第149話 塩を求めて


 とにかく今ある材料で作れそうなのはハンバーグとラーメンかなあってことになったのだが……。



 それらを実際に作るにしても〝塩〟が必要だという結果に至った。



 この世界にも塩はあると思うんだけど……。



「ねえイリス、塩が手に入りそうな場所って知ってる?」



 すると彼女は少し考えて、



「塩……人間の町に行けばある……と思う」

「そっか」



 そうだよな。人間の町に行けば確実にありそうだ。

 しかし、塩だけの為に町に潜入するのもリスクが高い。



 何か他の方法で手に入れることは出来ないだろうか?



 塩といえば海水から作るのが一般的。

 でも、この辺りに海は無い。



 他に塩を得る方法といえば……。



「岩塩か」

「岩塩?」



 イリスは首を傾げた。初めて聞くものらしい。



「昔、海だった場所の地中に海水が濃縮して結晶化したものがあったりするんだ。それが岩塩」

「そんなものが……」



「とはいえ、どこが海だったかなんて地層を調べたりしなきゃ分からないし、この辺りでそんな場所を探すのも一苦労だしなあ……」



 味付けは断念するしかないのかな……。

 なんて思っていると、イリスが平然とした表情で言ってくる。



「しょっぱい石なら……知ってる」

「えっ、マジで!?」



「あんまりお腹が空いたから……森の中に食べ物を探しに行ったことがある……。その時は何も見つけられなくて……空腹でめまいがしてきて……」



 ドラゴンの体を維持するのも大変だなあ。



「もうダメ……って思って倒れ込んだ所に、キラキラ光る綺麗な石が落ちてた……。あんまり綺麗だったんで……食べた」



「食べたんかいっ!」



 その流れでよく口に入れたな……。

 綺麗だから食べたとか、感情と行動が噛み合ってない気がするんだけど!



「それで……食べたら……物凄くしょっぱくて……」



 そこで当時の状況を思い出したのか、彼女は瞳をうるうるとさせていた。

 相当、しょっぱかったんだろうな。



「多分、それ岩塩だ。そんなしょっぱい石なんて他に無いだろうし」

「そう……なの?」



「それって、どこだったか場所覚えてる?」

「うん……覚えてる」



「よし、いいぞ。そこに案内してくれるかな?」

「わ……わかった!」



 イリスは少し頬を染めて嬉しそうに返事をした。




          ◇




 イリスが見たという岩塩がある場所は、魔王城の東側に広がる森の中だった。



 草木が鬱蒼としていて、道らしい道は無い。



「こっち側は初めて来たな……」



「この辺はキャスパーの配下である魔獣が多く住んでる……」

「へえ、そうなんだ」



 そういえば死霊の森の中にはゾンビだけじゃなく、プゥルゥの配下である幻精族も住んでるって言ってたもんな。



 そのまま歩みを進めていると、ふと先を行くイリスが尋ねてきた。



「魔王様……」

「ん? 着いた?」



「ううん……そうじゃなくて……料理のことが聞きたくて……」

「料理?」



「魔王様が言ってたハンバーグとラーメンって……どんなもの?」



 彼女は恥ずかしそうにしながら聞いてくる。



 なるほど、作る前から料理に興味津々ってわけか。

 食いしん坊さんだなあ。



 俺達は歩きながら会話する。



「ハンバーグはとにかく表面がカリッと焼けていて、中から肉汁がじゅわっと出る所が旨さを感じる所かな」

「カリッ……じゅわ……」



 イリスの息が荒くなる。



「かけるソースも色々あってね、トマトソースっていう酸味のあるものや、デミグラスっていうコクのあるソースもあるし、大根おろしやオニオンソース、チーズなんかも美味しいよね」

「はぁはぁ……ソース……のみたい」



 飲んじゃだめだろ。



「ラーメンってのは動物の骨や野菜で取った出汁スープに細い麺を入れて食べるものなんだけど、これにも色々種類があってね。大体、醤油、味噌、塩が味のベースなんだけど、豚骨や鶏ガラなど取る出汁によって全く違う味になる所が深みがあって面白いんだよね」

「はぁはぁ……鶏ガラ食べたい」



 ガラ食っちゃマズいだろ。



「そういえば今、思いついたんだけど、これまで手に入れた材料でパンが作れそう」

「パン?」



「パンってのは小麦を発酵させて焼いたものだよ。ふわふわで雲みたいに柔らかくて、ほんのり甘みとバターの香りが美味しいんだ」

「ふわふわ……」



 彼女は今にも空へ飛んで行きそうな蕩けた目をする。


「コロッケも出来そうだよね」

「コロッケ?」



「前に手に入れた鬼サルマ芋がジャガイモに似てるし、オニル葱が玉葱にそっくりだし、衣はさっきのパンがパン粉に出来るし。油も確かあった気が……。これもホクホクでカリカリで美味しんだ」

「ホクホク……カリカリ……だー……」



 だー……って……?



「うわっ!? ヨダレ! ヨダレ!」



 彼女は口から滝のようなヨダレを垂らしていた。



「あと、そのパンとコロッケが合わさったコロッケパンという究極の食べ物も存在するんだけど……」



 これ以上、食べ物で煽ったらどうなるんだろうと、ちょっと興味本位で言ってみた。

 すると、



「もう……限界……」



 イリスはその場で卒倒していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る