第23話 カモフラージュ
とりあえず魔法の扉の仕組みと、その頑丈さが分かったわけだが……。
俺の中には不安が広がっていた。
「それにしても、魔王様が作って下さったこの魔法の扉、途轍もない強度ですね。感服致しました。これなら勇者が来ても、こじ開けることは不可能でしょう」
アイルが嬉しそうに言う。
「そうとも限らないよ」
「えっ……どうしてですか?」
「確かにこの扉は素晴らしい強度がある。でも、それって扉だけなんだよね」
「それって……」
彼女は何かを悟ったようだ。
「この扉の周りの床、それは普通の床なんだよ。だから、例えば扉の隣の床をハンマーか何かでぶち壊せば簡単に侵入出来てしまうわけ」
「……」
「それを防ぐには、極端な話、この城全体を魔法の扉と同等の強度がある建材で作る必要がある。でも、今の段階ではそれは無理だからなー」
もしかしたら今後、レベルが上がって行けば、そんな建材が作れるようになるかもしれない。
でもそれはあくまで予想なので、今は今ある物だけでなんとかしなくちゃならない。
「まあ、これだけでも大分、侵入の時間稼ぎにはなるとは思うから。無いよりはずっといい。実際、アイルは出られなかった訳だし」
「もうっ……魔王様……」
アイルは拗ねたように頬を膨らませた。
ひとまず、魔法の扉は皆が通れるように設定しておいた。
それはともかく、
アイルが言うには勇者がここにやってくるまで最短で一ヶ月ってことだから、時間的にもそんなに余裕が無い。
綿密なスケジュールを組んでやって行かないと間に合わないかもな。
ダンジョンの方はあの調子だと結構早めに出来上がりそうだけど、それだけじゃただの穴にすぎない。
そこに色々、仕掛けを作ったり、罠を張ったりすると、もっと時間が必要になってくる。
とは言っても出来上がらないうちは何も手を入れられないのも事実。
そうなると今出来ることと言ったら、地下のことではなく――、
地上のことだ。
この魔王城、いずれダンジョンが出来れば引っ越しを行い、もぬけの殻となる。
でも、この城の場所はバレてる訳だから当然、勇者がやってくる。
その時に誰もいなかったら勇者はどう思うだろう?
総出で逃げた? ――考え難い。
何かの罠? ――結構、いい線いってる。
どこかに隠れて機を窺ってる? ――まあ、妥当だろうな。
そうなると、真っ先に家捜しが始まるはずだ。
それでダンジョンを見つけられては敵わない。
なので表向きをカモフラージュする必要がある。
恰も魔王城が魔王城のままであるように見せかけるのだ。
その為には何をしたらいいのか?
今ある物で出来る事。
「うん、あれにしよう」
「魔王様、どうなされたので?」
突然一人で納得したような事を口にしたのでアイルが不思議そうに尋ねてきた。
「まあ見てて」
「?」
そう言うと俺は魔物レシピからゴーレムリーダーを作り出した。
魔法陣から出て来た彼の姿は、先のアルファリーダーと変わらない。
「君の名前はブラボーリーダー。君には魔王をやってもらう」
「ふぁっ!?」
アイルが頓狂な声を上げる。
「魔王様!? な、ななななにを!? ゴーレム如きに魔王様の役割を担わせるなど……」
「影武者というか、身代わりみたいなもんだからさ」
「身代わり?」
彼女は、きょとんとする。
そこで俺は玉座に視線を置きながらブラボーリーダーに問う。
「君には、あの玉座に座ってもらって魔王のフリをしてもらう。それっぽい演技は出来るかい?」
「ダイジョウブ」
「ダイジョウブ……って、全然大丈夫じゃないですよ! 見た目が魔王様とは似ても似つかないですし、まんまゴーレムじゃないですか!」
アイルが慌てて言ってくる。
「でも勇者は新しい魔王の顔なんて知らないんじゃないか?」
「え……それはそうですけど、ゴーレムは知ってますよ?」
「ゴーレムみたいな魔王が誕生したかもしれないじゃないか」
「そんな無茶苦茶な……。いくらなんでもバレバレですよ」
「バレるのは想定してるさ」
「へ?」
「勇者だってそこまでアホじゃないだろうし。でも、もしかしたら本当にそうなんじゃないか? という揺さ振りは掛けることは出来る。時間稼ぎにもなるしね。要は演技指導がかなり重要になってくるってこと」
「は、はあ……」
アイルは、いまいちピンと来てないのか不安そうにしている。
「あとは脱力作戦の一つかな」
「脱力……?」
「できれば戦いは避けたいし、怪我人や死人を出したくない。だから勇者の戦闘意欲を奪う方向で何か出来たらなあと考えてる」
それを聞いた彼女は、目が覚めたように瞠目した。
「なるほど! 勇者の精魂を吸い取り、骨抜きにするアイデアがお有りなのですね。そこで怠惰に陥った奴らを一網打尽にすると! さすがは魔王様、私にはそこまでの想像力が欠けておりました。敬服いたします」
「いや……ちょっと、似ているようで似てないけど、まあいっか。概ねそんな感じで」
「はい」
納得いってるなら、そのまんまの方が扱い易い。
「ということだから、アイルはこいつが着れそうな服で、一番品の良いやつ……というか魔王っぽい服を持ってきてくれないかな?」
「承知しました」
アイルは深く頭を上げると、霧のように姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます