第55話 お裾分け
アイルにカレーをアーンしてもらってる所にやってきた皆。
キャスパーはそれをただ傍観しているだけだったが、
シャルとイリスは、アイルに対して何だかモヤモヤしている様子。
残るプゥルゥはというと、
「わわわ! マオウさま、それなあに? とってもいいにおい」
彼女はぴょんぴょん跳ねながら、アイルが手にしている皿を覗き込んでいる。
「カレーだよ」
「カレー? なにそれ、おいしいの? たべてみたい! たべてみたい! ねえ、だめ?」
プゥルゥはカレーに興味津々だ。
そういえば以前、彼女は料理っていうものを食べてみたいって言ってたな。
普段は素材を丸呑みして体の中で溶かすだけらしいし、憧れみたいなものがあるのだろう。
それにプゥルゥだけじゃない。
ここにいる皆、食事は素材そのものだったり、焼くだけだったりと、シンプルなものしか食してこなかったようで調理したものが珍しいようだ。
だったら、この機会に皆にも楽しんで欲しい。
「分かった。じゃあ全員分、作るから待ってて」
「わーい、やったー!」
プゥルゥは更に高く跳んで大喜び。
その他の皆も互いに顔を見合わせた後、喜びの表情を浮かべた。
なので俺は早速、人数分のバットカレーを合成する。
プゥルゥ達、四人分。
そして、アイルの分だ。
アーンしてもらったお陰で俺がほとんど食べちゃったからな。
という訳で出来上がったものを配る。
すると皆、嬉しそうに食べ始めた。
プゥルゥは受け取った皿ごと体内に取り込むと、体を黄色に染めて震わせる。
「こ、こんなのはじめてだよ! おいしい! これがリョウリってものなんだね!」
彼女は初めての料理に物凄く感激している様子だったが、結局、皿とスプーンは戻ってこなかった。
まとめて消化したな、これは……。
キャスパーは逆に落ち着いた様子で、一口一口を噛み締め、余韻に浸っている。
「これは……なんとも美味でございますにゃあ」
でも、味への素直な反応は語尾に出てしまったようだ。
食いしん坊が判明したイリスはというと、頬に手をあて、一口食べる度に顔へ光がパァァッっと当たったような感じになっていた。
じゃあシャルはというと、
「魔王様、これすっごく美味しい! ありがとう! という訳でアーン」
唐突にカレーを掬ったスプーンを差し出してきた。
「どういう訳だよ!」
脈略なさ過ぎてビビった。
「だって……なんかアイルと魔王様……楽しそうだったんだもん……」
彼女は半べそな感じで言ってくる。
「そ、それは……その……」
「だから私のも食べて欲しいの。はい、アーン」
はい、アーン……って、結構強引だな!
こっちも反射的に口を開けそうになったぞ。
でも、良く考えたら断る理由も無いんだよな。
MPも回復するし。
それに、それで彼女が満足するなら別にいいんじゃないかと思った。
「じ、じゃあ……もらおうかな……」
「ほんと!? やったー! じゃあ改めて、アーン」
「アーン……」
「ちょっ!? 何やってるんですか!」
突如、そんなふうに分け入ってきたのはアイルだった。
なんだか少し焦った様子。
「何って、アイルが魔王様にやってたことと同じことだよ?」
「そ、それはそうですが……それは私の役割というか……」
「え? なんでアイルだけ?」
「そ、それは……」
シャルの質問責めにアイルが動揺している最中、俺のもとにもう一つのスプーンが無言で差し出された。
それは、はにかんだ様子のイリスだった。
目を合わせようとせず、カレーが載ったスプーンだけこっちに向けてきている。
お前もか!
そんな彼女に気付いたシャルとアイルは、
「あーっ、いつの間に! イリスずるーい!」
「えっ、ちょっと、イリスまで何をやってるんですか!」
何やってんだ、この子達は……。
そんな最中、何を思ったのかシャルが、とんでもないことを提案してきた。
「でも、このカレー、私達も食べたいから、魔王様に食べさせる分を新しく三つ作ってー」
「なんでそんな発想に至った!?」
そんなこんなで、俺の目の前に三つのスプーンと三つの顔が突き出された。
カレーだったら二杯くらい余裕でいける俺だが、さすがにこの量となると……。
「げふぅ……」
結局、全部平らげた。
腹は苦しいが、結構MPが回復したから良しとしよう。
ちなみに今のMP量はこれだけ。
MP 1150/3402
ちょっと計算が合わないのは、最初に食べたカレーが少し手を付けた状態だったから。
全量食べないと、表記通りのMPは回復しないらしい。
なんとも難儀な……。
そんなふうに色々大変な事もあったけど、彼女達はみんな嬉しそうにカレーを楽しんでいた。
一緒にジルジルジュースも振る舞ったけど、こっちも大好評で、カレー共々毎日食べたいとまで言ってくれた。
こちらとしても嬉しい限り。
そんなに喜んでくれるなら、実際に実現したいなーと思うのが率直な思い。
ん……実際に?
だったら、彼女達に毎日それを提供出来る場所を用意してあげてもいいんじゃないだろうか?
そう、ダンジョン食堂だ。
そもそもこのダンジョンは防衛の為だけでなく、俺と彼女達が快適に過ごせることを目的に作ったのだから、それも有りだろう。
それに、こんな何も無い殺風景な大広間で立ち食いなんて、美味しさも半減してしまう。
食堂なら落ち着いて食事を楽しむことが出来るしね。
幸い、テーブルやイスの合成レシピはあるので、そういったものは揃えることが出来る。
実際に作る場所は……。
そうだ、この第一階層の大広間がいい。
ダンジョンに入って早々に食堂とか思うかもしれないが、そもそも入り口には大浴場があったりする訳で、その側に食堂があったところで今更何がどうというわけでもない。
よし……そうと決まれば。
そこで俺は皆に告げる。
「この場所に食堂を作ろうと思う」
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