第51話 衣替え


 必要な素材を全て集めた俺は、再び森の道へ戻ってきていた。



 今からレシピ通りに服を合成し、順番にゴーレム達へ着せて行く為だ。



 まずは一番目、プゥルゥ・ゴーレム。



 こいつに着せるのはクマの着ぐるみだったな。



 俺は早速、それを合成し、ゴーレムに着せる。



「……」



 着せた後……無言になった。



 なんだろう……この世界に溶け込めない異物感……。



 めっちゃ着ぐるみやん!



 いや、着ぐるみって知ってたよ? 知ってたけど……なんというかもっとリアル系に寄せてくるのかとばかり思っていたから。



 まさか、こんなふうな……イベントなんかで使われるようなキャラクター系のクマとは思わなかった。



 茶色くて、頭が大きくて、クリッとした目が虚空を見詰めている。

 そのまま風船でも配っててもおかしくない風貌。



 まあいいや。しゃーない。

 このままで行こう。



 逆に初っぱなから心理的な揺さ振りを与えるには丁度良い見た目かもしれない。



「どんな感じ?」



 一応、調子を聞いてみる。

 すると着ぐるみからプゥルゥの可愛らしい声が上がる。



『ボクのなまえはプゥルゥ。プゥさんってよんでね』



「……」



 その見た目だと、いよいよ洒落にならなくなってきたぞ……。



 と、とりあえず……これはこれでいいとして次へ行こう。



 俺は森の道を魔王城に向かって進む。



 ついでだから、歩きながらバナーネの皮とか、各種罠を設置しながら歩く。



 そんなことをしているうちに現れたのはイリス・ゴーレムだ。



 こいつには騎士鎧ナイトアーマーだったな。



 さっきと同じように合成して着せてやる。



 とは言っても、作ったアイテムをそのまま彼に向かって付与するだけで簡単に着せてやることが出来る。



 サイズも自動調整されるし、まるで魔法みたいだ。



 すぐに銀色に輝くフルプレートアーマーを着込んだ巨体が目の前に現れた。



「おお、なかなか様になってるじゃないか」



 普通に格好いい。

 それに、こんなに大きなサイズのフルプレートアーマーなんて見たことも無いし、立ってるだけで威圧感がある。



 しかもさっきから不動の状態。

 それが何をしてくるのか分からないといった不安感を誘う。



 これは想像してたよりもいいぞ。



「その状態で動ける?」



 そう尋ねると、ガチャガチャとプレートが擦れ合う音が上がる。



 スタスタと歩き始めたのだ。

 それだけじゃなく、飛んだり跳ねたり結構機敏に動いてる。



 とてもあの重力級の鎧を着ているとは思えない動きだ。



 その格好でそれだけ動けたら、見てる方はビビるよな。



 彼は一通り動けるところを見せてくれたあと、最後に前にもチャレンジしてた、あや取りをやり始めた。

 でも……、



『あ……う……』



 案の定、絡まって動けなくなってた。



 やっぱり、それだけは無理なんだな……。



 じゃあ、次へ行こうか。



 またまた森の道を進む。



 次に見えてきたのは……シャル・ゴーレムか。

 彼は魔法使いの服を着せる予定だったな。



 手慣れた動作で、それを合成して着せる。



 出来上がったのはフード付きのロングコートのような服。

 素材の一つである青インドル草の効果なのか、渋いインディゴブルーの生地が格好いい。



 ゴーレムの顔はフードの中で不気味な影を作り、良い感じに凄腕の魔法使い感を出している。



 やべっ、強そう……。



 でも、実際には魔法は使えないので、どこまでハッタリが効くかにかかってるな。



 よーし、この調子で次へ行こう。



 またまた森の道を進むと、魔王城の入り口付近に到着。



 ここは偽四天王が守る最後の砦。

 キャスパーゴーレムが守る場所だ。



 到着と同時にもう考えるまでもなく合成を終えていた。



 彼に着せたのは格闘家の服。

 格闘戦が得意なキャスパーにあった服装だ。



 と、思ったのだが……。



「えーと……これはなんというか……」



 白い麻の胴着に黒い帯。

 それはまさしく……、



 空手着だった!



「着ぐるみと同じくらい世界観に合ってないぞ!」



 しかもキャスパーの格闘スタイルであるムエタイ風の体裁きとも微妙にミスマッチ。



 キャスパー・ゴーレムはその格闘家の服を着て、今も演舞を行っているけど、なんか新しい種類の格闘技にすら見えてきた。



 どちらかというと対戦格闘ゲームに出てくるキャラクターみたいな雰囲気はある。

 道着から出たマッチョな腕や足はパワフルな感じがして格好良いことは確か。



 まあ、こういうものとして見て貰うより他は無いな。



 じゃあ次は最後。



 城の中へと入り、玉座の間へと向かう。



 玉座には俺の影武者が座っているが、その隣にアイル・ゴーレムが控えていた。



 彼……というか、彼女と呼んだ方がいいんだろうか?

 ゴーレムに性別は無いので分からないが、アイル・ゴーレムには踊り子の服だったな。



 それには、先程イリス達と一緒に取ったシェルビーズを使う。



 早速、作って着せてみた。

 結果――。



「……」



 言葉が出なかった。



 ゴーレムの体にシェルビーズが細く連なって、きわどい水着のような形を作っている。



 パッと見は、ゴーレムのまんまだ。

 それくらい何も着てないように見える。



 なんか体の上でキラキラしてんなー……くらい。



 そういえば、正式名称はあぶない踊り子服だったな……と思い出す。



 まいったな……これじゃ前と何も変わらない。

 一番苦労した服だけど……うーん。



 とはいっても今更どうしようもない。

 とりあえずは、このまま行くしかないだろう。



 今後、別の何かが手に入ったら、それに変えることにしよう。



 じゃあ最後にアイル・ゴーレムに調子を聞いてみようか。



「どんな感じだい?」



 すると、アイル・ゴーレムは彼女の声でしゃべり出す。



『魔王様、私……ドキドキしてきちゃいました……ハァハァ』



「……」



 アイル・ゴーレムは彼女アイルが言いそうな台詞を吐きながら、何故だかマッスルポーズのようなものを決めていた。



 と、俺達がそんな事をやっている、そこへ、



「あ、魔王様、こちらにいらしたんですか。お茶をお入れしましたので宜しければ……」



 そんなことを言いながら玉座の間に入ってきたのは本物のアイルだ。



 彼女は、あぶない踊り子服を着て俺にポージングを見せつけるアイル・ゴーレムの姿を目撃した途端、氷像のように固まった。



「あ……これは、あの……」



 俺が説明しようとしたその時、アイルは青ざめた顔で卒倒してしまった。


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