第97話 魔王レストラン


 風呂で寛ぐリリア。

 その頭から★が飛び出していた。



 思わぬ所で出たな……。



 配下に引き入れた時には出る気配無かったのに……。

 こんな時に出るとは……。



 相変わらず読めない奴だ。



 それはともかくとして、ステータスを確認してみよう。




[ステータス]

 名前:魔王

 レベル:9   ★:1065

 HP:5110/5110

 MP:3980/3980

 攻撃力:791   防御力:704

 素早さ:556   魔力:728

 運:734

 特殊スキル:飢狼罰殺牙グラトニーハウンド(Lv.27) 炎獄砲牙ヘルフレイムカノン(Lv.36)




 む……。

 少しは期待したのに、ほんの僅かしか増えてないぞ。



 まあ、風呂に入って良い気分になっただけだからな。こんなもんか。

 それに最初の頃と比べて、レベルアップの為の上げ幅が大きくなってるってのもある。



 レベル1の頃だったら、充分レベルアップに足りる量の★だし。



 ともかく、★が増えただけでも良しとしよう。



 で、リリアはどうしてるのかとスクリーンに目を向けると、いつの間にか風呂から出ていた。



「ん? どこ行った?」



 複数のカメラ映像を立ち上げて彼女の姿を探す。



 すると、ダンジョンの通路を進む姿が目に入ってきた。

 どうやら男湯の方にあった入り口を発見したらしい。



 さすがは感知パーセプションのスキル持ちといった所か。



 そのまま彼女は罠有りの通路をスルスルと進み、同じ第一階層にある食堂へと抜ける。



 最下層へと飛べる魔法の扉Ⅱは、その食堂の隅っこに設置してある。

 リリアにはその扉から、俺達のいるこの場所まで来てもらいたいのだが……。



「うわっ、なんですかここ。テーブルとイスが一杯並んでるー」



 彼女はダンジョンの中とは思えない光景に目を奪われていた。



 するとカウンターの中から、声が上がる。



「イラッシャイマセ、マオウレストランヘ ヨウコソ」



 ウェイター役として置いといたゴーレムリーダーが接客してた!



「ええっ!? ここレストランなの??」

「サヨウデス」



「じゃあ、じゃあ、何か料理を出してもらえるの?」

「モチロンデス」



「本当に!? 私、ラデスからの長旅で、お腹空いちゃって……。何か食べたいなー。あ……でも、お金無いや……」

「マオウサマ ノ ハイカノカタ ハ スベテ ムリョウデス」



「マジで!?」



 リリアは目を見張った。



「タダイマ ハ [バットカレー][ジルジルジュース]ノミノ ゲンテイメニュー ト ナッテオリマス」



「うん、それでいいですよ! 両方下さい!」

「カシコマリマシタ」



 俺のアイテムボックスから、MP回復用として作り置きしておいた同料理が消える。



 つーか、なに食べ始めてんだよ!

 寄り道しすぎだろ!



 そんなことしている間に、席に腰掛けた彼女の前にカレーとジュースが出される。



「わあ、美味しそう! いっただっきまーす! はむ……もぐもぐ……はむ……っんん!? んんまっ!!」



 彼女は目を見開く。



「何これ、美味しすぎるんですけど! もう一皿下さい!」



 食べるの早っ!



 そのまま彼女は二皿のカレーを完食し、満足そうな笑みを浮かべていた。



「ふぃーっ、美味しかった! で、私……何しにここに来たんでしたっけ?」



 忘れてるだと!?



 ポンコツすぎて心配になってきたぞ……。

 よく勇者でいられたもんだ……。



「あ、思い出した! ジュースがまだ残ってた!」



 そっちかよ!



「ぷはぁ……そうだ! 飲んだら思い出した。第十階層まで行かなくちゃいけないんだった。魔王様は確かこの場所に、そこまでジャンプできる魔法の扉があるって言ってたような……」



 そこは覚えてるんだな……。

 まあいいや、さっさとそこを通ってやって来い。



 そんなことを思っていると……。



「うーん……おっかしいなー……見当たりませんね。もしかして、こっちの通路かな?」



 何を思ったのか、第二階層へと続く通路の方に足を向け始めた。



 いや、そっちじゃないって!



 さすがの感知パーセプションスキルでも魔法の扉Ⅱは見破られないようだ。

 扉のセキュリティの高さが証明されたのはいいけど、彼女は通路を進んで行ってしまった。



「おーい、そっちじゃないぞー」



 食堂内のメダマンを使って呼びかけてみたが、もう声が届かない。



 最初に扉の正確な場所を教えておくべきだったな。



 でもまあいっか、第二階層の扉から入ってもらえば。



 第一階層から第二階層へと続く迷路。

 あそこは罠の量が尋常じゃ無い。



 そこを感知パーセプションスキル持ちの彼女がどうやって抜けてくるのか、ちょっと興味が沸いたのだ。



 今後、そういったスキルを持った勇者がやってきた時の参考になるしね。


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