに見つかるとは思っていなかったので、俺は呆然としてしまった。



「というわけで、これを納めるのじゃ」

「お、おう……」



 彼女からそれを受け取る。



 後で俺のアイテムボックスに入れて確認してみよう。

 それでそれが本当に探していた金色鹿の角かどうかが分かる。



 一番手っ取り早いのは、建設中のゴーレムに手渡すことだ。

 彼らとはアイテムボックスを共有しているから、離れた場所でもすぐに確認出来る。



 早速、瞬足くんを城の建設現場に向かわせ、ゴーレムにその角を渡した。



 ピコッ



 俺のアイテムボックスに反応があった。

 新規アイテムが入った知らせだ。



 すぐに確認してみる。




[金色鹿の角]

 金色の毛皮と角を持つ神秘的な鹿の角。とてもかわいい。




 間違い無い。確かにそれは探していたアイテムだ。

 しかし、とてもかわいい……って、説明が投げやりだな!

 気になるけど。




「どうじゃった?」



 ラウラ姫が瞬足くんの傍で返答を待ち侘びているようだった。



「ああ、確かに俺の求めているものだったよ。ありがとう」

「おおっ、それは良かったのじゃ!」



 彼女は自分の事のように喜ぶと、途端に上目遣いで仮面の奥を覗き、遠く離れた俺の瞳を見つめてくる。



 それは何かをねだるような視線だった。



「それでその……めでたく探していたものが見つかったことだし、それなりの褒美を貰えたりしたら……嬉しいのじゃがなー……」

「褒美?」



 元々は結納がなんだとかって話じゃなかったけ?

 なんか話が変わってるけど……そうか、そうだよな。

 こうして見つけて来てくれた訳だから、配下は労わないと。



「ああ、分かった。で、何が欲しいの?」



 すると彼女は瞳を輝かせる。



「魔王様にお会いしたいのじゃ!」

「!?」



 それか!

 魔王城に来たい来たいって行ってたもんな……。



 さすがにこれ以上は引っ張れないなあ……。

 でも、俺も生のラウラに会ってみたくもあるし、丁度、魔法の扉Ⅱが設置されたので、移動も簡単だ。



 祝言だなんだの話になったら他の配下の者達の混乱を招くことになるかもしれないから、会うだけ。

 会うだけなら、なんとか……。



「分かった。許可しよう」

「!」



 ラウラを目を見開いた。

 そして、



「わわっ! 嬉しいのじゃ!」



 まるで子供のように両手を挙げて飛び跳ねた。



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