第167話 邪竜の騎士

〈勇者レオ視点〉



「なんて破壊力だ……」



 レオは惨状を目の当たりにして呆然と立ち尽くしていた。



 奇っ怪な熊が突然の自爆。

 地面が抉られるほどの威力を発揮していたからだ。



 だが幸い、こちらの部隊に被害は無い。

 全てが絶対防御スヴェルの庇護下にあったからだ。



 ――咄嗟の判断でスキルを展開して助かった。アレを喰らってたら人の体はミンチ状態だろう。それではさすがにヒルダの回復も及ばないと思うからな……。



 それはそうと気になる事がある。

 あの熊の中身だ。



 奴が爆散した際、中から石の礫が無数に飛び散ったのを見た。

 まるで大きな岩が砕け散ったみたいに。

 そして、石以外のものは飛散したようには見えなかった。



 ――熊の中身はただの岩だった? 岩が着ぐるみを着ていたのか? いや、ただの岩がしゃべったり、動いたりはしない。となると……アレしかないだろうな。



 ゴーレムだ。



 ――ゴーレムに着ぐるみを着せて侵入者の相手をさせていたのか……何の為に?



 そういえば、この死霊の森の周りにはやけにゴーレムが多い。

 この場所にやって来るまでに見てきたが、異常とも言える量だ。



 ――なぜゴーレムばかりをそんなに配置するんだ?



 魔王の意図する所が分からない。



 ――だがここは、奴が自爆してくれたことで無駄に戦う手間が省けたと考えよう。



「異常が無いなら前進するぞ」



 レオがそう言うと、兵士達は我に返り、足を進め始めた。



 そこから先も相変わらずの罠の量だった。



 古典的な落とし穴から始まり、地面から炎を吹き出す魔法トラップのようなものまで存在した。



 だがそれも大勢連れてきた兵士達が身代わりになることで罠の位置を把握、切り抜けることに成功していた。

 当然、傷付いた兵士はヒルダが回復するので、彼らは都合の良い罠発見器と化していた。



 そこは当初の予定通りの仕事をしてくれていると言っていいだろう。



 そのまま着実に前進を続けていると、またもや道の真ん中に立ちはだかる巨体が見えてくる。



 しかし、今度は熊の着ぐるみではない。

 全身銀色のフルプレートアーマーを着込んだ騎士だった。



 その体の大きさは尋常ではない。

 人間の三倍はあろうかという身長だ。



 だが、この巨体に覚えがある。

 先の熊とほぼ同じ身の丈だ。



 ――まさか、こいつの中身もゴーレムなのか?



 全身を隠そうとしている辺り、可能性は高い。



 その事も含め、こちらから問い質そうと口を開きかけた時だった。

 騎士の方から声が上がる。



『私は……魔王四天王が一人、イリス……。誇り高き竜の血を受け継ぐ者……』



 またもや見た目とは隔たりのある可愛らしい少女の声が、フルフェイスの兜の中から聞こえてくる。しかも、



「竜……だと?」



 見た目からはそんな要素は何も感じられない。

 翼も無ければ尻尾も無いのだから。



「まあいい、邪魔をするのなら打ち倒すまでだ」



 レオは大盾を構えた。

 兵士達は彼の背後で身構える。



 すると、騎士のアーマーがキリキリを音を立てた。



 ――さあ、また爆発するのか? 同じ手は通用しないぞ?



 レオ達は万全の防御体勢を取った。

 その瞬間だった。



 目の前の騎士が宙に舞い上がったのだ。



「と、飛んだだと!?」



 いや、そうではない。

 それは跳躍だった。



 ただあの重そうな鎧を身につけた巨体からは考えられないジャンプ力だったので、飛んだと感じてしまったのだ。



 飛び上がった巨体は隊列の後方目掛けて着地する。

 そこはレオの絶対防御スヴェルの範囲外だ。



「避けろ!」



 叫び終わる前に、地響きが鳴る。

 既に何人かの兵士が巨体に押し潰されていた。



「うわあっっ!?」



 蜘蛛の子を散らしたように兵士達が散開する。



「ヒルダ!」

「ええ」



 レオの指示でヒルダが後方へ走る。

 そのまま矛を倒れた者達の中央に突き刺し、回復スキルを使う。



 圧死した彼らはそれだけで元の姿に蘇った。



「死を恐れるな! 兵士としての仕事を全うしろ!」



 その言葉で彼らは兵士としての矜持を取り戻す。

 そのまま剣を構え、鋼鉄の騎士に向かって行く。



 敵は見た目とは裏腹に機敏だった。

 鎧姿のまま縦横無尽に飛び回り、兵士達を翻弄する。



「まるで翼でも生えているかのような身のこなしだな……」



 意外にも騎士の戦い方は、その身軽さを利用したパンチとキックという単純なものだった。



 ――騎士の姿でありながら剣すら携帯していないとは……。ふざけた戦い方だ……。



 だが、その豪腕と剛蹴は強烈だった。一殴りで十数人の兵士が薙ぎ倒される。



 ――このままでは消耗戦になってしまう。その前に仕留めなければ……。



 レオは自分の大盾に意識を持って行く。



 ――盾が防御だけではないところを見せてやろう。



 レオはほくそ笑むと、周囲に響き渡るほどの大声で叫んだ。



「おい! 全力で奴の動きを封じろ! そこからは俺がやる!」


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