第98話 罠てんこ盛り通路


 俺はダンジョン第二階層へと向かったリリアをカメラで追っていた。



 彼女がどんなふうに罠をクリアして行くのか興味があったからだ。



 さすが感知パーセプションのスキル。

 複雑な迷路に多少迷うこともあるが難無く進んで行く。



 そしてやってきたのは例のT字路。



 アイルと共に色々、罠を仕掛けた場所だ。



 まずは頭上から降ってくるスーパー金ダライ。

 彼女はそれを発動させることなく、床スイッチを避けて進む。



 次に待ち構えているのは、床に仕掛けたファイアトラップ。

 その炎に驚いてバナーネの皮を踏んでしまうように設定したが……。



 彼女はファイアトラップを一度見てるし、感知パーセプションスキルもあるしで簡単に迂回される。



 これは本当に敵に回られると厄介だな……。



 なんて思っていると、彼女の歩みが止まった。



 ん、どうした?



「じー……」



 何かと目が合ったようだ。



 別角度のカメラで確認してみる。

 すると、どうやら突き当たりに設置されている鉄の処女アイアン・メイデンを睨み付けているようだ。



 あれは人形の形をしているから、ちゃんと頭もあって顔も付いてる。

 彼女は、その目をさっきからじっと見つめている訳だが……。



 何がしたいんだ?



 そう思った次の瞬間だった。



 リリアの顔が驚愕に染まる。



「あわわ……わ……」



 ゴンガン、ゴンガン、ゴンガン



 突如、何か重い物を叩き付けるような音がダンジョン内に響き始め、震動でカメラ映像が揺れる。



 ど、どうした!?



 俺は慌てて別地点のカメラに切り替える。

 すると、彼女が表情を凍り付かせたものの正体が見えてくる。



 なんと、鉄の処女アイアン・メイデンが、その重たい巨体でジャンプしながら通路を迫ってきていたのだ。



 えええぇっ!?



 そういえば、詳細プロパティに〝夜な夜な勝手に歩き出す個体もある〟って書いてあった気がするけど、それがこれか!



 つーか、今、夜だっけ?

 ダンジョンの中にいると昼夜が良く分からなくなる。



 と、そんなことは今はどうでもいい。



 鉄の処女アイアン・メイデン、腹の扉をバタバタさせながら、内部にある針の山に取り込もうとリリアに向かって迫ってくる。



「ひっ……!?」



 リリアは咄嗟に壁際に張り付く。

 すると、彼女の姿が消えた。



 恐らく、隠密ステルスのスキルを使ったのだ。



 って、あんな感じなんだな。

 まるでカメレオンみたいだ。



 そんな彼女の前を鉄の処女アイアン・メイデンが通り過ぎて行く。



 リリアはホッと息を吐いて胸を撫で下ろした……らしい。

 らしい、というのは実際、姿が見えないから。



 自動警備システムを積んだ自立型ロボットみたいになってる鉄の処女アイアン・メイデンをそのままやり過ごす。



 ……と思ったら、そうもいかなかった。



 鉄の処女アイアン・メイデンが、ピタッと動きを止めたのだ。

 そして、ググググッと身を反転させ、まるでリリアの姿でも捉えたかのように目が光を放った。



 もしかして……鉄の処女アイアン・メイデンって、隠密ステルスを見破れる!?



「………いっ!?」



 見つかったと思ったのか、リリアはスキルを解除して走り出した。



「いやぁぁぁぁっ、来ないでぇぇっ!」



 彼女のあとを鉄の処女アイアン・メイデンが、扉をバタつかせながら追いかけて行く。



 しかも結構早いぞ。



 リリアは半泣きで一目散に逃げた。



 通路の角を曲がり、とにかく全速力で走る。

 すると、彼女の鼻先をスイングカッターが掠めた。



「っ!?」



 息を飲みながらも辛うじてかわす。



 そういやスイッチを管理してるメダマンに、リリアは侵入者から除外するように伝えてなかったな……。



 そのまま小部屋の中に逃げ込む彼女。



 当然、そこには無人機銃ターレットと化した大弓が待ち構えていることを俺は知っている。



 案の定、彼女が部屋に入った途端、斉射開始。

 部屋の中を無数の矢が飛び交い始める。



「にょわわぁっ!?」



 あまりの激しい攻撃に、リリアは変な悲鳴を上げながら飛び回る。



 しかも、隠密ステルスで姿を消しても大弓は正確に彼女を狙って撃ってくる。



 どうやら、動く鉄の処女アイアン・メイデン同様、大弓に対してもそのスキルは無効なようだ。



 そんな状態でも彼女が全部避けることが出来ているのは、エルフならではの身軽さなのか? 元勇者が故の身のこなしなのか?



 とりあえず、床に仕掛けてあるファラリスの雄牛入りの落とし穴を避けながら逃げ回っているあたり、とんでもない身体能力である。



 そんなとんでもない状況の中に先程の鉄の処女アイアン・メイデンまで乱入してきたもんだから、部屋の中はカオスな状態に。



「ぎゃわぁぁぁっ! し、しぬぅぅぅっ!?」



 さっきまで死にたがってた奴の台詞じゃないなと思いつつも、部屋の天井付近に設置してあるメダマンから助言する。



「大弓の後ろに通路があるから、そこから抜けられるぞ」



 俺がそう告げると、彼女はその小部屋から命辛々、脱出した。



          ◇



「はぁはぁ……し、死ぬかと思いました……」



 息切れしながら、リリアはなんとか第二階層の広間に到着していた。



 そんな彼女に声をかけてくる者がいる。



「ん……お前さんがリリアかのぉ?」



 のっそりとした声で投げ掛けるのは、広間の真ん中に鎮座するトントロだった。



「大っきな、カ……カエルさん?」



 きょとんとするリリアに、トントロは優しく告げる。



「魔王様から聞いておる……。第十階層への扉はワシの背中側にあるでな……そこから行くと良いじゃろう」


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