第37話 リゼル


「リゼル王国?」



 勇者の録画映像を見ながら、俺はキャスパーに尋ねた。



「はい、ここより遙か西方に位置する人間の国で御座います」

「へー、ちなみにそのリゼルって、どんな国なの?」



「約三百年前に建国された新興国で御座います」

「三百年で新興国??」



 三百年もあったら色々文化や技術が発展しそうだけどな。

 そんな俺の疑問を察してか、彼はすぐに言葉を添えてくれる。



「人間にとっては長い年月かもしれませんが、我々魔物にとってはまだ歴史の浅い国です」

「なるほど」



 元より寿命が違いすぎるのか。

 俺、魔王だけど、感覚は人間のままだからあんまりピンとこなかったよ。



「じゃあ、この勇者はそのリゼル王国が遣わした者ってことでいいのかな?」

「恐らく」



 そういえばシャルが言ってたな。

 勇者は国ごとにいるって。



 魔王を倒すのに、そんなに勇者が必要なのか?



 そもそも、なんで国ごとなんだろう?

 普通に考えたら国と勇者が密接に関係しているってことだよな。



 国を知れば、それも分かるか。



「さっき新興国って言ってたけど、どうして急に国が出来たの? その経緯とか知ってたら教えて欲しいな」



 するとキャスパーは、なんともあっさりした態度で答える。



「現在のリゼル王都がある地は、先代魔王の城が建っていた場所ですから」



「え……」



 思いも寄らぬ答えが返ってきて一瞬、言葉を失う。



「ちょ……ちょっと待って。なんで魔王城の跡地に国が出来てんの? というか、それが国が出来た経緯とどう繋がるわけ?」



 そこでキャスパーは、ふと何かに思い当たったようで、アイルの方へ視線を向ける。



「何も御説明されてはいないのですかな? アイル殿」



「えっ……? あっ……」



 彼女はしまった、というような表情をしていた。



「仕方がありませんな。では私が代わりに御説明致しましょう」



 キャスパーは俺に向き直る。



「魔王様、代々魔王の誕生する地は資源の宝庫になると言われているのです」

「資源……」



 それだけで俺は、もうなんとなく分かってしまった。

 だが一応、彼の話に耳を傾ける。



「一貴族の領地でしかなかったリゼル。そこに、たまたま力のある勇者が産まれたことで成り上がるチャンスを得たのです。先代の魔王を打ち倒し、その地に眠る資源によって国を建て、発展し、今に至るという訳です。私はその時代を見てきたわけではないので、聞き及ぶ限りの情報ですが」



 言われてみれば……ここら一帯、強欲の牙グリーディファングでちょっと掘るだけで色んな素材が出てくるもんな。

 そりゃあ国くらい出来そうだ。



「ということは、今回やってきた勇者や、他の国の勇者もこの地の資源を狙っているってことでいいのかな?」



「そうですね、どこの国も更なる発展を目論んでいるのは確かです。ですがそれは国の事情。全ての勇者がそれに同調しているとは言い切れないようです」



「ふむ……単純に国の手先という訳でもない……ってことか」

「ええ」



 民を守り、魔を打ち倒すという純粋な正義感から動く勇者もいるだろうし、多額の報償に目が眩む者もいる。名誉や名声が欲しくてーなんて奴もいるだろう。

 結局、理由は様々だ。



 勇者も勇者として産まれたというだけで色々あるのね……。



 それを踏まえた上で、今回の勇者はどう見る?



 奴は瞬足を生かし、予想を遙かに超える早さでこの地までやってきた。

 何故、そんなに急いだんだろう?



 急ぐ理由はいくつか考えられるけど……あっさり退いた感じからして、そこまで必死になるようなことでもない。



 でも、誰よりも先に出し抜こうという意志が感じられる。

 となると恐らく、行動原理が不逞な理由の可能性が高い。



 なら、必ずまたやって来るだろうな。

 そうと分かれば、もうちょっと綿密に対抗策を練らないと。



 俺は勇者の録画映像を元に再度、皆に尋ねる。



「他に何か気付いたことがある人ー」



 静寂に包まれる大広間。



 まあ、これだけの映像で判断するのも無理な話か。



「ま、そうなるんじゃないかなーと思って、もう一つ用意しているものがあるんだ」

「え、ナニかなあ?」



 プゥルゥが期待に体を震わせる。



「とりあえず、それを呼ぼうか。入ってきていいよ」



 俺は部屋の外に向かって声を上げた。



 するとズシンと床が震動して、大広間に巨体が現れる。

 それは、ここにいる皆にとっても見覚えのある存在。



「そう、実際に勇者と対峙したゴーレム。オスカーリーダーさ」



 俺は当たり前のように彼を連れてきたけど、皆は予想して無かったものだったのか、ゴーレムを見てきょとんとしていた。



「ゴーレムをよんでどうするの?」



 プゥルゥが柔らかい体で「?」の文字を作ってみせる。



「彼と彼の周りにいたゴーレム達だけが、勇者を最初から最後まで見ていた唯一の存在なんだよ?」



「あっ、わかった。ゴーレムから、ユウシャのはなしをキクんだね?」

「まあ、それも有りだけど、もっと分かり易いものがあるんだ」



「?」



 プゥルゥや他の皆も首を傾げた。



「忘れてないかい? 彼は物真似が得意なんだよ」



 そう告げると、一同は揃って瞠目した。

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