第186話 アフターレコーディング


 さて、勇者レオがヒルダ(骨)と再会したわけだが……。



「なかなか上手かったんじゃないか?」



 俺はウィンドウ上に映るアイルに向かって言った。



「そ、そうですか? ありがとうございます!」

「様になってたし、アイルに頼んで良かったよ」



「そ、そんな……勿体ないお言葉…………。私は魔王様が教えて下さる台詞をそのまま口にしただけですから……えへへ……」



 彼女は謙遜しながらも嬉しさを隠せないでいた。



 配下に加わった元勇者のスケルトンナイト。

 通称、回復さんは、その能力によってヒルダの肉体を再現することが出来る。



 しかし、中身はスケルトンなので顎をカタカタすることでしか物を言えないのが難点だった。



 そこでメダマンを寄生させて、アイルのもとにある別のメダマンからアフレコをしてもらったのだ。



 だけど、声質としゃべり方が似ているというだけでは、さすがにレオからの不信感を払拭出来ない。



 そこでメダマンを回復さんの胸骨の辺りに寄生させ、肉体を纏った際に気道奥から声帯を通して声が出るようにした。



 これは元が骨だからこそ場所を選んで寄生させ易かった。



 それにより、アイルの声がヒルダの声に、ある意味変換されることになる。

 ヒルダ自身の声帯から出た声なので、声質に関しては一応、一定の水準を得ていると言っていいだろう。



 ただ、イントネーションに関してはアイルに依存してしまうので、違和感を与えてしまうとすればそこだ。



 声については、それが今の段階で出来る得る限りの方法。



 あとは視界確保用に、スケルトンの右目にもメダマンを寄生させた。

 カメラ映像は俺のコンソール上と、アイルの側に置いてあるメダマンからの映写でも確認することが出来る。



 ということで回復さんには計二匹のメダマンが寄生していることになる。



 服装についてはアイルが用意してくれたローブを身に付けさせた。

 もっと戦士っぽいのが良かったが、めぼしいものはそれくらいしかなかったらしい。



 まあ、全裸よりはマシなのでそこは仕方が無い。

 それに全く同じ装備を用意出来ないのであれば結局、突っ込まれることになるので何か身に付けていさえすればそれで良かった。



 あと、気がかりなのは、その回復した肉体。



 その肉体をどれぐらいの時間維持出来るのか? 物事が差し迫っていたので未検証のままだ。



 魔力で維持しているのだとすれば、それが切れた時が問題だ。

 レオの前でスケルトンに戻ってしまっては元も子もない。



 取り敢えずしばらくは維持出来ることを前提に事を進めるけど、もし何かあった時の為に別の対策も用意しておかないといけないな。



 そもそも、ここでレオの映像を見た限りでは、確信を抱く程では無いにしろ、再会したヒルダに違和感を覚えているのは見て取れた。



 あまりボロを出すと、そこに付け込まれかねない。



 気を引き締めて事に当たらないと。



 と、それはさておき、今、思い付いたんだけど……。



 今の回復さんの状態なら温泉饅頭が食べられそうだな。

 機会があったら再度与えてみたいところ……。



 ともあれ、今は目の前のことに集中だ。



 思考を鋭敏に研ぎ澄まそうとした時だった。

 コンソール上から声がする。



「魔王様、そろそろ勇者共が玉座の間に入りそうですよ」



 自身の手元で回復さんの視点映像を見ていていたアイルが、そう教えてくれたのだ。



 俺も確認してみると、レオ達が魔王城の奥にある玉座の間の扉を開けようとしている映像が目に入ってくる。



 そこは以前に設置した魔王ゴーレムが待機している場所だ。



「お、結構早かったな。じゃあ、俺も偽魔王でお出迎えをしようか」

「では、私も準備致します」



 アイルが真剣な表情で言ってくる。



「うん、頼むよ」



 さて、おもてなし作戦開始だ。


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