第135話 饅頭パワー
出来上がった温泉饅頭。
こんなに旨いなら皆にもお裾分けしたいな。
そうだ、ダンジョン内を見回りついでに配って歩こう。
ラデスは滅んだが、リゼルやその他の国はまだ存在しているわけだし、防衛は万全にしておかないといけない。
今、設置してある罠や四天王達がきちんと防衛力を保っているかどうか、定期的な点検は不可欠だと思うから。
じゃあ、まずはパールゥの居る第四階層からだな。
トントロに饅頭を一個プレゼントして魔法の扉Ⅱに入る。
行き先は第四階層の大広間。
パールゥが天井に取り付けたビニールプールに入って、ぷっちんプリン状態になっているはずだが……。
扉を抜けた先に待っていたのは、なぜだかプゥルゥだった。
彼女は扉から出てきた俺に気付いて振り向く。
直後、ぷよぷよの体が硬直する。
そして、
「ひっ……ひにゃぁぁぁっ!? マオウさまのエッチぃぃぃっ!」
「えええっ!?」
突然悲鳴を上げたプゥルゥに、俺の方も驚いてしまった。
「エッチってどういうこと!?」
「リユウをきくマエにうしろむいてて!」
「あ……はい」
言われるがままにそうすると、背後から声が聞こえてくる。
「キガエちゅうにトツゼンはいってくるんだもの、ビックリしちゃったよ」
「着替え……ねえ」
また透明な膜みたいなのを脱いだり着たりしていた時に、運悪く遭遇してしまったらしい。
それにしても俺には見た目の違いがさっぱり分からないので、対策のしようがない。
「もういいよ」
彼女がそう言うので俺は向き直った。
するといつものプゥルゥが目の前にいた。
毎度のことだが……変わってねえぇ!
「というか、なんで着替えなんかしてるんだ? それにここはパールゥの部屋だろ」
「んとね。パールゥにビニールプールっていうたのしいモノがあるから、およぎにこない? ってさそわれたんだ。それでミズギにキガエていたわけ。どうかな? このミズギ。にあってる?」
プゥルゥはちょっぴり恥ずかしそうにしながら、丸い体に角度を付けたりしている。
「え……ああ……まあ、似合ってるんじゃないか……?」
「そう? マオウさまにそういってもらえるとうれしいなっ」
プゥルゥは嬉しそうに飛び跳ねる。
さっきと全然、違いが分からないんだけどね……。
「マオウさまはナニをしにきたの?」
「俺はこの温泉饅頭を皆に食べてもらいたいと思ってね」
アイテムボックスから取り出したそれを見せる。
すると彼女は興味津々な様子で手の上を覗き込んできた。
「うわナニこれ? おいしそう! ボクたちにもくれるの?」
「ああ、そのつもりで持ってきたんだから、遠慮無く食べてくれ」
「わーい、ありがとう」
俺が饅頭を差し出すと、彼女の透明な体がニュッと伸びてきて、それを体内に取り込む。
スライムの体の中に浮いた饅頭は次第に崩れ、溶けて行く。
「んん! これおいしい! すんごくおいしいよ、マオウさま! こんなのたべたことナイ!」
「それは良かった」
俺が食べても相当旨かったもんな。
彼女の口にも合って良かった。
そんなふうに喜んでいる時だった。
「はぁーおいしかった」
感嘆の声を漏らした直後、彼女の体に変化が起こった。
バチバチッ
体の周りに放電現象のようなものが起き始めたのだ。
「え!? な、なにこれ?」
戸惑うプゥルゥ。
それは次第に激しくなる。
なんだか底知れぬ力が彼女の中から湧き上がってくるような気配を感じる。
それはまるで魔力が増大しているような……。
試しに配下の魔物リストからプゥルゥのステータスを覗いてみると、MPの最大値がみるみる上昇して行くのが見て取れた。
温泉饅頭の効果にMP回復ってのはあったけど、まさか最大値まで上げる効果があるなんて思いもしなかった。
これってステータス強化アイテムじゃん。
相変わらず、書いてある以上のことが起きるなあ。
と、そんなことを考えているうちに激しさを増した魔力の火花が、空気中の水分を蒸発させて大きな蒸気の煙を作る。
ボフッ
白い煙の塊がプゥルゥの体を包み込んだところでMPの上昇が止まった。
「カ……カラダが……あつい……」
「おい、大丈夫か?」
これって……よくあるところの、魔力が増大した影響で人型に進化しちゃうとか、そういうパターンじゃね?
俺はすぐに水着を着た少女の姿を想像する。
プゥルゥの声と性格の感じから、こんな女の子って感じのやつ。
ちょっとワクワクしながら見守ると、彼女に纏わり付いていた白い煙がパッと消え去った。
そこに現れたのは、
透明感のある、つるんとした見た目の――、
スライムだった。
「変わんないのかい!」
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