第127話 クーデターをするの?
魔王城、ダンジョン最下層にある玉座の間は静まり返っていた。
なぜなら、ラデス帝国の姫ラウラが、突然の結婚宣言をしたからだ。
プゥルゥ、イリス、シャル、リリアの四人は、画面に映るラウラ姫の姿を――ただただ呆然と見詰めていた。
アイルに至っては虚空を見上げながら、魂が抜けたようになっていた。
辛うじて立っている状態だ。
唯一、キャスパーだけが俺に向かって跪き、
「魔王様、ご成婚おめでとうございます」
と嬉しそうに言ってきた。
「いやいや、本当に結婚するわけじゃないからね? 配下に加えるって言っただけだし! そうした方がこちらとしても都合が良いと判断しただけだし!」
自分でも言い方がツンデレっぽくなってしまったと自覚しながらも、すかさず否定すると、プゥルゥ達は一箇所に集まってヒソヒソと話し始める。
プゥルゥ「マオウさま、ケッコンしちゃうの?」
シャル「でもあの子、側室って言ってたもんね」
リリア「ってことは正室の座はまだ空いてるってことですね」
イリス「魔王様……鬼畜……」
おい、全部聞こえてるぞ……。
それになんかまだ勘違いしてるし。
と、そこで別の場所から低い声が上がり始めた。
「クククククク……」
その方を見れば、アイルが肩を震わせ笑っていた。
「そう、あの者は決して正室ではないのです。我々の支配粋を広げる為に魔王様が利用しているにすぎないのです! ラデスが手中に落ちれば他の国々に対して政治的な戦略を取ることが出来ますからね。そうですよね? 魔王様」
「えっ、まあ……そうなんだけど」
「それにあの姫はラデスを治めないといけませんからね。ずっとあの地に縛り付けられることになるのです。我々が居るこの魔王城に来ることは無いでしょう」
アイルの言葉に他の皆も「なるほど」と納得している様子。
間違っちゃいないけどね。
それはさておき、今はラデスのことだ。
俺は瞬足くんを通してラウラに話しかける。
「忠誠の証はしかと受け取った。これでラウラは俺の正式な配下だ」
「おーそうか、それは良かったのじゃ。って……俺の……とは、どういう事じゃ?」
彼女は目の前の魔王代理からそう言われたので、ちょっと不安になったのだ。
もう正式に配下に加わった訳だから、ネタばらししてもいいだろう。
「俺は魔王。この魔王代理の体を借りてお前と話している」
「!? なっ、なんと!」
彼女は一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべる。
「なるほど……そうであったか。どうも変だと思っておったのじゃ」
「変?」
「魔王代理殿から気配を全く感じなかったのじゃ。まるで抜け殻のような感じでな。しかしながら、その仮面の奥から、ただならぬ力を感じたのでな。それがまさか魔王様ご本人であったとは……。これは今までの無礼、失礼仕るのじゃ」
そこまで分かってたのか。なかなか鋭いな。
「じゃあ、正体を明かした所で、ここからは普段通りの口調で行くよ」
「うむ」
「ラウラはこの国を一からやり直すと言っていたが、具体的な計画はあるの?」
「計画というか……言わばこれはクーデターじゃ。これを成功させるとなると、スピードと戦略が重要になってくる。奇襲によって権力の中枢を即座に無力化。その際に反撃の隙を与えてはならない。そして速やかに新たな体制に対する民の支持を得る必要がある……と、頭では分かっておるのじゃが、それを実行するには……」
「人員が足りないと?」
「うむ……数人を除いて城内に妾の支持者は皆無じゃからのぉ。戦力だけを考えると実質、妾と魔王代理殿の二人で事を成さねばならぬのじゃ。だが幸い、妾に対する民からの信望は一定数あると思っておる。その民の前で妾が旧政権を糾弾すれば、一気に支持を得られるのではないかと」
「なるほど、状況は分かった。なら行けるかも」
「?」
ラウラはきょとんとこちらを見ていた。
俺は傍らに失神して転がっている皇帝に目を向ける。
「こいつはあと数時間もすれば意識が回復する。それまでにやってもらいたいことがあるんだ」
「なんじゃ? 妾は何でもやるぞ」
「多分、大丈夫なんだけど、念の為というか安全策を取りたい」
「?」
「民を石壁の外へ連れ出して欲しい。理由はそうだな……民の為になるような事がいい」
「民の為に……?」
「うん、そう。そんなに時間は無いけど出来る?」
「うむ、問題無いのじゃ。父上が動けない今なら帝国の姫として命じることも可能であろうし、妾の
彼女は誇らしげに小さな胸を張ってみせた。
「じゃあ、早速頼むよ」
「うむ……」
だが、その顔に不安が過る。
「じゃが……魔王代理殿に妾の武器を折られてしまったからのぉ……。あれが無いと少し心許ないのぉ……」
彼女は言いながら床に転がっていると思われる大鎌の刃先を探す。
だが――。
「ん? 先程まで、そこにあったはずなのじゃが……?」
瞬足くんに折られたはずのそれが見つからないことに疑問を覚えたようだ。
「それなら大丈夫だと思うよ」
俺は言いながら彼女の手にある大鎌の柄に視線を置いた。
彼女は自分が手にしている柄しか無いはずの大鎌を見上げる。
「!?」
ラウラは目を見張った。
そこには折れたはずの刃先が、きちんとくっついていたからだ。
しかも所々に髑髏の意匠が施されており、前と比べておどろおどろしいデザインに変わっている。
まさに死神姫の名に相応しい形。
「ど、どどうしてなのじゃ?? しかも、形が変わっておる!」
「配下に加わってくれたことに対するプレゼントみたいなもんさ」
「……」
リリアの時もそうだったけど、魔物リストに加わったことで彼女の聖具が魔具に変化したのだ。
その際に折れた部分まで再生したのだ。
俺もそこまで元通りにしてくれるとは思ってなかったけど。
「魔王様、ありがとうなのじゃ」
ラウラは子供のような笑顔で答えてくれた。
「それで、話の続きじゃが……。民を連れ出すことは承ったが、クーデターはどうやって起こすつもりなのじゃ?」
彼女の質問に対し、俺はニヤリと笑う。
「奴らの運命は奴らに決めさせるのさ」
「?」
ラウラは首を傾げるのだった。
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