第22話 魔法の扉
ゴーレムリーダーに作業を任せた俺は、玉座の間に戻ってきていた。
いやー良かった良かった。これでダンジョン作りが捗るぞ。
そんなふうに喜びながらも、俺の意識は既に次の事に向いていた。
魔紅石を手に入れたことで作れるようになった物がもう一つある。
魔法の扉だ。
これが実際どんな物なのか、作ってみる必要がある。
早速俺は、玉座前の床にぽっかりと開いているダンジョンへの入り口へ近付くと、そこに向かって魔法の扉を合成してみた。
すると、淡い光と共に床が塞がった。
元の城床に戻ったのだ。
「え? これが魔法の扉?」
普通に穴を修復しちゃっただけなんだけど……。
もしかしてレシピを間違った?
見直してみたけれど、確かに魔法の扉を合成したらしい。
そういえば魔法の扉の特殊効果に
もしかして……。
思うところあって俺はその床の上を歩いてみた。
すると、
まるで床が透けたように俺の体が通り抜けて行く。
そこに床があるのに、それを無視して普段のように、その下にある階段を歩くことが出来るのだ。
魔法の扉とは、周囲の壁に似せた映像のようなものだと理解した。
俺はダンジョンへと続く階段に立ったまま、フェイクの床から頭だけを出し、玉座の間を見渡す。
これって、周りから見たら床から頭が生えてるか、生首が転がってるようにしか見えないだろうな。
そんな悪趣味な遊びをしていた時だった。
「ぎゃあああああああっ!? 魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「え?」
背後で悲鳴が上がったので、そのままの状態で振り返ると、そこには顔面蒼白のアイルが立っていた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? う、動いたぁぁぁぁっ!?」
彼女は二度驚いて腰を抜かしてしまった。
どうやら本当の生首だと思ったらしい。
「あ……ああ、ごめんごめん」
俺は頭を掻きながら階段を上る。
床の上にしっかりと全身が現れると、アイルは目を丸くしていた。
でも、すぐに泣きそうな顔になる。
「知らぬ間に……魔王様が無残なお姿になってしまったと……本気で思ってしまったんですからねっ……くすん」
「そ……そう?」
一瞬、驚きはするだろうけど、そこまでじゃあないと思うんだが……。
てか、勇者に対しては残酷なのに、俺に関することだと途端にメンタルが弱いのな……。
「そ……それで、何をしてらしたのですか?」
アイルが涙を拭いながらそう聞いてきたので、ここに魔法の扉を設置したことを伝えた。
「そうなのですか、見た目は周りの床と一緒なのに不思議ですね」
「ああ、カモフラージュにはいいかもしれない。でも、このままじゃ侵入を拒むことは出来ない。と、そこで一つ実験したいことがあるんだけど、協力してくれるかな?」
「ええ、それはもちろん構いませんが、何をすれば良いのでしょう?」
魔法の扉の説明に許可した者しか通れない、みたいな事が書いてあったのでそれを試したいのだ。
俺は設置した本人なので無条件で通れるらしいが、アイルがやったらどうなるのだろう?
「ちょっと、その床の上を歩いてみてくれないか?」
「こうですか?」
彼女は床に見える魔法の扉の上を歩く。
結果は、
「普通の床と変わりませんね。魔王様みたいに下へ沈みません」
アイルは周囲の床と同じように普通に歩いていた。
一応、扉としての役目はちゃんと果たしているようだ。
じゃあ彼女がそこを通れるようにするには、どうしたらいいんだろう?
俺は確かめるように魔法の扉の表面にそっと触れてみた。
すると、扉の上に文字が浮かび上がった。
そこにはアイルの名前だけでなく、キャスパー、シャル、プゥルゥ、イリスの四天王の名前や、ゴーレム達の名前まである。
どうやら俺が認識している人物の名前が出るみたいだ。
それぞれの名前の上にチェックボックスのようなものがあって、今は全員空欄になっていた。
なるほど、これにチェックを入れた者だけが通れる仕組みかな?
俺は試しにアイルの名前にチェックを入れてみた。
「アイル、もう一回、そこを歩いてみてくれるかい?」
「は、はい」
すると、
「わわわ!? 体が通り抜けて行きます。面白いです! 魔王様、見て下さいこれ」
そう言って彼女は俺がやってたみたく床から頭だけ出して見せる。
うわ……ホントに生首みたいに見えるなあ……。
「変なところ真似しなくていいから!」
ともかく、これで仕組みは分かった。
あとは、この扉がどれくらいの強度があるかだ。
「アイル、一旦ちょっと下に降りてくれるかい?」
「あ、はい」
彼女が階段を降りると姿が完全に見えなくなる。
そこで俺はアイルのチェックボックスを外してみた。
「どんな感じ?」
「扉が閉まってます」
床下から声が聞こえてくる。
「じゃあ、その扉をアイルが持ってる力全てを出し切ってもいいから破壊してみてくれない?」
「え、いいんですか?」
「ちなみに聞いておくけど、アイルが本気出すとどれくらい強いの?」
「人間の国、一つくらいなら私一人で制圧出来ますし、片手で山一つ消し去るくらいの魔力は持っております」
「へ、へー……」
見た目に寄らず、結構な強さなんだな……。
「じゃあ、始めていいよ」
「承知しました」
コンコン
程なくして、床下からノックをするような音が聞こえてくる。
ゴンゴン
ちょっと強めのノック。
ゴガンッ
何かが、小さい物が当たったみたいな音。
どれもこれも本気で壊そうとしているように感じない。
「ねえ、ちゃんとやってる?」
そう尋ねると、
コンコココンコンッ、ドガゴンッ
そんな音がして静かになってしまった。
何かトラブルでも起きたんだろうか?
気になった俺は
「さっきから、何してんのさ……って、ん?」
目の前に現れたアイル。
彼女は俺の姿を見るや否や涙で顔をしわくちゃにする。
「えっぐ……一生懸命本気でやったのに……えっぐ……壊れないんです……ぐすん」
それはまるで、誤ってどこか暗い場所に閉じ込められてしまった子供のような様態だった。
どうやら大分、頑張ったらしい。
それは地下の壁が業火で炙られたように煤けていたからだ。
ふざけてたように聞こえたけど、扉の方が酷く頑丈だったっぽい。
とりあえず、この魔法の扉というものは、かなり高い防御力を期待出来るものだということが分かった。
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