第61話 追い込み漁
勇者達はあからさまに動揺していた。
当の勇者も、どう対応したらいいのか分からず、だからいって大勢の手前、退くわけにもいかないといった様子が窺える。
「これはもう勝ったも同然ですね。すぐにゴーレム達で畳み掛けてしまいましょう」
アイルが嬉しそうに言ってくる。
「そうだね。畳み掛けるように森の南側へ追い込もう」
「え……」
彼女は俺の言葉に「ん?」となっていた。
「どうしたの?」
「いえ……なんかもう……このまま勇者達を倒せそうな勢いに感じましたので……」
「倒すと言っても今のままじゃ攻撃できないから」
「……」
「ゴーレムが攻撃しようとすれば、向こうは魔法を放ってくるだろうし。そうするとこっちは石壁か魔法の扉を出すしかない。永遠に防戦一方って感じだよね」
「そ、それはそうなんですが……少しくらいは攻撃しても大丈夫かなあーと……」
「それは危険だよ。ちょっとでも隙を見せればそこから堤防が決壊したように流れ込んで来るってことは良くあることなんだから」
「は、はあ……」
「それに南側の森の道に追い込む作戦は、最初から予定していたことだしね。彼らに偽魔王を倒してもらって、そのまま満足して穏便にお帰り頂く。その予定は変わらないよ。せっかく罠も一杯仕掛けたんだし、勿体ないじゃん」
「罠……!」
その単語を耳にした途端、アイルの瞳が輝いたように見えた。
「そうですね! それがいいですね!」
急にやる気に満ちたのでビビる。
まあ、それはともかく、作戦を遂行しよう。
俺は魔物リストを広げると、付近に配備された全てのゴーレムに告げる。
「じゃあ、勇者達を追い込んじゃって」
そう命じた直後、オスカーリーダーから送られてくる映像に変化が起こった。
「な、なんだあれは……!?」
魔法騎士の誰かが森の中を指差し、声を上げた。
勇者達もカメラも彼が指差す方へ目を向ける。
すると、森の中で赤い光が無数に増殖してゆくのが見えた。
それはゴーレムの瞳が放つ光。
ズシンという重い足音を立て、数え切れない数のゴーレムが森の中から次々に沸いて出てきたのだ。
「おい……嘘だろ……なんだよ、あの数……」
「ここにいるゴーレムだけじゃなかったのかよ……」
「さすがに……あの量は……」
魔法騎士達は口々にそう言い、動揺を隠せない様子。
さっきまで戦っていたゴーレムと同じものが、一度に数千体現れたらそうなるのも当然だ。
そもそも俺は、森の西側からやってくる勇者を想定して、約一万体作ったゴーレムの大半をそちら側に偏って配備していた。
これも警備が手薄のように見える南側へと追い込む為だ。
数で圧倒し、そちら側に行かざるを得ない状況を作り上げる。
「ゆ……勇者様っ!」
魔法騎士の一人が勇者に対して判断を仰ぐような声を上げる。
「ちょっと、どうすんのよ!」
「勇者殿!」
と、急かすような言い方をする。
黙って考えるような素振りを見せていた勇者は、ふと森の南側に目を向けた。
「南側が手薄だ。そっちに移動する」
全員が勇者が指示した方に目を向けると、その表情に希望が蘇る。
「ゴーレムには構うな。あいつらの緩慢な足取りでは、こちらが追い付かれることはない。行くぞ!」
「はっ」
魔法騎士達は従順に返事をし、走り出した勇者に続く。
「おー行った、行った」
想定していた通りに彼らが動き出したのを見て、俺は満足げに言った。
怖いくらいに上手くいったな。
あとはそのまま先に進んで森の道に気付いてもらえるかだが……。
あそこまで開けていれば普通に足を止めると思う。
問題は、あからさまに罠っぽい所だ。
俺はカメラ映像を再び上空のメダマンに切り替えた。
もう、後を追っているオスカーリーダーのカメラでは勇者達を捉えられなくなったからだ。
空のメダマンからは、勇者達の動きが手に取るように分かった。
森の外縁に沿うように南側に向かっている。
が、目標地点に到達するまでには暫く時間が掛かりそうだ。
何しろ死霊の森は広大だから。
なので彼らが到着するまでの間、上空から色々観察することにした。
勇者達の特徴や性格を知れば、対応策が立て易くなる。
幸い彼らは移動中なので、もう少しメダマンの高度を下げても気付かれないだろう。
音声がきちんと拾えるギリギリの所まで降下させる。
すると早速、会話が漏れ聞こえてきた。
「あんなゴーレムとやり合うなんて……聞いてないわ!」
苛立ちの声を上げたのは
「言ってないからな」
「っ……!」
前を行く勇者が短く答えると、彼女は苛立ちを濃くした。
「報酬をアップしてもらわないと、割に合わないわよ」
「それはお前が交渉することだ。頑張れよ?」
「なっ……」
「ま、賢明な王なら多少の融通は利くと思うが?」
「……」
押し黙る彼女に対し、
「あなたはお金のことばかりですね。力ある者は魔を打ち倒す使命を持ってこの世に産まれてきたのです。それだけで充分ではないですか。魔王討伐に助力させて頂けることを喜ばしく思った方がいいですよ」
「あーはいはい。うれしい、うれしい」
それに対し、勇者は特に反応を見せなかった。
こんな遣り取りを聞きながら俺は、
「なるほどね」
と、顎に手をあてながら小さく頷いた。
彼らのことが少し分かったような気がしたのだ。
言葉に性格が滲み出ている。
色々と役に立ちそうだぞ。
ちなみに暫く観察し続けたことで、勇者達の名前も知ることが出来た。
勇者がアレクで、魔法使いがティアナ、聖職者がクルツ……っと。
画面を見ながら確認していると、彼らの動きが止まった。
どうやら森の道に到着したようだ。
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