第36話 緊急会議
ここは地下ダンジョン、第一階層内に作られた大広間。
そこに四天王達が集まっていた。
なんで玉座の間ではないのかというと、そこには既にゴーレムが演じる偽魔王が座っているからだ。
なので俺達はとりあえず、この大広間という名の何も無い空間に集合していた。
いずれちゃんとした場所を最下層に作るつもりだけど、今はここを仮の玉座の間ということにしている。
というわけで俺が広間の真ん中に立つと、四天王と参謀がその前に跪いた。
それを見届けてから口を開く。
「みんなに伝えたいことがあります」
言ったあとで、まるで小学校の先生みたいだなあと思った。
「先程、勇者が来ました」
「「「「えー」」」」
告げた途端、みんなからブーイングが起こる。
「これはまた、随分と早いですね……」
キャスパーが顎に手を当て、神妙な面持ちで言う。
これに対し、事情を知っているシャルが答える。
「その勇者、瞬足のスキルを持ってるみたいだよ」
「なるほど、それでですか。して、その勇者は今どこに?」
「魔王様のゴーレムが撃退したよ」
「おお、あのゴーレムが。さすがで御座います魔王様」
「まあ……たまたまというか……」
キャスパーはそんなふうに敬服するが、俺は特に何もしてないんだけど。
と、そこへアイルが陶酔したようなうっとりとした表情で言ってくる。
「やはり魔王様のお作りになるものは至高の存在。ゴーレムでありながら勇者を退けてしまうなんて、凄いとしか言いようが御座いません」
すると彼女の喜びに呼応するように、プゥルゥがその弾力ある体を高く弾ませる。
「マオウさま、すごい! つよい! てんさい!」
プゥルゥの側にいたイリスも、
「かっこいい……」
頬をピンク色に染めながら恥ずかしそうに呟いた。
「いや、普通に作っただけなんだけどね」
だがそこで、さっきまで歓喜していたはずのアイルの顔が曇り始める。
「しかし……私は魔王様の配下でありながら、勇者の侵入に気付くことが出来ませんでした。それは恥ずべきことです。本来ならば我らが勇者の相手をすべきであるというのに……。魔王様のお手を煩わせてしまい申し訳御座いません」
アイルが今一度、深く頭を下げた。
「なんだ、そんなこと? 俺も直前まで気付けなかったんだから似たようなもんだよ」
「魔王様の御慈悲、痛み入ります」
侵入と言っても死霊の森の外側だし、監視でもしてなければ普通は気付かないと思うんだよね。
そんなことを思っていたら、心の内を知ってか知らずか、アイルがその監視をしているはずの者について話題を振った。
「そういえば、火山の上に居座っているあのドラゴンは、お飾りか何かですかね?」
「え……」
イリスがビクッと体を震わせる。
アイルが言いたいのは恐らく、邪炎竜イフドラのことだ。
イフドラは北の火山の頂上で周囲を警戒する役目を担っていた。
勇者の侵入にいち早く気付いて知らせるのは、イフドラがすべきことだからだ。
「イフドラは……あの……」
イリスは言い難そうにしながらも続ける。
「今朝……奥さんが卵が生まれるからって……お休みを……」
まさかの産休だった!
ていうか、妻帯者だったのかい! あのドラゴン。
「それなら仕方有りませんね」
そしてアイル。
意外と理解があるのね。
っと、それはさておき、本題に移ろう。
「みんなに集まってもらったのは、ただ報告をしたかっただけじゃないんだ。またやってくるかもしれない、その勇者に対しての策を練ろうと思ってね。ということで、まずこれを見てもらいたい」
俺はウィンドウを開く。
メダマンには録画再生機能があるらしく、丁度勇者を捉えた時の映像を彼らの前に披露したのだ。
「「「「おおー」」」」
彼らは初めて見る録画映像に、先のシャルと同じような反応を示す。
映像は勇者が逃げるように走り出した所から始まり、高速で遙か地平の彼方に消えた所で終わっていた。
「これが先程やって来た勇者の映像ね。残念ながら立ち去るところからしか撮れてなくて、肝心のゴーレムとの戦闘シーンは撮影出来なかったんだ。今見てもらった映像から、勇者の特徴とか能力とかそういったものを一緒に探って行きたいと思うんだけど協力してくれるかい?」
「もちろんです」
アイルは二つ返事で了承した。
他のみんなも同様に頷いていた。
「じゃあ早速だけど、さっき見てもらった映像で何か分かったことってある?」
すると全員が腕を組んで「うーん……」と唸り始めてしまった。
さすがに何かを探るには、映像として短すぎか……。
勇者はマッハですっ飛んで行くし、一瞬で終わっちまうもんな。
そりゃスローで見ない限り分かんないよなあ。
ん……? スロー?
この映像、録画再生まで可能なんだからスローぐらい出来るんじゃね?
そう思った俺はウィンドウ周りを探ってみる。
すると案の定、枠から引き出す形でコントロールパネルが存在していた。
やっぱ、あるじゃん。
俺は早速、スロー再生でさっきの映像を流した。
「わあ、これは姿を捉えやすいですね」
アイルがすぐに反応を示してくれた。
「でも、なんか映像がブレててハッキリ見えないね」
シャルが不満を漏らす。
彼女の言う通り映像は乱れに乱れまくっていた。
スロー再生は出来たものの、対象である勇者のスピードが速すぎて姿がクッキリと見えないのだ。
だったら、勇者がターンをして走り出す前で一時停止してみよう。
それがこの映像の中で勇者の動きが一番少ない場面だから。
というわけでー……ストップ!
おっ、丁度正面を向いている良い場面で止まった。
「あ、今度はブレてない」
「ほんとですね。これなら装備も良く見えます」
シャルとアイルがそんな会話を交わす中、キャスパーが真剣な面持ちで映像を精査していた。
「魔法が付与された白銀の鎧、聖魔石の嵌まった聖剣、どちらも確かに勇者の装備ですが……この肩口の部分……何か見えませんか?」
近付いてきたキャスパーが画面上を指差す。
「え? どこ?」
「ここです、ここ。鎧の肩の部分」
言われた箇所を目を凝らして見てみるが、画像が潰れていて良く分からない。
すると他のみんなも興味を惹かれたのか、前へ出てきて食い入るように見始める。
シャル「ねーどこ? わかんなーい」
プゥルゥ「ボクにもみせてよー」
イリス「プゥルゥ……じゃま……」
アイル「あんた達、ちょっと近付きすぎっ! 狭い……」
俺の周りにみんなが集まってきて、ぎゅうぎゅうに押し合う。
ちょっと苦しいんだけど……!
そこで一歩引いて見ていたキャスパーが進言してくる。
「魔王様、この画像は拡大とかは出来るのでしょうか?」
「拡大? そういえば……」
ここまでの機能が充実してるんだから、それくらい出来そうなもんだ。
俺はスマホの要領で画面に親指と人差し指を当て、試しにピンチアウトしてみた。
途端、画面一杯に勇者のドアップが表示された。
しかもそれは、怯えたような引き攣った表情。
「「「「ぎゃああああああぁっ!?」」」」
女性陣が揃って悲鳴を上げた。
そりゃそうか。食い入るように間近で画面を見ていたら、変な顔が超ドアップで現れたわけだし。
「ごめん、拡大する場所がちょっとズレた。この辺かな……」
中心点をスライドさせる。
それで画像の真ん中に現れたのは、鷹が翼を広げた紋章のようなものだった。
それを目にしたキャスパーは、落ち着いた表情でボソリと呟く。
「この紋章……見覚えがあります。恐らく、リゼル王国の国章かと」
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