第194話 洗浄


〈勇者レオ視点〉




「どうしたの? 私があまりに綺麗で見蕩れてしまった?」



 ヒルダだった骨はカタカタと顎を鳴らしながら笑った。



「……」



 そんな彼女の姿を見ながらレオは思い出す。



 ――彼女が率先して茶を飲んだのも、俺達に安全性を示す為の策だったということか……。



 そう思うと、これまでに起こった出来事にも違和感を覚える。



 今、この落とし穴に落ちた時もそうだ。



 天井から落ちてきた金ダライは、足下の罠の対応を遅れさせる為のフェイクだった。



 しかし、そう都合良く、足下に落とし穴がある訳ではない。

 ということは――その場所に誘き寄せられたということだ。



 あの時、魔王は玉座から立ち上がり、レオとの距離を詰めた。

 それをチャンスと勘違いしてしまったことが誤りだった。



 ――俺がティーカップを蹴り飛ばした際に、魔王が見せた隙は……わざとか……。



 端から魔王の袂にある落とし穴に彼を嵌める為だったのだ。



 そもそも、こんな事になってしまった原因は、あの茶にある。



 普段であれば敵から出された茶など絶対に口にしたりはしないのに、何故かあの時は飲んでしまった。



 そんな自分に疑問を覚える。



 ――喉さえ渇いていなければ……あんなふうには……。



 森の中でバナーネの皮に無理矢理走らされた時の事を思い出す。



 ――あれは……茶を飲ます為の仕込みだったというのか……?



 いや、それだけじゃない。

 もっと遡る。



 ――俺達がバナーネの皮に囚われたのは、狙撃を受けた時からだ……。



 ということは、二手に分かれさせられた所から始まっていた?



 あれで戦力を分散させられていなければ、ヒルダを失わずに済んだかもしれない。



 そんなふうに過去の出来事を反芻して行くと、不意にぞわぞわとした感覚が体中を覆う。



 ――もしかしたら……。



 レオは現状の自分を振り返る。



 眼前にあるのは防壁ごと自分を飲み込もうとしている底知れない闇。



 全ての攻撃を無効にする絶対防御スヴェルに対して、こうもお誂え向きの罠があるだろうか?



 この罠はまさにレオを倒す為だけに用意されたものだと言っていいだろう。



 もしかしたら、自分が考えているよりも、もっと前。

 レオ達が森の袂に到着した所から、全ては始まっていたのかもしれない。



 そう考えると体中の血液が引いて行くのを感じ、怖気が走った。



 全ては魔王の手の内だったのだ。



 ――ということは……俺が倒した、あの魔王……。あれはやはり……ただのゴーレム……。



 それなら死体の中に魔王の心臓が無いのも頷ける。



 ――偽魔王に踊らされていたのか……。



 屈辱で表情が歪む。



「もう諦めたのかしら? つまらないわね。もっと泣き叫べばいいのに。ほらっ」

「ぐっ……」



 スケルトンが背後からの蹴りを強めてきた。



 何度も何度も踏みつけてくる。



 その度に絶対防御スヴェルの防壁は穴に吸い込まれ、体は左腕から飲み込まれてゆく。



「ははははっ、ははははっ、ほらほら、もう肩まで飲み込まれちゃったわよー? どうしたの? ご自慢のスキルはどこに行ったのかしら?」

「……」



 既に顔の半分が穴の中にある。

 それが故、片目で内部の空間を視認出来る。



 そこは温度も空気も感じない、ただただ闇が広がっているだけだった。

 気が狂いそうなほどの暗黒。



「うふふ……うふふ……」



 背後で笑い続けるスケルトン。

 その頭蓋骨をレオは視線だけで見遣る。



 窪んだ眼窩を見つめていると、何かが重なって見えたような気がした。



「もしや……貴様が魔王か……?」



 するとスケルトンは激しく顎を鳴らす。



「魔王様がこんな骨なわけないでしょ! あなた魔王様を愚弄する気?」



 スケルトン足裏が背中に強く捻じ込まれる。



 ――ふっ……思い過ごしか……。



 レオは自嘲した。

 そして、闇の中に沈み行きながら吐き捨てる。



「所詮は……魔王に使われるだけの木偶人形か……」



 そう呟いた途端、怒りの籠もったような強い蹴りが彼を突いた。



 それでレオの体は、永劫の闇の中へと消えて行くのだった。



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いつもお読み頂きありがとうございます。

あと一話で3章が終了いたします。ここまでやってこられたのも読者様のお陰です。


そこで――、


引き続き4章も読みたい! 少しでも面白い! と思って下さった方は評価ポイントを頂けると嬉しいです。

その際、目次ページ下部の☆☆☆を★★★にして頂けたら幸いです。

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