第109話 落ち着かない


 さて、新たに増えたレシピの最後……ビニールプールだが……。



 とにかく、確認して行こう。




[ビニールプール]

 空気で膨らむジャンボサイズプール。底面には可愛らしいイルカのキャラクターが描かれていてキッズも大喜び。大口径排水キャップでお片付けも楽チン。

 しかも、プールに入れられる水の容量は無限なので、非常時の貯水にも使えます。

 尚、底面が強力な吸着素材な為、壁や天井、どこでも貼り付けることが可能。

 是非、アクロバット水泳をお楽しみ下さい!




 どんな入り方だよ!



 ってか、天井に張り付けたら水が溢れるだろうが。

 何の為の機能なんだか……。



 相変わらず良く分からない変な物ばかりだな……。



 しかし、無限に水が入るとは凄い。

 これで生活用水をたっぷり確保出来るな。



 素材がビニールで心許ない感じだけど……。



 ともあれ、これで一通りチェック出来たかな。



 半分くらいは使えそうなもので良かった。



 という訳で……新レシピの確認で後回しになってしまっていたが、金ダライを合成しないといけない。



 ウルトラ金ダライとアルティメット金ダライ、両方を一つずつ合成するぞ。



 俺はコンソールを開き、集まった魔法石を組み合わせて、それらを作る。



 二種類の金ダライは他の合成アイテムと同じように合成出来た。



 アイテムボックス内に銀色と金色の金ダライの絵が付いたアイコンが表示されている。



 これでよし……と。



 まずはどの程度の威力があるのか、ウルトラ金ダライから試してみよう。



 とは言っても、スーパー金ダライですらあの威力だった訳で……。

 この場で実験したら、せっかく作ったダンジョンが壊れかねない。



 やっぱ外でやらないとな。



 俺はそのまま城の外に向かうことにした。



 でも、その前に第四階層に寄って行こう。



 死霊の森でのパールゥとの一件。

 彼女だけ魔法の扉Ⅱを使って先に帰らせた。



 だが、俺とプゥルゥは例によって扉を回収し、歩きで帰ってきたから、彼女がちゃんと部屋で過ごせているか確認しておきたかったのだ。



 そんな訳で俺は第四階層の大広間へと向かった。



          ◇



 俺は玉座の間にある魔法の扉Ⅱを潜り、即座に第四階層にやってきた。



 大広間はがらんとしていて何も無い。



 まあ、今の今まで誰も住人がいなかったのだから当たり前なのだが……。

 あからさまに様子がおかしい。



 パールゥの姿が見当たらないのだ。



 彼女が魔法の扉Ⅱを潜る所を、俺とプゥルゥの二人で確認した訳だから間違いは無い。

 行き先もちゃんと確認したので、第四階層では無い場所に飛んでしまったってこともない。



 なのに、いない。



 あんな大きな体が隠れられるような場所なんて無いし、そもそもこの大広間には遮蔽物も一切無い。



 んー? どこ行ったんだ?



 不審に思っていると、どこからともなく変な鳴き声が聞こえてくる。



「ぷぷぷぷ……」



 なんだか震えているような声。

 しかも、この「ぷぷ」とかいう感じ、聞いたことがあるぞ。



 俺は声がしてくる方向――、



 天井に目を向けた。



「っ!?」



 俺は見上げたところで刮目した。



 天井の隅っこにパールゥが張り付いていたのだ。



「な……何やってんだ!? そんな所で……」

「ぷぷぷ……」



 彼女は隅っこに詰まるようにして、体を震わせていた。

 そんなふうになっている理由は分からないが、何かに怯えているようでもある。



 とにかく話を聞く必要がありそうだ。



「なんか困ってることがあるなら相談に乗るよ?」



 そう伝えると、彼女は壁を伝い恐る恐る降りてくる。

 でも、やっぱり部屋の隅っこで小さくなっていた。(とは言っても充分巨大だが)



「どういうこと? 何か恐怖を感じるものでもあるの?」

「ぷぷぷぅぷぅ……ぷぷ」



「はあ、はあ、なるほど、なるほど」



 何か言っているが、相変わらず良く分からな……あれ?

 なんか……パールゥの言ってることが理解出来るような気がするぞ。



 慣れなのか?

 いや……もしかしたら、パールゥの中に入った時にちょっと体液を飲んじゃったのが原因だろうか?



 でも……その後も変わらずボディランゲージのままだったから、そのせいではなさそうだ。



 ということは、魔物リストに加わり正式な配下になったから……ってのが妥当な線じゃないだろうか。



 とにかく、言葉が理解出来るようになってるってことは確かだ。



 で、彼女がさっきから言っていたのは「この場所が広すぎて落ち着かない」ということだった。



 今の今まで池……というか沼みたいな窪みにずっと入ってたので、急に外に出たらあまりに無防備な感じがして気が気でないらしい。



「ぷぅぷぅ……」

「え? どこか狭い場所に収まりたい?」



 狭い場所って言っても、彼女の体からしたら相当な容積だ。

 この場所の床を掘り下げて穴を作るのもアリかとも思ったが、下層の通路とかに貫通しやしないだろうか……。



 そうなるとダンジョン自体を組み替える大工事に発展しかねない。



 もっと手軽に居場所を作ってやる方法はないだろうか……。



 これだけの巨体がコンパクトに収まるような場所……。



「ん……」



 俺の脳裏にさっきまで確認していた新レシピのことが浮かぶ。



 そうか……!



 ビニールプールだ。


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