第24話 偽魔王
「こんな感じの物で宜しかったでしょうか?」
アイルに魔王みたいな服を頼んだら、それっぽいのを持って来てくれた。
燕尾服みたいな裾の長い服に、真っ黒なマント。
それを実際にゴーレムリーダー(ブラボーリーダー)に着せてみたら、なかなか良い感じの雰囲気が出ていた。
「いいじゃん」
「ありがとうございます」
「でも、よくこんなサイズの服があったね」
言わずもがなゴーレムはかなりの巨体である。
それに合わせたような服が都合良くあるなんて、と不思議に思ったのだ。
「これは魔王様用にと御用意していた服なんです」
「え? 俺……の?」
「どんな体格の魔王様が誕生なされても大丈夫なように、幅広いサイズを仕立てて御用意していましたから。今の魔王様にとっては、この大きさのサイズは恐らくもう必要無いと思いまして……勝手ながらお持ちした次第です」
「なるほど……道理で魔王っぽい訳だ」
それにしても俺が転生する前から服を準備してくれていたなんて……なんというか凄く大事にされている気がして、その心遣いが嬉しい。
「じゃあブラボーリーダー、そこの玉座に座ってくれるかい?」
「リョウカイ」
ブラボーリーダーはのっしりとした動きで玉座に向かう。
もっさりとしているが、逆にその動きが魔王らしい貫禄にも窺える。
アイルは、その姿を気が気でない様子で見ていた。
どうやら玉座に俺以外の者が座ることに抵抗があるらしい。
でも、俺の命令だっていうことの方が何よりも大事らしく、口を噤んでいた。
ブラボーリーダーが玉座にどかっと座る。
なかなかの威風を感じるが……。
「うーん……顔の周りがやっぱりゴーレムだよなあ」
服装や貫禄はバッチリだが、顔はのっぺりとしたゴーレムのまま。
さすがにこのままという訳にも行かないので、どうにかしたい。
「そう言われると思いまして、こんなものを御用意してみました」
アイルが差し出してきたのは、黒くてモコモコとした毛のような塊だった。
「何かの毛?」
「毛のように見えますが、これはパプールという植物の繊維を削ぎ取ったものです。これをこうして……」
彼女はその毛をブラボーリーダーの顔の周りに付け始める。
しばらくして、
「いかがでしょう?」
「おおー、いいね」
ゴーレムの顔の周りにボリュームたっぷりの髭と長めの髪の毛が出来上がっていた。
良い具合に顔が隠れ、これならパッと見、中身がゴーレムだとは分からない。
後は、それっぽいしゃべりが出来れば魔王らしく見えるはず。
早速、演技指導だ。
「じゃあまず、俺の言うことを真似してみてくれる?」
「リョウカイ」
ブラボーリーダーは相変わらずの調子で答える。
ともかく、やってみよう。
「ふはは、良くここまで来たな勇者よ」
「フハハ、ヨクココマデキタナ、ユウシャヨ」
「んー……なんか堅いなあ……」
「ンー……ナンカカタイナー……」
「それは真似しなくていいって!」
自分が出した案だが、先が思い遣られる気がしてきた。
「声質が堅いんだろうなー……。となると……声のトーンを変えることって出来る?」
「トーン、ナニ?」
「例えば俺とアイル、全く声色が違うでしょ? 似たような声は出せるのかなと思って」
「デキル」
「できんのかいっ」
なら、最初からやって欲しかった!
「じゃあ試しにやってみてくれる?」
ブラボーリーダーは一旦、溜を作る。
そして、
『了解です、魔王様。こんな感じで宜しいでしょうか?』
「「!?」」
俺とアイルは揃って刮目した。
特にアイルは俺以上に目を見張っていた。
何故なら、その声色がアイルそっくりだったからだ。
「ゴ……ゴーレムから私の声がしてます……。その姿でその声は……なんか……いやぁぁっ」
怖気が走ったのか、アイルは身震いをしている。
すると、ブラボーリーダーもその真似をして、
『いやぁぁっ』
と叫んでみせた。
「ひぃぃっ……」
アイルは若干退き気味。
ってか、なんで俺じゃなくてアイルの方を真似た!?
「それって、俺の声真似も出来るの?」
『俺、魔王』
「……」
確かに声質は一緒な気がする。
けど、そんな台詞、俺は言わないぞ?
ともかく声真似が非常に上手く出来ることは分かったので、彼には俺の声で演技してもらうことにした。
その後――。
状況別にいくつかの台詞を決めて、それを覚えさせる。
判断に困った場合は全て「で、あるか」で通すように教えた。
「ふぅ……これで一通り対応出来そうかな。偽魔王はこれで良しとして、あとは配下の者達だな」
「え……」
アイルが不安げな顔で見てくる。
そんな彼女に笑みで返した。
「全部、ゴーレムで作ろう」
「ええぇっ!?」
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