第26話 ものまね選手権


 キャスパーが言うように、俺が作るゴーレムは普通のゴーレムとちょっと違うらしい。

 上位互換とか、パワーアップ版とか、そんな感じだと思う。

 それは魔王であるが故の力なのだろう。



 という訳で、ゴーレムに四天王の声と特徴を覚えさせる作業の続きだ。



「次、シャル」

「はい、魔王様」



 フリフリのスカートをなびかせながらシャルが前へ進み出る。

 彼女の真似をするのはエコーリーダーだ。



「私は私のお友達、死霊さん達を呼び寄せまーす」



 そう言うとシャルは両手を横に広げる。

 途端、冷たい空気が辺りに漂い始め、足元の床で青白い光が無数に輝き出す。

 すると、その光の中からホログラムのように透けた人影が、次々に浮遊し始める。



 も、もしかしてゴースト!?

 やばっ、本物の幽霊初めて見ちゃったよ!



 しかも幽霊初体験が一体じゃなくて、こんなにたくさん……。

 少なくとも百はいる。



 さて、ここから何を見せてくれるんだろう?

 期待して見守る。



 するとゴースト達に命令を下すのか、シャルが手を挙げた。

 と、その瞬間、



「へぷちっ!」



 ボトッ



 可愛らしいクシャミと共に、彼女の腕がもげ落ちた。



 うわあ……。



「あ……またやっちゃった。てへ」



 テヘペロ状態のシャルは自分の腕を拾うと、その手で頭を掻いた。



 その手でやるなって!



 周囲を漂っていたゴーストはというと、そのクシャミが切っ掛けで全部消え去っていた。



「ごめんなさい魔王様、もう一度やり直すね」



 彼女はその気だが……。



「いや、いい」

「ん?」

「だって、ほら」



 俺は視線で示す。

 そこにはエコーリーダーが立っていて、



『へぷちっ!』



 ゴォォン



 クシャミの真似をしながら、重たい腕を切り離して床に放り捨てていた。



「……」



 その様子をシャルは遠い目で見詰めている。



 とりあえず声のコピーは出来たし、彼女の特徴と言ったら体の部位がもげ落ちるくらいだから、こんなもんだろう。

 実際、ゴーレムが死霊を呼び出せるわけじゃないし。



「じゃあツギはボクのバンだね」



 彼女の前を横切って踊り出てきたのは、ぷるぷるんとしたの生き物。

 プゥルゥだ。



 呆然としていたシャルは、そこで我に返り「私の出番これだけっ!?」みたいな顔をしていたが、渋々退いて行った。



「プゥルゥ役のゴーレムはフォックストロットリーダーだな」



 俺に言われたゴーレムが進み出る。

 それを確認したプゥルゥは、



「ボクはトクイのブンレツをやるよ」



「え……」



 聞いた瞬間、もう結末が見えてしまった。



 プゥルゥは弾力のある体を一旦弾ませると、無数の小さなスライムへと分裂した。

 隣を見ると、やはりというか、予想通り、フォックストロットリーダーが粉々に砕け散っていた。



「……」



 ある程度経つと散らばった破片が一箇所に集まって、再びゴーレムの形を成す。

 まあ、元がただの土と岩だから出来る芸当だな。



「はい次、イリス」

「うん……」



 言うと彼女が恥ずかしそうに前に出てくる。



「イリスは何をしてくれるの?」

「わ、私は……」



 彼女はモジモジとしているだけで、一向に事が進まない。

 ちなみに彼女の役を担うゴーレムはゴルフリーダーだ。



 このままじゃ何も始まらないので、こっちから助け船を出すことにした。



「この前みたいに飛んで見るとか? あとは……ドラゴンだけに、もしかして火を吹けるとか?」



 イリスは悲しそうな表情でブルブルと首を横に振った。



 えっと……なんだか逆効果?



 そう思った矢先のことだ。



「あ……あや取り」



「ん??」



 良く見れば、彼女の指に輪になった赤い紐がぶら下がっていた。



「もしかして、あや取りって、あの……あや取り?」

「うん……」



 驚いた。この世界にも、あや取りの文化があるんだな。



「じゃあ、やってみて」

「うん……」



 言うとイリスは僅かに笑顔を見せ、手を動かし始めた。

 その動きは結構、繊細で素早い。

 瞬く間に紐が複雑に絡み合い――何かが出来上がった。



「はい……ドラゴン」



「ド、ドラゴンて!?」



 紡がれた糸は確かに、翼を広げたドラゴンの形を成していた。



 しかも超立体的でリアル!

 ていうか、あや取りの域を超えてるよ!



「お次は……」



 言いながらイリスの頬が仄かにピンク色に染まる。



「……魔王様」

「うおっ!?」



 彼女の手の中にあったのはまさに俺の姿形だった。

 つーか、元の糸の長さで出来る代物じゃないんですけど!

 魔力でも使ってるのかな……。



 分からないことだらけだが、とにかく凄い特技だということは分かった。

 四天王の力と関係無いけど!



 で、ゴルフリーダーはというと……。



 誰かが紐を用意してくれたのだろう。

 腕にその紐が絡まって身動き取れなくなっていた。



 さすがにそこまで器用じゃなかった!



 ドラゴンらしいことは何一つやってないけど、イリスは元々しゃべらない子だから、こんなもんでいいでしょ。



「じゃあこれで全員終了だね」



 取り敢えずフェイクとして形だけ整っていればいいのだ。

 本来の目的は別の所にあるのだから。

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