第169話 狙撃者


 ここは魔王城の北にそびえ立つ火山。



 俺とリリアは今、その頂上にいる。



 彼女の能力を生かし、勇者の部隊を狙撃している最中なのだ。



 ちなみにこの場所まではイフドラの背中に乗せて来てもらった。



 彼女は弓を構え、凜々しい姿を見せている。

 その一射を終えたところで、俺は声を掛けた。



「どんな感じだい?」



 するとリリアはニッコリ笑いながら答える。



「いい感じですよ。こちらの思惑通り、上手い具合に分散してくれてるみたいですし」

「ほほう」



 とは言っても当然の事ながら、俺には肉眼で確認することは出来ない。

 断崖から見下ろしても広大な森林しか見えない。



 なので、俺は俺の方法でやることにした。



「じゃあ、ちょっと見てみようかな」



 なんて言いながらも、彼らが森の道に入った時からずっと監視してたんだけどね。



 俺はコンソールを開いて、勇者達の近くに設置してあるメダマンの映像を並べる。

 それで、いくつかの画面に逃げ惑っている兵士達の姿が映し出された。



「おお、逃げてる逃げてる」



 俺はリリアにただ時間稼ぎの狙撃をするだけでなく、とある注文をしていた。



 それは、勇者レオから一番遠い場所にいる兵士をまず最初に狙えということだった。



 そこから部隊の中央を裂くように、レオの方へ向かって着弾点を近づけて行くようにとも指示した。



 その注文が何の役に立つのかというと、一つは今、彼女が言った通り、兵力を分散させる事。



 もう一つは、勇者レオのスキルである見えない防御壁の有効範囲を探る為だ。



「じゃあ、レオが森に入ってしまう前に例の奴を頼むよ」

「了解しましたっ!」



 リリアは元気良く返事をすると、弓を構えて矢を連続発射する。



 その様子をコンソール上の映像で見守っていると、時間差で画面の中に矢の雨が降り注ぎ出した。



 逃げ惑う兵士の中を矢の雨が段々、レオに近付いて行く。

 すると、とある地点で――、



 コツン



 矢が弾かれて霧散したように消えた。

 それは彼の前方、約二十五メートルくらいの地点。



「別の方向からも頼む」

「はいっ」



 リリアは、さっき弾かれた地点を起点にして、レオの周囲に矢を放ち続ける。

 その結果、分かったことは――、



「ほほう、全方位を守れる球体って感じか」



 着弾の様子から判断するに、半径二十五メートルくらいの半球体が彼の周囲で壁を作っている。

 落とし穴から兵士を救った例があるので、もしかしたら地面の中にまで及ぶ全球体である可能性が高い。



 しかし、その防護壁の内側にも兵士がいることから、そのスキルは常時発動パッシブスキルではなさそうだ。



 という事は、スキルがオフの時に内側に入り込んでしまえばダメージを与えられる?



 でも、イリス・ゴーレムを倒した時はスキルの効果を一点に集中させているようにも見えた。

 力が濃縮されるのか、防護壁が目に見えるくらい具現化してたから。



 となると、有効範囲を自由に縮小出来ることになる。

 それはちょっと面倒臭いかも。



 それに彼が認知した者だけが防護壁の内側に入れるとかいう能力だったら、その案は使えない。



 やっぱり、当初の予定通り、走り回ってもらう作戦が無難かなあ……?



 色々思考を巡らせていると、狙撃中のリリアが口を開く。



「魔王様、そろそろ全員、森の中に入ってしまいそうです」

「ああ、そうだね」



 カメラ映像を見ていると、森の道から人影が消えて行くのが分かる。



「で、肝心の勇者達は……っと」



 コンソール上に別の角度からの映像を表示する。

 するとそこには、レオとヒルダの二人が別々の森へと入って行く姿が映し出されていた。



「おっ、ちゃんと二手に分かれてくれたようだね」

「イリス・ゴーレムが例のモノ・・・・で上手くやってくれましたからね」

「そうだね」



 そこで俺達は顔を見合わせてニシシと笑う。



 さて、ここからはさすがにいくら視力の良いリリアでも木の葉が邪魔で目標を追うことが出来ない。



「次は皆が設置してくれた罠の出番だ」

「ですね」



 とはいえ、設置しただけの罠に上手いこと嵌まってくれるとは限らない。

 ある程度は、この場から遠隔で適宜、ちょっかいを出して行くことになるかもしれない。



「まずは、あると厄介な回復スキルの方から潰しておこうか」

「はい♪」



 俺とリリアは再びニヤリと笑むのだった。

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