第185話 再会
〈勇者レオ視点〉
そこは冷たく殺風景な場所だった。
魔王城のエントランスである。
バナーネによる無限円環から脱したレオ達は、その場所に辿り付いていた。
ここまでの道程はあっさりしたもので、罠はあったもののレオのスキルによって難無く踏破することが出来ていた。
目的の場所に辿り付けたことで兵士達の顔にも自信のようなものが現れ始めている。
――この入り口にもまた罠が張ってあるみたいだが……。
レオは掌くらいの大きさの石をエントランスの床に転がしてみる。
すると、スポッと床に穴が空いて石が飲み込まれた。
「ここも、落とし穴か……」
どうやら魔王はクラシカルな罠が好きなようだ。
そこかしこで似たような罠を見かける。
――ここも
これまでに見てきたものと同じタイプの罠であれば対処は容易だ。
すぐに兵士達を引き連れ、中への侵入を試みる。
その時だった。
ザッ
突如、背後で足音がした。
「……!」
レオだけでなく、兵士達も一斉に振り向いて剣を構える。
対象を視界に入れた途端、全員が緊張を解いた。
「ヒルダか」
ここで再会出来るとは思っていなかったので不意を突かれた。
この合流は非常の頼もしく思える。
思わず気が弛みそうになった。
しかし、レオは違和感を覚えた。
運良く合流出来たというのに彼女の反応は薄い。
それに、
「装備はどうした?」
彼女の姿は分かれる前に身に付けていた勇者の証たる白銀の装備ではなく、布を巻き付けたようなローブ姿だったのだ。
「途中、蜘蛛の魔物に襲われてね。装備は皆そいつに剥ぎ取られてしまったわ」
「……」
ヒルダは淡々と答えた。
装備だけでなく聖具である矛すら持っていないように見える。
そんな彼女の背後に人の気配は無い。
「一人か?」
「ええ、兵士達は全滅してしまったわ」
その言葉に、レオが引き連れていた兵士達の間でどよめきが起こる。
――よくその状態でここまで辿り付けたものだ……。
しかし、気になる。
確かに目の前にいる彼女はヒルダであったが、どこかこれまでと違うような気がしてならないのだ。
「いつもと喋り方が違うような気がするのだが?」
「そうかしら? 普段と何も変わらないけど?」
無表情で答える彼女の声は、聞き慣れたヒルダのものだと思う。
だが、言葉の抑揚や韻の踏み方に機微な違いを感じる。
かといって魔物が化けているとか、そういった印象は受けない。
肌や髪の質感はヒルダそのものであったからだ。
仮にそこまで忠実に化ける能力が魔物にあったとしても、二人の間でしか通用しない質問をすればすぐに正体が割れる。
ただ問題はそこまで彼女のことを知らないことだ。
なにしろ国を出る際に、初めて引き合わされたのだから。
――とにかく、注意深く見ておく必要がありそうだな。
レオは改めて彼女の手元を見る。
「もしや、聖具もやられてしまったのか?」
「残念ながらね」
「ということは回復スキルには頼れないということか……」
「そうなるわね」
それは戦力的には大きな痛手だ。
しかし、そこは勇者。基本的な身体能力は高い。
――上手く立ち回ってもらうしかないだろう。
「そのまま行けるか?」
「ええ、問題無いわ」
意思の疎通を取ると、レオ達は魔王城の中へと足を踏み入れた。
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