第54話 カレー

 ともかく部屋割りを決めたことを皆に伝える為、この場所に集まるようゴーレムに呼びに行かせた。



 待っている間に考える。



 部屋割りを決めたのはいいけど、第一階層から第五階層までの広間が空っぽだ。

 これらに何を置くか決めないといけない。



 とりあえず、プゥルゥの部屋の上、第五階層の広間はゴーレム達の詰め所にしよう。



 ダンジョン建設の作業にあたらせていた者達をそのままにしておく訳にもいかないし、一箇所に集めておけばそれだけで防衛力となる。



 それに丁度、第五階層はダンジョンの中心地点。

 何か作業が必要になった時、各所へゴーレムを派遣するには便利な場所でもある。



 残るは一から四階層だけど……今は思い付かないので一旦保留。

 先にダンジョン内に置く魔法の扉Ⅱをたくさん作ることにする。



 コンソールを開いてポチポチ。

 これは単純な作業だ。



 あっという間に十数個の扉が出来たので、これをゴーレム達に頼んでダンジョン内の要所に配置してもらう。



 ちなみに魔法の扉Ⅱを合成するには、一個あたりMPを250消費する。

 なので、一度にたくさん作った今、俺のMPは枯渇寸前だ。



 実際、こんな感じ。




 MP 152/3402




 そんな時はMP回復アイテム。



 料理だ。



 俺が今持ってる材料で作れるのは、バットカレーとジルジルジュース。

 二つ合わせて400回復。



 全回復には足りないが、そのままにしとくよりはずっと安心出来る。

 なので早速、作ることにした。



 これもコンソール上で簡単作成。



 数秒で俺の手にバットカレーが出来上がっていた。



 どういう原理か分からないけど、皿とスプーンまで合成されているご都合主義的な感じは、かなりゲームっぽい。



 しかしそんなことは些細な事と感じるくらい、目の前のカレーは旨そうな香りを漂わせていた。



 そういえばレシピはゲットしたけど、こうして実際に食べるのは初めてなんだよな……。

 あの時は素材を焼いて食べまくってたので、腹一杯すぎてカレーの入る余地なんてなかったし。



 そんな訳で初挑戦。



 さーて、どんな味かな。

 ワクワクしながらスプーンをルーの中に差し込んだ時だった。



「くんくん……はぁ……」



 アイルが心地良さそうな表情を浮かべながら、鼻をクンクンとさせていた。

 そして珍しい物を見るように俺の手にあるカレー皿を覗き込んでくる。



「魔王様、それは一体、何というものでございますか? 嗅いだことのない香りですが、食欲を刺激するような良い匂いがします」



 そういえば、皆はカレーという食べ物を知らないのか。

 明らかに前世の食べ物だものな。



「これはカレーというものだよ」

「カレー……でございますか」



「興味があるなら食べてみる?」

「えっ……よろしいのですか?」



 彼女は、まさかそんなふうに言われるとは思っていなかったのか、目を丸くする。



「いいよ。材料は一杯あるし」

「では……お言葉に甘えさせて頂きます」



 俺は彼女にカレー皿を手渡した。



 アイルはスプーンで一口分掬うと、それを興味深く見詰める。

 そして、それをそのまま自分の口へと持って行った。



「!?」



 彼女の体がビクッと震える。

 直後、その表情が蕩けるように解れた。



「美味しいです……! 世の中にこんな美味しいものがあっただなんて……」



 彼女は感動の余韻に浸っているようだった。



「それは良かった」

「魔王様も是非……」



 彼女は感動のお裾分けをしたかったというだけなのだろう。

 何とはなしに、スプーンで掬ったカレーを俺に向かって差し出してきた。



「む……」



 こ、この状況は……もしや噂に聞くアーンというやつじゃないだろうか?

 こんな所で、こんな状況が展開されるとは予想外だった。



 俺が戸惑っていると、アイルは自分のやっている行為に気が付いたようで、



「あっ、あわわ……し、失礼いたしました……! 私の食べかけを魔王様に差し出すなど、なんと無礼な行為……」

「いや、そんなことはないよ」



 彼女の厚意をここで断るのも悪い気がして、そのまま差し出されたものを口にする。



「あ……」



 アイルは不意を突かれたような顔をしながらも、頬を微かなピンク色に染めていた。



「ほんとだ! 旨い!」



 素直な感想が口から出た。

 カレーなんて前世でたくさん食べてきたけど、これは格別だ。



 味の良さはさることながら、異世界風味というのだろうか、エキゾチックな感じが更に美味しさを引き立てている。



「では、もっといかがですか……?」



 彼女はもう一口掬うと俺に差し出してくる。



「あ……うん」

「……」



 なんか互いに意識しながらも止め時を逸して、その遣り取りを繰り返す。



「はい、アーン……」

「アーン……」



 そんなふうに俺が大きな口を開けて待ち構えていた時だった。



「マオウさま、よばれたからきたよー……って、あれ……?」



 プゥルゥを筆頭に、呼び出していた四天王達がこの第一階層大広間に現れたのだ。



「あ……」



 固まる俺とアイル。



 皆は硬直する俺達の姿をぼんやりと見詰めていた。

 そんな中、プゥルゥが普段と変わらぬ口調で尋ねてくる。



「マオウさまとアイル、なにしてるの?」



「えっ……いや、これはなんというか……」



 返答に困る俺だった。


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