第129話 特別配給
「皆の者、焦らず並ぶがよいのじゃ。物は充分にあるでな」
ラウラは満足気な表情で、列を成す人々に向かってそう言い放った。
時は東の空が赤く染まる早朝。
場所は帝都を囲う石壁の外。
低木と雑草しか生えていない荒野だ。
そこに今、荷物が山積みにされた多くの荷車が並べられ、その前にラデスの民が大行列を作っていた。
何故こんな事になっているのかというと、ラウラが自国民に向けて臨時の食料配給を行うと宣言したからだ。
普段から皇帝の圧政に苦しんでいる国民は、その食料事情も豊かとは言い難い状況。
なので実際に食料が配給されると聞けば、こんな早朝からでも民が集まってくる。
これらは俺が民を石壁の外へ連れ出して欲しいと頼んだが故、ラウラが行った事だった。
「しかし、食料配給とは考えたな」
俺は瞬足くんを使ってラウラに話しかけた。
「ほとんどの民が厳しい食料事情の中、やりくりしておるからのお。一人に付き小麦一袋、干し肉四つ、燻製魚三尾、チーズを一塊とくれば、これに誘われない者はそうそういないじゃろう。しかし、これが実現出来たのは魔王様のお力があってのことじゃがのお」
彼女は言いながら、せっせと働く兵士達に目を向ける。
荷車から降ろした食料を民に配っているのはラデスの兵士達。
十数人いるその中には俺がピコピコハンマーで叩いたあの赤肩の小隊長の姿もある。
「こうも簡単に兵士を従順に手懐けてしまうとは、魔王様のお力は素晴らしいのじゃ」
正確には従順じゃない方が良く働いてくれるんだけどね。
実際、あの赤肩の小隊長は、
「なんで、おめぇらに帝国の食料庫に備蓄してある貴重な食い物をやらなきゃなんねんだよ! これは、てめえらの為の物じゃねえんだ! 消えやがれ!」
なんて言いながら、笑顔で民に食料を配っていた。
相変わらずのツンデレっぷりである。
逆に貰う側の民は、「あの人、照れ隠しなのね」とか言って真に受けていない様子。
食料配給のアイデアはラウラだが、この状況を作り上げたのは彼女の言う通り、俺だ。
赤肩の小隊長の他、何人かの兵士にピコピコハンマーを使い、帝国の備蓄食料庫から食べ物を持ち出せと命令したのだ。
これだけの量を捌くには人員が必要だからな。
面倒な警備兵もピコピコハンマーで言うことを利かせ、かなりスムーズに食料を郊外へ運び出すことに成功していた。
あとは姫の名前で御触れを出せば、民はゾロゾロと集まり出す。
民にとってラウラの評判は良いらしいからな。
現に彼女の目の前で食料を受け取ろうとしている白髪のお爺さんは、ラウラを拝むような仕草を見せていた。
「姫様、私共の為に、このようなことを……。本当にありがとうございます。助かります」
「うむ、構わぬぞ。それより炊き出しもあるでな。そちらもちゃんと貰って行くのじゃぞ」
「はい、ありがたく頂戴致します」
食料を受け取ったお爺さんが足を向けた先には、焚き火の煙が上がっているのが見える。
そこでは別の兵士達が大鍋でスープを作り、皆に配っていた。
他にも鉄板の上で練った小麦を焼いただけの無発酵パンもある。
配給だけでなく、この炊き出しが重要。
皆、パンとスープを貰うと、当然その場で食べ始める。
そう、
しばらく、この場に留まってもらうことが出来るのだ。
こうしている間に、ラデス皇帝は動き出すはずだ。
実際に対峙したからこそ分かるあの性格と、置かれた状況から鑑みるに朝一番で行動を開始するだろう。
その時にどうなるか?
それが見物だ。
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