第56話 食堂を作ってみた
「え……食堂……ですか?」
ダンジョン内に食堂を作ろうという俺の提案にアイルは呆然としていた。
「そう、こんなふうに皆が楽しく食事出来る場所があったらいいなーと思わない?」
「おもう、おもう! ボク、まいにちマオウさまのリョウリがたべたーい」
真っ先に答えてくれたのはプゥルゥだった。
他の皆も同意見のようで、
シャル「私も賛成だよ」
イリス「みんなと一緒に食べるの……楽しい……」
キャスパー「仰る通り、私も同意見で御座います」
と言ってくれた。
「アイルは?」
「えっ……も、もちろん賛成です。ですが……せっかくのダンジョンをそのような場所に割いてしまわれて大丈夫ですか?」
「ダンジョンとしての機能も大切だけど、皆でこの場所で暮らすんだから快適さも同じくらい重要だと思うんだよね。だから全然惜しいとは思わないよ」
「魔王様……」
アイルは感慨深い表情をみせていた。
「という訳だから、あるものだけで作ってみよう」
俺は早速、家具レシピの中からイスと丸テーブルを合成する。
とりあえずテーブルを二十台。
イスは、それぞれのテーブルに四脚ずつ置くから、合計八十脚。
ここにいる人数よりずっと多い数だけど、彼女達の配下になっている魔物とかを連れてくることもあるかもしれないし、何よりこれくらいあった方が食堂っぽい。
俺が作った家具を皆が運ぶ。
まるで教室で生徒が机を運んでいるような……そんな雰囲気を思い起こすなあ。
物はすぐに並べ終わったが、それでもこの大広間にはだいぶ余裕があって、まだまだスペースが残っている。
そうだ、半分はキッチンにしようか。
いずれ釜戸とかコンロとか、そういったものも作れるようになるかもしれないし。
ゲームだと、確かそういうアイテムもあった気がする。
それに今は俺が合成することで一瞬で出来てしまうけど、いずれ各個人で料理を作ることもあるかもしれないしね。
その為のスペースを確保しておこう。
となると、キッチンと飲食スペースを仕切るようなカウンターがあったら雰囲気が出るかもしれないな。
でも、そんな家具レシピはまだ持ってないので、とりあえず今は石壁ブロックを使って、それっぽくカウンターを作っておこう。
俺は大広間を区切るように、石壁を胸の高さくらいに合わせて並べた。
あとはチェストが作れたな。
あんまり食堂には合わない見た目だけど、調理道具とか食器棚とかの代わりになりそうだから、いくつか作って置いておくか。
そんな感じで荒削りではあるけれど、ものの数分で食堂っぽい空間が目の前に出来上がっていた。
「わあ……見違えましたね。さっきまでの空間とは思えません」
その場を見渡しながら、アイルがしみじみと呟いた。
「また何か作れるようになったら、その都度増やして行こうと思う。とりあえず今はこれで」
俺がそう言っている最中、既に皆は適当な席に着いて雰囲気を味わっていた。
「わーい、しょくどう、しょくどう」
俺は楽しそうにしているプゥルゥと同じテーブルに着く。
「せっかくの食堂だからメニューをもっと増やしたいよね。今はバットカレーとジルジルジュース、あとミートパイぐらいしか作れないからなあ」
「ええっ、ミートパイ!? それ、ボクまだたべてないよ?」
ガタタッ
イスが引かれる音がした。
ミートパイに反応してイリスが立ち上がったのだ。
そして興味ありげにこっちのテーブルに近付いてくる。
相変わらず食べ物に目が無いようだ。
「ミートパイはレシピはあるんだけど材料がまだ手に入らないんだ。
ん? 飼う?
そういえば以前、シャルと食材探しに行った時、森で
確かここに……。
すかさずアイテムボックスを確認すると、そこにはしっかりと
あの時、考えていたことを実行に移す時か。
「よし、第二階層の使い道が決まったぞ」
「え?」
「牧場にしよう」
「ぼ……ぼくじょう?」
プゥルゥはきょとんとしていた。
「
「ムートリって、そういうカツヨウほうほうもあるんだね。ボク、いつもまるのみにしてたから、わからなかったよ」
「……」
プゥルゥって、可愛い声をしているわりに結構ワイルドなんだよな……。
そういえば
いずれにせよ、一頭じゃ少なすぎる。
シャルに
「牧場のことは、また別の時にってことで……本題に戻そう」
なんか流れでカレー食べたり、食堂作ったりしてしまったけど、そもそも彼女達に集まってもらったのは皆の部屋割りを決めたよーってのを伝える為だ。
「皆、座ったままでいいので聞いて欲しい」
俺に注目が集まる。
そこでダンジョンが完成したことと、部屋割りを伝えた。
「という訳で担当階層の守護を頼むね」
「「「「はーい」」」」
皆、イスに座ったまま手を挙げて答える。
これ、学校の先生みたいな雰囲気になってるな……。
「自分の部屋は好きなように使ってもらって構わないからね」
各々で戦い易い雰囲気とか、物の配置とかあるだろうから、その辺は俺が何か御言うより、各人に任せた方がいいだろう。
「用事はそれだけなんだけど、何か質問ある?」
すると、イリスが遠慮がちに手を挙げる。
「はい、イリス」
「えっと……あの……質問とは違うんだけど……」
「うん」
凄く言い難そうにしているけど、何かそんなに重要なことなんだろうか?
後で個人的に聞いた方がいいんだろうか?
そんな事を考え始めた時、彼女は続きを口にする。
「その……もう一杯……ジルジルジュースが飲みたい……」
「え……」
口にしたイリスは俯き加減ではにかんでいた。
そっちかい!
イリスの食欲魔神っぷりは目を見張るものがあるな。
それであの細さなんだから。
やっぱりドラゴンって強大な力を持ってそうだから、それだけエネルギーを使うんだろうか?
「じゃあ、もう一杯だけね」
俺が了承した途端、
プゥルゥ「あー、ボクも!」
アイル「私も頂きたいです」
シャル「癖になる味だよね」
キャスパー「不肖ながら、私も頂きたく……」
と、次々に声が上がった。
「あー……はいはい。皆のも作るよ」
そう言うと、出来たばかりの食堂は歓喜の声で溢れた。
◇
「ふぅー……」
俺は湯船に浸かり大きく息を吐いた。
ここは地下にある大浴場。
そこで一人、今日一日の疲れを洗い流していた。
あー癒やされる。
どんな時もやっぱり風呂は最高だ。
この大浴場を一番最初に作ったのは大正解。
食堂や牧場もそうだけど、そういう心を豊かにしてくれるようなものって大事だよね。
これからはそっち方面にも力を入れて行きたいところ。
残りの階層には何を作ろうかな?
図書館……なんてのも心を豊かにしてくれそうだ。
あとは映画館とか?
本とか映像コンテンツが合成できるようになればの話だけど。
あとは、各種娯楽施設?
ボウリングとか、カラオケとか、バッティングセンターとか、ビリヤードとか、ダーツとか……って、ラウン○ワンみたくなってきたぞ……。
まあ、どれもレシピがどう発展するのか? それ次第なんだけど。
それにしてもこの世界に転生してから、そんなに経ってないっていうのに、色々やってきたなあとしみじみ思う。
そんなことを考えていると、これまでの疲れがどっと出たのか急に眠気が襲ってくる。
湯船にもたれながら、ついウトウト。
そんな時、事は起きた。
警告音と共にコンソール上にそんな文字が表示される。
この感じ、前にもあったぞ……。
俺は頭を振って目を覚ますと、原因を調べる為にコンソールに手を掛ける。
その刹那だった。
「魔王様!」
普段、淡々とした感じのイリスが、慌てたように風呂場に入ってきたのだ。
そしてこう告げる。
「今、イフドラから報告が……。森の西に勇者が現れたって……」
すかさずコンソールを確認すると、そこにもゴーレム戦闘中の表示が。
「む……やっぱり来たか。分かった、すぐ出る」
ザッパァァンと水飛沫を上げて湯船から立ち上がると――、
「っ!? ま、ままま、魔王様……っ!?」
イリスが真っ赤になりながら両手で顔を覆っていた。
「あ……」
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