第130話 進軍?
《ラデス皇帝視点》
城壁内にある中央広場。
そこに帝都に配備されている全ての騎士隊が結集していた。
一般兵や警備兵とは違う、精鋭達。
人数にして三千。
連隊規模である。
彼らの前には白銀の鎧を纏った二人の勇者の姿もある。
ラデス皇帝は今、その広場に突き出たテラスに踏み出し、兵達を見下ろした。
皇帝の姿を認めた途端、全ての兵が一斉に身を正し、敬礼する。
彼は広場全体を見渡した後、第一声を放つ。
「諸君らにも既に伝わっているであろう。我々は一人の可憐な華を失った」
兵士達の間でピリッとした空気が立ち籠める。
「我が愛娘、ラウラである。彼女は憎き魔物の手に堕ちた。何故、彼女のような素直で献身的な娘がそのような目に遭わなければならなかったのか? それは全て下劣な魔物共のせいに他ならない。奴らは服従の魔力でラウラを誑かし、私から、そして我々民から彼女を奪ったのだ。これが怒りに打ち震えずにいられるだろうか? いいや、振り上げた拳は必ず愚劣な魔物共に打ち下ろされなければならない! 思えば我々人類は、幾数千の太古より魔王とその魔物達に苦しめられてきた。何故だ? 奴らが心無き者だからだ! 膨大な資源を独占し、魔力を以て君臨する卑劣な魔物共。だが、そんな時代も今ここで終わる。我ら選ばれし帝国の民がこの世界の覇権を取るのだ! 醜悪な魔物共に好き勝手やらせてはならない。我々はラウラだけでなく八人の英傑をも失った。この悲しみを忘れてはならない! この心の痛みを怒りに変えて、魔物と愚鈍な統率者、魔王を討ち滅ぼすのだ! それが失った者達への追悼となる! 今が決起の時だ!」
「おおおぉぉぉぉぉぉぉーっ!!」
兵士達は一斉に叫びを上げた。
「他の領地の騎士隊と合流し、勇者二人を軸に総勢一万を以て、魔王城に向け進軍する! 出陣は二時間後だ。それまでに準備をせよ!」
再び雄叫びが上がった。
皇帝は思う。
愛娘を出汁に士気を高める……か。
我ながら妙案ではないか。
ほくそ笑みながらマントを翻す。
すると、目の前に血相を変えた宰相の姿が視界に入ってきた。
「陛下……」
「どうした?」
白髪交じりの彼は耳打ちしてくる。
「ラウラ姫が民に対し、帝都の郊外で食料の配給を行っているとの情報が入って参りました……」
「……なんだと!?」
「しかも城内の食料庫が全て空の状態になっているようで……」
「っ!? すぐに止めさせろ。それとラウラは魔物に操られているということにするのだ」
「はっ」
宰相は慌てたように室外へと出て行った。
「余計な真似を……」
皇帝は歯噛みしながら、テラスから室内へ戻ろうとした。
その時だ。
カチッ
足元で何かスイッチのようなものが押された感触がした。
「……? なんだ?」
床を調べると、床石が僅かに浮いていて押し込めるようになっている。
設計ミスや劣化によって床石が浮いたわけではない。
明らかにそういう作りとして設計されているように思える。
こんなものを設置させた覚えはないぞ……。
カチカチカチカチカチカチ……。
何度か連続で踏んでみるが、何が起きるというわけでもない。
魔王討伐の件が一段落したら、修理工を呼んで直させるか……。
そんなふうに思っていた時だった。
「おいっ! あれはなんだ!?」
広場の方が騒がしい。
テラスに出て下を見下ろすと、兵士達が空を指差し、騒いでいた。
皇帝も上空に目を向ける。
すると、遙か彼方の空に真っ赤に燃える何かがこちらに向かって落下してきているのが分かった。
「なんだ……? あれは……」
そんな中、兵士達の間で不安が伝播し始める。
「おいおい……こっちに来るぞ!」
「ヤバイんじゃないか!?」
「逃げろっ! 落ちてくるぞ!!」
「うわぁぁぁあっ!?」
広場の出口に兵士が詰め寄せ、大渋滞を引き起こしている。
騒ぎの中、皇帝は呆然と上空を見詰める。
球体だか、平面だか分からない何かが、燃えながらぐんぐんとこちらに近付いて来る。
驚愕に顔を歪めながらも、心の中はシンと静まり返っていた。
――昔、読んだことのある古文書の中に、確かこんなものが出てきたな……。
「これはもしや……
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