第143話 トイレ事情


 アズマ豆で酔っ払ったキャスパーが、酔拳使いとなってパワーアップ。

 それを見届けた俺は、ダンジョン最下層にある玉座の間に戻ってきていた。



 あとはアイルに温泉饅頭をあげて、それで一段落かな?

 イフドラとかにもあげたい所だけど、それはまた後にしよう。



 そんな訳でアイルの姿を探す。



 玉座の間には見当たらないので、恐らく自室の方だろう。

 そっちに行ってみる。



 彼女の部屋は俺の寝室の隣。

 そこのドアをノックする。



 返答が無い。



 もう一度、ノックしてみる。



「……」



 やっぱり反応が無い。



 いないのかな……?



 気配も感じられないので、本当に誰もいないようだ。



 どこに行ったんだろ?

 地上に新鮮な空気でも吸いにいったのかな?



 ダンジョン各所に設置されているメダマンを使って探すのが一番手っ取り早いと思うけど、その前に……。



 トイレに行っておきたい。



 さっきイリスの所でジルジルシャーベットを食べたせいだろう。

 あんまり美味しくて、俺も一緒になって食べ過ぎたのだ。



 というわけで、この階層に設置してあるトイレに向かう。



 このトイレ、勿論、俺がレシピで合成したものだ。

 水洗式だが、水道管もいらなければ水もいらないという優れもの。



 なんでかっていうと、あらゆる汚水を次元の彼方へと葬り去ってしまうからだ。

 どこかの亜空間にでも繋がってるんだろうな。



 そう考えると目茶苦茶恐ろしい代物だが、使ってみると超便利。

 衛生的だし、お手軽。



 ちなみに暖房便座と温水洗浄機能付き。

 その水と電気はどこから来てるの? と疑問に思ってしまうが、深いこと考えたら駄目。

 だって実際、使えてるんだし、それでいいんだと思う。



 そんなトイレを各階層ごとに、いくつか設置してある。

 どこで催しても困らないという訳だ。



 この階層のトイレは行き易いよう、俺達の部屋の前にある通路の突き当たりに設置してある。



 さて、用を足したらアイル探しだ。



 そう思いながら気楽な感じでトイレのドアを開けた時だった。



 探していたアイルが中にいた。



「あ……」



 便座に座っている彼女と目が合う。



「……」

「……」



 しかしアイルは、まだ何が起きたのか分からないといった様子で、ぼんやりと俺のことを見詰めていた。



 なんという不意打ち……。

 まさか、ここにいるとは……。



 さっき彼女の部屋でドア叩き過ぎたせいで麻痺したのか、ここでノックするの忘れてた。



 というか鍵かけてよ。

 いや、そもそも鍵なんて付いてたっけ?



 と、この場で考えなくてもよい、どうでもいい思考が頭の中を巡り始める。



 ええーっと……この場合、どうしたらいいんだ?

 やっぱ見なかったことにして閉める?



 いや、それは無茶だろ。

 もう完全に目が合ってるし。



 やっぱり素直に謝って、すぐ閉めるのが最善だよな?

 っていうか、こうしている間にも早く閉めろよ俺。



「す、すまない……」



 俺は今更ながら、ドアをゆっくりと閉めた。



 しばらくすると……。




 ドンガラガッシャンコンッ




 トイレの中で激しい物音が上がった。

 それは慌てたような……尚且つ動揺しているような物音。



 どうやら今頃、現実を理解したらしい。



 中が静かになり、そのままドアの前で待っていると――、



 ガチャ



 中から半分顔を覗かせるようにして、アイルが出てきた。

 顔はピンク色に上気していて、とても気恥ずかしそうにしている。



 そんな彼女に俺は再度、謝る。



「す、すまなかった……」



 すると外に出てきた彼女は、はにかみながらも上目遣いで言ってくる。



「いえ……魔王様が、お謝りになるようなことでは御座いません。魔王様は私の主なのですから……」



「そ……そう?」



 主ならトイレ覗いてもOK?



 いや、なんか違う気がした。


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