第221話 高見の見物


 これでトーナメントの最初の組み合わせが全て終わった。



 次からは準決勝に進む。



 パープー VS アイル

 キャスパー VS リリア



 の戦いだ。



 なんだか予想外の勝ち残りメンバーだが……。

 これはこれで面白そうでもある。



 早速、次のカードであるパープーとアイルが舞台の上に登っていた。



「アイル、ごめんね」



 舞台に上がるなりパープーがそんなことを言ってきた。

 これにはアイルも首を傾げる。



「何故、謝るのですか?」

「だって、ボクがかっちゃうから」

「なっ……」



 アイルは息を詰まらせた。

 いきなり余裕の勝利宣言をされたのだから、そうもなるだろう。



 すると彼女は仕切り直すように咳払いする。



「……そんなこと言って、宣言したことを後悔しますよ?」

「ふふん、どうかなあ?」



 当人達はのほほんとした口調で言っているが、周囲には張り詰めた空気が広がっていた。



 ――さて、どうなることやら……。



 試合が始まるのを見守っていると――、

 唐突にピピッという通知音が鳴った。



 俺のステータスウィンドウからだ。



 ウィンドウを開いて確認すると、ユウキ達、ゼンロウの勇者に付けさせたメダマンからの報告だった。



「おっ、もうそんな頃合いか」



 俺が思わずそう口に出すと、観戦者だけでなく、試合を始めようとしていた二人まで俺の方に興味を持ったのか近付いて来る。



「どうなされたのですか? 魔王様」

「なになに、どーしたの?」



「いやなに、例のゼンロウの勇者が目的の場所に着いたようなんだ」



 上空からの映像を見ると、どうやら誰かと対峙しているようだ。



 ユウキ達の向かいに立つ大柄な男は白銀の鎧に戦斧を背負っている。



 ――もしかしてあれが……彼の言っていたレジニアの勇者か?



「今後の為に勇者の方を見ておきたいんだけど、ちょっと試合を中断してもいいかな?」



「ええ、もちろんですとも」

「いいよー」



 試合中の当人達から許可が出たので、俺はウィンドウに集中することにした。



 パープーは融合を解いて元の姿に戻り、アイルは傍に寄ってくる。

 他の皆もモニターが見える位置に移動して、一緒に勇者VS勇者の観戦が始まった。



「おっ、レジニアの勇者が何か言ってるぞ?」



 メダマンが拾う、高性能集音マイクの音に耳を傾ける。

 すると、大きな体格に見合った野太い声が聞こえてきた。





「我が名はモルガス。貴様の言うとおり神聖レジニア皇国の勇者だ」


「ああ、やっぱり。私の勘が当たってましたね」

「で、ござるよ」



 ユウキとカルラは、相対している重苦しい雰囲気の勇者とは正反対に、軽い調子で答えた。



 ――あいつら……どこでもあんな調子なんだな……。



 彼らの反応に対してモルガスは表情一つ変えずに言葉を返す。



「何故、我がここに来ることを知っていた? まるで予見していたようではないか」

「まあ、それは色々ありましてね。詳しく話すなら――秘密です」



「……」



 モルガスの眉間に微かに皺が寄るのが見えた。



「それにレジニアの存在を知る者はそう多くないはずだが?」

「そのようですね。私達は少しばかり運が良かったようです」

「……」



 モルガスはそれ以上、そのことについて聞くのは諦めたようだった。



「先ほど、我を倒しに来たと言ったが……どうせその訳も話さぬのだろう?」

「それは話せますよ」

「何?」



「レジニアをぶっ壊し、これ以上、勇者の誕生を止めさせる為です」

「……!」



 今まで落ち着いた様子だったモルガスが目を見張った。



「貴様……どこまで知っている?」

「さあ? そんな事よりも始めませんか? 殺し合いを」

「……」



 はぐらかすユウキに彼は覚悟を決めたようだった。



 モルガスは背中にある戦斧を手にした。


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