第11話 大浴場

 プゥルゥは恥ずかしそうに縮こまる。

 そこで俺はそっと彼女の体から身を離した。



「わ、悪い」

「い……いえ、まおうさまはわるくないよ。ボクが、びっくりしただけだから……」

「そ、そう……」



 このスライムがメスだってことには驚いたが……そもそもスライムって性別あんの!?



 本人が言ってんだから、そうなのかもしれないけど……それにしたってスライムだしなー。

 どう反応するのが正しいのかが、いまいち分からない。



「それより、ものすごくちかくにミズをカンジるよ」

「えっ、ホントに?」



「ここ、ここ、このヘンがあやしいよ」



 プゥルゥは自分の体を細く伸ばして俺の足元を指し示す。

 そこには、でっかい板状の岩が埋まっていた。



「よし、じゃあやってみようか」



 俺はその岩を砕くべく、腕を真下に向ける。

 そして、強欲の牙グリーディファングを使おうとした時だった。



 ピキッ



 まだ何もしていないというのに岩の表面に亀裂が走った。

 それは真下から何か大きな力で押し上げられているように見える。



 これは、もしかして……。



 俺の中に嫌な予感が過ぎった直後だった。



 ブシュュュュゥゥォォォワワッ



 岩が弾け飛んで、大量の水が噴き出したのだ。



「出たあぁぁぁぁぁ!?」

「ぬわあああああっ!?」



 俺達は水を全身に浴びながら悲鳴のような歓声を上げる。



 この水源、どうやら思っていた以上の地下水量があるらしく、自らの圧力で噴き出たらしい。

 しかも、



「あっちちっち!? これって、お湯!? 温泉じゃん!!」



 しかも結構な温度。

 沸かす手間が省けそうだ。



 そんなことを思っているうちに水量はどんどん増えて、俺達は一気に地上へと押し上げられる。



「まおうさまあぁぁぁああっ!?」

「プゥルゥウゥゥ!」



 互いの名前を叫びあったのが最後、気付いた時には噴水のようになったお湯と共に地上へ放り出されていた。



 噴出したお湯は、そのまま俺が最初に掘った体育館ほどの空間にどんどん溜まってゆき、落ち着いた頃には巨大なプールのようになっていた。



 あーあ……せっかく掘ったのに、ダンジョンの入り口が風呂になっちゃったよ……。

 まあ、これはこれで持っている素材を上手く積んで行けば、このまま大浴場になりそうだ。



 想像していたよりは、かなり大きな風呂だけど。



「まおうさま、やったね♪」



 玉座の間から、お湯の溜まった地下空間を見渡し、プゥルゥが嬉しそうに言う。



「ああ、プゥルゥのお陰だよ」

「そ、そうかな……うふふ」



 彼女は体をピンクに染めてクネクネと蠢く。



「……」



 相変わらず、こっちはどう反応したらいいのか困る。



「じゃあ俺は、これからこの場所を大浴場っぽく作り替えるよ」

「ボクにも、てつだえるコトある?」



「大丈夫、この強欲の牙グリーディファングがあれば、そんなに時間は掛からないから」



 この規模なら三十分程度でそれっぽく仕上げられるだろう。



「それより、すぐに出来るから皆を呼んできてくれるかい?」

「うん、わかった」



 そう伝えると、プゥルゥはピョコピョコ跳ねながら消えて行った。



 さてと、どうするかな。



 俺は地下空間を眺めながら考える。



 水源を探す為に散々掘ったお陰で、アイテムボックスにはかなりの数の大理石が貯まってる。

 やっぱり、これを床や壁に敷き詰め、浴槽も同様に大理石で形成するのが無難だろうな。



 大体の完成イメージは、日本の銭湯みたいな感じ。

 俺自身、銭湯には実際に行ったことないので、映像作品や漫画アニメなんかに出てくるような銭湯を参考に作って行くしかないけど……まあ、なんとかなるだろ。



 そんな訳で早速、取り掛かる。



 大理石のブロックを現出させて、噴き出たお湯を囲ってゆく。

 排水の為の横穴も作り、それで浴槽があっさり完成。



 壁や床も綺麗に整えたら……一応、男湯と女湯に分けた方がいいだろうな。



 そう思って浴槽中央に大理石で壁を作る。

 ただ、それだと湯の流れが止まってしまうので、水中の一部は繋げておいた。



 あとは脱衣所だな。



 それは石壁ブロックで形成してゆく。

 問題は、まだ扉系のアイテムが作れないことだ。

 このままだと、ドアの無い脱衣所になってしまう。



 仕方が無いので、石壁ブロックで折り返すような通路を作り、目隠しにした。

 公衆トイレの入り口みたいな構造だ。



 浴室内に壁掛け燭台を取り付けたら、それで大浴場の完成だ。

 全部出来上がった所で、改めて客観的に見てみる。



 玉座の間から口を開いたダンジョンへの入り口。

 そこにある階段を降りると、正面に男湯、女湯の二つの入り口が現れる。



 これ……もしここに勇者が攻めてきたら、何を思うんだろうな……。

 普通に考えて、ここに本当の魔王城があるとは思わないだろうな……。



 じゃあやっぱり、改めて掘り直すより、このままこの空間を利用してダンジョン作りを進めて行った方が、良いカモフラージュになりそうだ。



 例えば風呂の奥に本当のダンジョンへの入り口を作るとか……。



 変な発想が膨らみ始めた時、階段を降りてくる複数の足音が聞こえてきた。

 プゥルゥを先頭にアイル達がやってきたのだ。



 彼女達はさっきまでは無かったはずの建造物を視界に入れるや、目を丸くする。

 そこで俺は告げた。



「ようこそ、魔王城温泉へ」

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