第136話 スライム婚
「なんだかツヨクなったキがするよ! マオウさま!」
プゥルゥは体を縦に伸ばしてそう訴えてきた。
「そうみたいだね。特に魔力が強化されたようだ」
見た目は何も変わってないんだけどね。
「そうなの!? あのマンジュウっていうたべものスゴイね!」
「ま、まあね……」
意図せずそんなことになってしまったが、結果的には配下の強化に繋がったのでこれで良しとしよう。
「わーい、ありがとう! マオウさま!」
彼女は喜びの声を上げると、そのまま俺に向かって飛び付いてくる。
「おっと」
それを抱き留めると、彼女は腕の中で丸い体をスリスリと擦り付けてくる。
「うふふ」
「……」
なんだろう……この感覚は。
俺は今、水着の少女に抱き付かれて体をスリスリとされている。
嬉しいような……そうでないような……複雑な気持ち。
ともかく、あの温泉饅頭はMPの上限をアップさせる強化アイテムだってことは分かった。
それなら他の皆にも食べさせれば、全体的な戦闘力の強化になる。
元々、配るつもりでいたけど、その行動に明確な意味が出て来たな。
「そうだ、パールゥにもあげないとね」
「ぷぷぅ」
天井に張り付いているビニールプールの中で、パールゥが震えた。
俺は温泉饅頭を一つ取り出すと、パールゥに向かって投げる。
「それっ」
ぽちょん
まるで水面を打った小石のように、温泉饅頭がパールゥの体の中へ消えて行く。
すると間も無くして……。
「ぷぷぷぷぷぅぅっ!」
プゥルゥの時と同じように、彼女の体の周りでも溢れ出た魔力がバチバチと火花を散らし始める。
火花でプールの栓が弾け、ぷっちんされたパールゥの巨体が床に落ちる。
途端、舞い上がる水蒸気の白い煙。
体の大きさもあるから煙も爆風のように広がった。
見た目はダイナミックだけど……。
まあ、プゥルゥの時と同じで魔力が強化されるだけ。
何か見た目が変わるってことは無いだろう。
現に煙が消え去ると、そこには前と変わらぬ姿のパールゥが佇んでいた。
ほらね。
そう思った矢先だった。
「うはぁ、びっくりしたぁー」
「は?」
ここにはいないものの声が聞こえてきたもんだから、ぽかんとしてしまった。
それは小さい女の子のような声。
まさか、これって……。
「今、しゃべったのってパールゥ?」
「んぅ? そうだけどぉ?」
パールゥが体を曲げて答えた。
「……!?」
パールゥが人語をしゃべってる!?
タイミング的に饅頭の効果であることは間違いなさそうだが……。
なんでパールゥだけ表立った変化が現れたんだ!?
「パールゥ……しゃべれるようになったの??」
プゥルゥが呆然とした様子で彼女に尋ねる。
すると当の本人は、まだ自覚が無かったようで……。
「あ、おねぇちゃん……ん? んんっ!? ほんとだっ! ぱーるぅ、しゃべれるようになってるぅぅ!」
パールゥはようやく自分の状態に気付いて仰天していた。
「パールゥ、よかったね。これもマオウさまのマンジュウのおかげだね!」
「あのアマいたべものがぁ……?」
彼女は最初、信じがたいといった様子だったが、すぐに納得したようで、俺に向かって姿勢を正し、体を赤らめた。
「ありがとぉ……マオウさまっ」
「あ、ああ……」
またまた意図してなかったことが起きてしまったが、これでパールゥとのコミュニケーションが取り易くなった。
というか、この温泉饅頭スゲーな。使うことにメリットしかない。
だったら沢山作って、沢山食べさせたらどうなるんだろう?
まさか際限なくパワーアップするって訳でもないだろうし……。
ちょっと試すには勇気がいるな……。
メダマンやゴーレムで実験できればいいんだけど、あいつらは食べ物を食べないだろうしな……。
取り敢えず、今の所は一個以上与えるのは止めておこう。
配下を危険に晒してしまう可能性もあるし。
そんなことを考えていると、
「あのぉ……それと……マオウさま……。ぱーるぅとのヤクソク、おぼえてるぅ?」
パールゥが体をクネクネさせながら言ってきた。
「約束?」
「ほらぁ……ぱーるぅのカラダのナカにテをムニュっていれた……そのセキニンをとってくれるって……いってたでしょ……?」
「あ……」
思い出した。
パールゥの体内にあった魔蒼石を取る為に、俺は彼女の体の中に手を突っ込んだのだ。
その行為は人間に例えると、とんでもない事だっていうのが良く分かる。
「コトバもつうじあえるようになったしぃ……いまがそのトキだとおもうんだけどぉ……?」
責任って、やっぱアレだよな……。
お嫁にもらうとか、そういう……。
でも、スライムだしな……。
「そ、それならボクもマオウさまにオフロで……その……みられちゃったから……セキニンとってもらわないと……」
プゥルゥまで参戦してきた!
そういえばラウラとも似たような約束をしてるし、側室みたいな形で……ってことにしておいたらいいんじゃないだろうか?
約束をしたからといって、スライムだから、すぐに何がどうなるって訳でもないだろう。形だけ整えておくか。
彼女達もそれで納得するだろうし。
「じゃあ、側室に迎えるってことでいい?」
「わーい、ソクシツ、ソクシツ」
「わふぅ! やった、うれしいなっ!」
「パールゥ、やったね」
「おねぇちゃんもね」
二人は手と手……というかスライムとスライムを繋ぎ合わせて、その場でクルクル回っていた。
なんだこの光景……。
物凄く軽い感じの婚約だが、これで上手くまとまったならそれでいい。
なんか楽しそうだし……。
という訳でクルクル回り続ける彼女達を置いて、俺は第五階層に降りることにした。
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