第33話 目玉コウモリ


 目玉コウモリ。



 新しく作れるようになったこいつが、一体どんな魔物なのか?

 例によって詳細プロパティを確認してみる。




[目玉コウモリ]

 大きな一つ目の目玉にコウモリの羽が生えた魔物。だが、滅多なことでは飛ばない。

 あらゆる場所に張り付くことができ、目玉を通してみた映像や音声は作成者のコンソール上に送られ監視カメラの役割を果たす。様々な環境下に耐えうるタフな体を持っている為、どんな劇的瞬間も逃さない。マルチスクリーン対応。

 尚、カメラ映像は配下の者も閲覧可能。



 監視カメラだって?

 そんな真似が出来る魔物がいるのか?



 というか書いてあるんだから、実際出来るんだろうな。



 もしそうなら、これはかなり活用出来るかもしれない。

 ダンジョン内だけでなく、城や森に設置すれば侵入者をすぐに察知出来るのだから。



 ともかく試しに作ってみよう。

 実物を見てみないことには、分からないこともあるし。



 それで材料は……っと、殺人蝙蝠キラーバットの羽か。



 これって殺人蝙蝠キラーバットそのものじゃなくて、羽だけで良いってこと?



 それなら、さっき焼いて食べた時に羽だけ取り除いたっけ。

 そこは食べられない部分だってシャルが言ってたから。



 えーと、確かこの辺りに落っこちてたはず……あ、あった、あった。



 焚き火の跡に転がっていた羽を見つけると、それを強欲の牙グリーディファングで取り込む。



 すぐにそれはコンソール上で素材アイテムとして表示される。



 他に目玉コウモリの合成に必要な素材は魔紅石だけ。

 それは既に持っているので大丈夫。

 ってことは、あとはMPを500消費して実行するのみだ。



 俺は早速それを行う。

 とは言っても随分とあっさりしたもので、ワンクリックで素材が合成され、目玉コウモリ二十匹がリスト上に現れる。



 今回は一度に複数合成されるので、こういった形らしい。



 さて、この中から試しに一匹だけ取り出してみよう。



 リストから名前を選び、数を指定してクリックしてやると、俺の目の前に魔法陣が現れる。

 その様子はゴーレムの時と一緒だ。



 直後、魔法陣から湧いたように出てきたのは、攻撃性のある凶悪そうな魔物――、



 ではなく、思ったよりも小さな生き物だった。



 手の平サイズってやつ。



 その姿は目玉からコウモリの羽が直接生えているビジュアル。

 正直、ちょっと気持ち悪い。



 でもまあ、名前の通りといえばそうなので間違ってる感じはしない。

 だが――、



 すごく気になることがある。



 目玉の下から虫のような足が無数に生えていたのだ。

 まるで多足動物。

 しかも、その足でカサカサと地面を動き回り始めたもんだから怖気が走った。



「うわあぁ!?」



 なんか早いし、カサカサいってるし、動きがキモい!



 確かに詳細には滅多なことでは飛ばないとか書いてあったけど……。



 なんか嫌だ!

 普通のコウモリみたく飛んで欲しい!



 そんなふうに色々突っ込みどころ満載な魔物だったが、シャルは大層気に入ったようで、



「わーかわいいー」



 とか言いながら、自分の肩に乗せたりして遊んでいた。



「……」



 どうも彼女とは趣味が合わないようだ。



 見た目はともかく、魔物として使える能力があればそれでいい。

 監視カメラの代わりになるらしいから、早速それを試してみよう。



 アイテムボックス内の所有魔物リストを見てみると、稼働中のゴーレム達の名前がずらりと並んでいた。



 その一覧の一番下に、今、召喚(?)した目玉コウモリが表示されていた。

 名称は目玉コウモリAとなっているけど、それは暫定なだけでゴーレム達の時のように名前を付けられるっぽい。



「じゃあこいつは、メダマンにしよう」



 俺が宣言すると、それだけでリスト上の名前がそれに書き換わる。



 我ながら安易な名称だと思うけど、今後数が増えることを考えるとこの方が扱い易い。



 で、カメラの方だけど、メダマンの名前の横にビデオカメラのアイコンがある。

 恐らくこれがカメラ映像への切り変えボタンだ。

 すごく分かり易いUIで助かる。



 というわけで、そのアイコンをクリックしてみた。

 すると、すぐに別ウィンドウが開き、そこにメダマンからと思しき映像が表示される。



 そこに映し出されていたものは、ささやかながらも柔らかそうな――。



 って、これはもしかして……。



 女の子の胸元だった!



「ぬわっ!?」



 何事!?

 そう思った俺は画面から目を背け、メダマンの実際の位置を確認する。



 すると奴は、シャルの胸元に乗っかって彼女と楽しそうに戯れていた。



「……」



 初めてのカメラテストが、初めての盗撮みたいになっちゃったじゃないか!

 まずい、まずい。



 俺はすぐに、メダマンを移動させることにした。

 丁度良いから、このまま設置テストだ。



「メダマン、あの木の天辺から下を映せるようにしてくれ」



 そう命ずると、めだまんは「キュィ」という意外にも可愛らしい鳴き声で返事をして動き出す。



 シャルは手元からペットが離れたみたいに名残惜しそうにしていたが、その行方を見守っていた。



 メダマンはというと、あの足でカサカサいいながら指定した木を根元から登って行く。



 飛んだ方が早そうだけど、意地でも飛ばないのな……。



 すぐに天辺まで到達すると、再び鳴き声で知らせてくる。

 それを聞いて俺はカメラ映像に目を向ける。

 するとそこには、木を見上げるシャルとコンソールを確認している俺の映像が映し出されていた。



「うん、いい感じだ」



 俺は納得の声を上げた。

 映像もクリアだし、監視カメラとしてはかなり使えそう。



 ちなみに擬態化という機能もあるらしく、試しにそれをリスト上でクリックしてみると目玉が木の中にめり込んで行って周囲と同化。

 外見からは見つけ難い感じになっていた。



 まるで寄生虫みたいで気持ち悪いけど、能力としてはかなり有効活用出来そうだ。



 あとは複数同時の稼働テストだな。

 マルチスクリーン対応とか書いてあったし、どんなものか見てみたい。



 という訳で作った二十匹、全部その場に呼び出してみた。

 すぐに足元で一斉にカサカサ言い始める。



 うわー……。

 ますます虫みたいだ……。



 とりあえず、このままこの二十匹を暫定的に設置してみよう。

 最初の一匹はあのまま木の上でいいとして、まずは……。



「よし、お前はメダマン・魔王城玄関前と名付ける」

「キュィ」



 名前を決めたと同時にそいつは魔王城の方へ走って行った。

 他にも、玉座の間、エントランス、塔の上、ダンジョン入り口、大浴場内、同更衣室などなど、色々な場所に設置した。



 全ての目玉コウモリの設置を終えると、俺はカメラ映像に目を向ける。



 すると二十分割された画面に、各所の様子が鮮明に映し出されていた。

 しかも個々のカメラ映像を選択すれば、一画面表示にも切り替えられるらしい。



 おー、素晴らしい。

 まるで警備会社の指令センターみたいじゃないか。



 これなら侵入者の監視に最適だ。

 あとで設置場所を念入りに吟味して、数をもっと増やそう。



 どんな魔物か不安だったけど、二つ目も使える魔物で良かったー。



 そう安堵しながら一旦、コンソールを閉じようとした時だ。




 CAUTION!警戒




 そんな文字がコンソール中央に表示され、赤く明滅する。



 そして矢継ぎ早に、警告音が鳴り響いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る