第114話 持ち物
ここはダンジョンの最下層。
俺が座る玉座の前には、配下の者達が集まっていた。
四天王とリリア、そして参謀のアイルだ。
皆、なんで集められたのか分からず、ぼんやりとしていたが、アイルだけはさっきからニヤニヤとしている。
「皆に集まってもらったのは他でもない。密かに進めていた最強のアイテムが完成した」
「「「「「おおぉーっ」」」」」
揃って驚きの声を上げる。
と、そこでシャルが感心したように言ってくる。
「私達が知らない間に、魔王様は人間達を攻める準備をしてたんだね」
「いや、攻めるわけじゃないんだ」
「?」
彼女がきょとんとしていると、アイルが横から口を挟んでくる。
「魔王様はそのアイテムをお使いになり、リゼル王国に対して壮大な罠を仕掛けるおつもりなのです」
「!」
その場にいた皆が目を見張った。
そこで俺が補足する。
「リゼルが二度と勇者を送ってくる気にならないようにするってことさ。しかも、その実行役は瞬足くんにやらせるつもり」
「にゃんと! それは名案ですね!」
真っ先に声を上げたのはキャスパーだった。
「自分達が送り込んだ勇者がゾンビに……しかも敵となって戻ってくる……。それはリゼルにとって精神的なダメージも大きいことでしょう」
さすがはキャスパー、良く分かってる。
「では早速、リゼルに向けた準備を整えましょう」
「いや、その前にラデス帝国へ向かわせようと思ってる。リリアの件があるからね」
俺がそう言うと、当の本人はハッとしたような顔をしていた。
「勇者リアが死んだという事を伝え、ついでに国の様子を探ることが出来たらなと思ってる。今後、そこの勇者とやり合う可能性が高いからね。リゼルはその後になるかな」
「なるほど、承知致しました。では、ラデス帝国に向けた準備を……」
「まあ、然程準備するようなものは無いし、もう大体揃ってるんだけどね」
「え……?」
キャスパーが唖然とする中、アイルが奥から荷物を持って来る。
ドチャ……。
俺の前に大きな麻袋が置かれた。
一抱えほどある袋の中には物がパンパンに詰まっていた。
「その最強アイテムはこの中に入ってる」
皆、「ええっ!? 最強アイテムがこの大きさに収まるの?」みたいな顔をしていた。
金ダライのことを知ってるのはアイルだけだから、その反応も当然といえばそうだろう。
「他にも必要になりそうなアイテムは予め入れて置いた。これを瞬足くんに持って行ってもらう」
「さすがマオウさま。やることがはやーい」
プゥルゥが感心したように言った。
「という訳で、今回はこういう事をやるよ! ってのを皆に告知する意味で集まってもらっただけで、ほぼ準備は整ってるんだ。でも、他に瞬足くんにこんな物を持って行ってもらったらいいなーっていうアイデアがあったら受け付けるけど、何かある?」
俺が思い付かないような名案が出てくるかもしれないので、聞いてみる必要はあるだろう。
皆は「うーん……」と考え始める。
と、そこで、
「あ、あの……」
イリスが手を挙げる。
「ほい、イリス」
「えっと……おやつ」
「遠足かっ!」
俺が突っ込むと彼女は恥ずかしそうに小さくなってしまった。
彼女らしく真っ先に思い付くのが食べ物のことなんだな……。
でも、ゾンビは食事必要無いぞ。
「他には?」
「はいはい!」
シャルが元気良く手を挙げた。
腕がもげるのが心配なくらいに。
「はい、シャル」
「日焼け止めを持って行った方がいいよ」
また変な意見が出たぞ……。
「ひ……日焼け止め? どうしてまた……?」
「死霊の森の外は、日差しがキツいから。ゾンビである瞬足くんにはダメージが大きいんだよ」
なるほど、死体が暑さで腐るって訳か。
それは必要かもしれないな。
てか、この世界の日焼け止めって……どんなものなんだ?
「その日焼け止めってのは、どこで手に入るの?」
「ん? それなら私が愛用してる、このクリームがあるよ」
そう言って彼女は白い液体の入った小瓶を差し出してきた。
シャルは、いつもこれを付けてんのか。
「これをそのまま使っていいよ」
受け取ったそれの蓋を開けてみると、フルーツ系の良い匂いがする。
「これって、何で出来てるの?」
「クヴァールの実の果汁を煮詰めると出来るんだよ」
「あ、あの実ね……」
キモい顔が付いた実を思い出す。
あれって接着剤にもなったし、ビニールプールの素材にも使ったし……万能すぎっ!
「じゃあ、使わせてもらうよ」
「うん」
シャルは嬉しそうに返事をした。
「他にある人ー」
「あの……」
そろりと手を伸ばしたのはリリアだった。
「はい、リリア」
「私が死んだっていう証拠を持って行って欲しいんですが」
「ああ……それは必要だね。何か丁度良いものがあるの?」
「本来ならば聖弓を持って行けば証拠になったと思うんですが、魔弓になってしまった今ではそれも難しいかと……なので……」
一体、どうしたというのだろう?
そこで彼女は言い難そうにモジモジとし始めた。
そして、
「こ、これを……」
リリアは震える手で一冊の冊子を手渡してきた。
それは紙を紐で束ねただけの簡素な作りのものだ。
「何、これ?」
すると彼女は恥ずかしそうにしながら、声を絞り出す。
「えっと……私が書いた……ポ……ポエム集です」
「は?」
俺は目が点になった。
なんでこれが証拠なのか……と。
「これを見られるのは……死ぬよりも恥ずかしい事。それを手放したということは、既に私は絶命しているということになります!」
真っ赤な顔をしながら必死に訴えた彼女を前に、俺は一言叫んだ。
「いらんわっ!」
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