第126話 姫の決断

「それに中々の知略家じゃのう」



 ラウラは顔を赤らめながら言った。



 物怖じすることなく瞬足くんに近付き、仮面の奥を覗いてくる。



「実際に剣を交えた妾だからこそ分かる。その眼孔の奥に尋常成らざる力を感じるのじゃ」



 ゾンビだけどね。

 まあ、元勇者だから、それなりに……ね?



「それで、込み入った話というのは?」



 尋ねると、ラウラは一歩前へ踏み出てくる。

 そして、平然とした態度で言う。



「うむ。妾は待っておったのじゃ、この国を滅ぼしてくれる・・・・・・・強き者を」



 今、この子、滅ぼすって言った!?



「それはまた、帝国の姫として穏やかではない発言だね」



 クーデターとか、内部事情的なことか?



 理由はどうであれ、普通ではない状況であることは確かだ。

 どうしてそんなふうな考えに至ったのか、気になる所ではあるが……。



 そう思っていると、



「父上はクズじゃからのぉ」



 突然のクズ発言が出た。

 実の娘にそうまで言われる皇帝とは、どんな人間なんだ?



「ほう、その理由を聞かせてもらおうか」



 すると彼女は「うむ」と頷いた。



「父上の所業は、それはそれは酷いものじゃ。富を追い求めるが為に国民に対する圧政は然る事ながら、自分に異を唱える者は全て処刑する。しかもその方法が、見せしめの為に必ず拷問と虐殺というのじゃから、まともな神経の人間がやることではない。今日、連れてこられたエルフ達についてもそうじゃ。できるだけ多くの勇者を欲するあまり、魔力の高いエルフを魔王討伐の為の兵士として仕立てようというのじゃからな」



 人質としての価値がなくなった彼らを今更どうするのかと思ったけど……そういうことか。



「しかも皆に魔力を封じる手枷を付け、刃向かう事の無いよう洗脳教育を施すつもりなのじゃ。その為に、村で地位のある長老も捕らえてきている。尊敬している者の言葉ならば聞き入れるからのぉ」



 彼女はしみじみと語った。そして、



「もうラデスには父に従う人間しか残っておらん。だから、この国の政治と王族は一からやり直した方がいいのじゃ。これ以上、民を苦しませたくないからのぉ。だが、妾一人の力では……」



「それが理由か」



 ――だが、



「頼む相手を間違ってないか?」



「そんなことはない。妾は魔王代理殿に頼んでおる」



 どうやら影に潜みながら皇帝との会話を聞いていたらしい。

 なら尚更、魔王側の者と知っていて頼む人間に疑問を覚える。



 魔王が民に危害を加えないとは限らないのだから。



「先程そなたは父上と話しておったであろう? 勇者を相手にするのが面倒だと。父上の体制が崩れれば勇者が送られることも無くなる。その点に於いては利害が一致していると思うのじゃが?」



「そこまで聞いてたのなら分かってるんじゃないか? 次に生まれる体制が同じようなものでは意味が無いと。そこはどう考えてるんだ?」



「そこは、妾が新しいラデスを纏めようと思っておる」



「……」



 一瞬だけ時が止まった。



 それはまた、大きく出たな……。



「なるほど、取り引きの内容は分かった。だけど、それと信用が別なのは分かるよね?」



「……」



 ラウラは黙ってしまった。しかも結構、困った顔をしている。



 え? まさか、それで行けると思ってた?



 必死に何か考えた末に何か思い付いたようだ。



「わ……」

「我が命に賭けて! とか、心に誓って! とかは無しだからな」



「あうっ」



 彼女は出掛けた言葉を引っ込めた。

 図星だったらしい。



 するとラウラは真摯な顔で瞳をキラキラさせながら、こちらを真っ直ぐに見詰めてくる。



「一点の曇りも無い瞳が証拠! とかもダメだからな?」



「はうっ」



 彼女は息を詰まらせた。



 もうこれはダメかもしれないな……。

 そんなふうに思い始めていた時だった。



 彼女が意を決したように口を開いた。



「で、ではっ……我が純潔を捧げることにするのじゃ!」



「……」



 ラウラは顔を真っ赤にしながら、そんな事を言い出した。



 本気か!?

 てか、瞬足くんに向かって言ってるのか? ゾンビだぞ?



「それは魔王代理に対して言ってるのか?」



 彼女はブルブルと首を横に振る。



「そうではない。無論、魔王殿にじゃ」

「……」



「代理殿ですら、この強さなのじゃからな。主である魔王殿はその上を行く強き者であることは明白。そんな魔王殿に貰われるのであれば妾は本望じゃ。さあ、側室の一人として、妾を迎え入れよ」



「……」



 迎入れよ! って……えぇー……。

 しかも、端から側室前提!?



「政略結婚は信用を得る為の常套手段。間違い無いとおもうぞ?」



 ラウラはこのアイデアに自信有り! みたいな顔で返答を待っている。



 俺は脳内で帝都に御触書が立ったのを想像する。



 魔王、ラデス帝国のラウラ姫と結婚。

 帝国領は魔王の統制下に入る!



 って、本当かよ!?



 でも、方法としては……アリか?

 実際に結婚するかどうかは別として、配下に加えるのは好手だと思う。



「ならばその真偽を確かめさせてもらおうか。ここで魔王の配下に下ると宣言するんだ。それが真意ならば、自ずと結果が表に現れる。それで判断するとしよう」



「それでいいのか! ならば妾はやるのじゃ」



 ラウラの表情に希望の火が灯る。



 彼女は顔を紅潮させ、モジモジとし始める。

 一度深呼吸すると、上目遣いで言ってくる。



「妾は……魔王様を一生愛します」



 ピコリン



 彼女の宣言に反応するように、俺のコンソールが反応を示した。

 すかさず魔物リストを見ると、そこには、



『死神姫ラウラ』



 の名前が追加されていた。



 てか……愛すって!?


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