第176話 尋問できる?


 ヒルダは驚きの表情を見せていた。



 瞬足くんがこの場面で何か話しかけてくるとは思っていなかったのか?

 または不意打ちのように仕掛けた攻撃が効かなかったことにショックを受けすぎて状況判断が追いつかないのか?



 まあ、その両方なんだろうけど、呆然自失という態だった。



 彼女は雷撃の槍を収めると、焦ったように距離を取る。



 取って置きの技だったのだろう。

 動揺が顔に出ている。



 あの攻撃、回復スキルと同じような力に見えた。

 恐らく、回復能力を一点に集中させたものだろう。



 過剰な回復で細胞の代謝を促進、劣化させ破壊する……みたいな感じだろう。

 少年漫画で出てきそうな技だから、なんとなく想像が付く。



 でも、瞬足くんは知っての通り死人だから、全く通用しないんだけどね。



 というわけで――俺は相変わらず火山の山頂で、勇者のモニタリングを続けていた。



 瞬足くんを送った理由は勿論、勇者の討伐。

 だけど、ここらで彼女ら勇者について色々、聞いておきたいと思ったので、瞬足くんに寄生しているメダマンから会話を試みてみたのだ。



「なぜ効かない、というような顔をしているね」

「……」



 ヒルダは鋭い眼光をこちらに向けるだけで、それ以上の反応は無かった。



「理由は……教えてあげない」

「……」



 彼女が僅かに歯噛みしたように見えた。



「それより聞きたいことがあるんだけれど、リゼル王国って、まだ勇者がいたの?」

「……私はリゼルの勇者ではない」



 おっ、ようやく口を開いた。



 リゼルの兵士を連れていたので、てっきりそうだと思ってたけど……違うのか?

 嘘を言っても仕方が無い場面なので、恐らくそうなのだろう。



「じゃあ、どこの勇者なわけ?」

「……貴様に話す必要は無い」



 ヒルダは抑揚の無い口調で答えた。



 さすがに簡単には喋ってくれないか。



 ここまでで分かる事実は、リゼルの勇者でない勇者がリゼルの兵士を引き連れてやって来たということだけ。



 これって、どういう事だろうか?

 今後の為に相手の事情を知っておいた方が戦略が立てやすいんだけど……。



 彼女の様子を窺うと、厳格な表情で睨みを利かせているだけで、既に動揺の色は消えていた。



 これは結構、手こずりそうだ。



 そう思っていた時だった。



「貴様は魔王代理だな?」



 意外にも向こうから質問された。



 ラデスでは、瞬足くんにそう名乗らせていた。

 その呼び名を知っているということはラデスの関係者か?



 でも国が滅亡後、ラデスを出た兵士もいるというから、そこから噂が流れてもおかしくはない。そうなると一概には決めつけられないか。



「いかにも魔王代理だが」



 今更伏せても意味がないので、そのまま答えた。

 すると一瞬、躊躇うような間が空く。



「なぜ代理を名乗る」

「実際、代理だからそう名乗っているだけだけど?」

「……」



 何か鎌を掛けようとしているみたいだが、意図が見え見えすぎる。

 気が強そうだから、向こうの情報を吐かせるのは難しいかな。



 となると、やはり相手の力を全て奪い、無力化した上で、口を開かさせざるを得ないだろう。



 その為の罠は既に仕掛けてある。



 彼女の背後にある大木。

 その袂に新レシピで得た〝くくり罠〟が設置済みだ。



 念の為に大量に置いておいて良かったー。



 くくり罠というのは、輪っかにしたロープの中に足を踏み入れると、途端に縛り上げられ、木の上に吊される罠。



 でもそれは前世の知識の上でのくくり罠で、こちらの世界のくくり罠はちょっと違う。

 というか、魔王のレシピの罠だけが変なだけなんだけど……。



 で、そのくくり罠の効果に〝吊された獲物は丸裸にされちゃう〟という説明書きがあった。



 恐らく、この説明文の通りの効果が発揮されるなら、彼女の身に付けている装備や武器は全て剥ぎ取られてしまうに違いない。



 これまでの罠も期待を裏切らない……どころか期待以上の効果を発揮してきたので、これも行けるはず。



「ぐふふ……」



 決して、そこに下心なんてないよ?

 丸裸にしちゃって戦意を削ぎたいだけなんだよ?

 勇者がグラマラスなお姉さんだったからラッキーだとか思ってないよ?



 あの矛にも別の使い方があって危ないから奪っておきたいし!

 これは状況的に仕方が無いことなんだから!



「ぐへへ……」



「魔王様? 何笑ってるんです? 顔がニヤけてますよ?」

「っえ!?」



 側にいたリリアが訝しげな顔で見てきていた。



「いや……勇者が一本取られた所を想像したら、ついニヤけてしまっただけだよ」

「そうでしたか。もう新しい戦略を思い付いたのですね。さすがです」



「ああ、まあね……」



 俺は表情を引き締め考える。



 さて、どうやって罠の場所へ追い込むかな……。


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