第210話 異端の勇者


 忍者娘カルラから魔王代理だと指摘された瞬足くん(俺)。



 もしかしたら何かの間違いじゃないかと暫く黙っていたが、そうでもないようだ。



「いやあ、連れの者がせっかちでね。我慢ということを知らない。ですが、もうここまで来たら隠す必要も無いでしょう。ラウラ姫の側におられるその兵士がラデスを滅ぼしたという魔王代理なのではないですか?」



 ユウキは開き直って率直に聞いてきた。



 どうやってバレたのかは分からないが、そこまで知られてしまっていては、これ以上、隠し通すことにもあまり意味が無いと思う。



 それに彼らはあくまで魔王代理だと思っているだけで、兵士の中身がリゼル王国の元勇者アレクで、その体を借りて監視しているのが魔王自身だということまではさすがにバレてはいないだろう。



 面倒なことになる前に名乗るか。

 向こうの真意も探りたいしな。



 そこで瞬足くんは一歩前へと進み出た。

 ラウラが少し驚いたような表情を見せる。



「いかにも、我が魔王代理だが?」



 堂々と名乗りを上げる。



 さあ、向こうがどう出てくるのかが楽しみだ。



 身構えて待っていると……。



「おおーっ! やはりそうでしたか!」

「わーい、当たったでござる! ほら、見てくだされユウキ、私の言った通りでござろう?」



「……ん??」



 なんか俺の思ってたのと反応が違うぞ……。

 クイズに正解してハワイ旅行が当たったみたいに喜んでいる。



 勿論、ラウラもポカーンとしていた。



「何故、我が魔王代理と分かった」



 するとユウキがカルラの頭をむんずと掴む。



「帰りがけに、こいつが兵士の中に一人だけ気配の無い者がいると言い出しましてね」

「……」



 そんな所からバレたのか……。

 このカルラとかいう少女……忍者みたいな見た目だけあって、気配を探るのが得意なのか?



 しかし、こちらの正体が一部バレたからといって、彼らに特段変わった動きは無かった。

 こちらに敵意を見せる訳でも、身構える訳でもない。



 ということは、勇者と魔王という構図ではない目的が何か他にあるようだ



「そろそろ、お前達の目的を聞かせてもらってもいいだろうか?」

「そうですね。勿体振っていても意味は無いですからね」



 ユウキはニヤリと口角を上げる。



「私達は魔王軍との共闘を提案したいと思っているのです」

「……!」



 それは思ってもみなかった答えだった。



 それ以前に、最大の疑問が浮かぶ。

 仮に敵対している魔王と勇者が共闘した所で、そもそも何と戦うというのだろうか?



 俺自身も今の所、勇者以外の敵を認知していない。

 ということは……。



「それは共闘ではなく、魔軍の手を借りたいの間違いじゃないのか?」



 例えば勇者同士、或いは国同士のいざこざ。

 それに加担して欲しいというのなら、まだ話は分かる。



 だが彼は人差し指を顔の前で振った。



「いえいえ、そうではないんです。これは魔王側に取っても意義のある提案」

「?」



「まだ、ご存知無いようですから、お教え致しましょう」

「それはそれは」



 皮肉っぽく答えた。



「魔王の敵はもちろん勇者ですよね? その勇者が何故生まれてくるかご存知ですか?」

「欲に溺れたからではないか?」



「フフッ、それもあるかもしれませんが、もっと根本的な事です。勇者をこの世に誕生させているのは、この世界の中心に位置するイスラ法王庁、延いては神聖レジニア皇国に起因しているのです」

「……」



 なんだって!?

 ってことは、端的に言えば、その二つの国が勇者を生産しているってことでいいのか?



「仮にその通りの事が起こっているとして、お前達と共闘することにどう繋がるというのだ?」



 ユウキはゆっくりと瞳を上げ、仮面の中の……遠い場所にいる俺の目を見据える。



「私達は勇者の誕生を止めたいと思っているのです」

「……!」



 はい?

 なんでだ!? そんな事をして何になるというのだろう。



「何故に勇者が勇者自身に不利になるようなことを願う?」


 すると彼らは急に穏やかな真顔を見せる。



「資源を巡る醜い争いにうんざりした事と、生まれながらに魔王と戦わなくてはならない運命に抗いたい。ただそれだけですよ」



 確かに、望んだわけでもないのに勇者として生まれたら魔王と戦わなくちゃいけないのは辛い。

 中には端から好戦的な奴もいるかもしれないが、もしそれが俺だったら真っ先に何処かへ逃げたくなる。



 まあ、それが作り話でなければ……の話だが。



「その話、そのまま受け入れろと?」

「いえ、そう簡単に信じてもらえるとは思っていませんよ。その為にも色々下調べをして、こうしてラデスまでやってきたのですから。そして実際、その甲斐があった」

「ほう、それは?」



「まずは魔王側が対話に応じてくれる存在かどうかを確かめたかった。ラウラ姫がもし魔王側と通じているのであれば、その可能性が高いと思いましてね」

「なるほど」



 俺とユウキはニヤニヤしながら見つめ合うのだった。



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