第113話 何処へ

「グゲェ……」



 俺の目の前に、虚ろな目をした顔色の悪い男が立っていた。



 瞬足くんである。



 彼ならば、その持ち前の駿足で素早く離脱することが出来るはず。



 アイルに至っても考えは同様のようで、



「彼に床スイッチを踏ませるんですね! 素晴らしいアイデアです!」



 と、やけに嬉しそうだった。



「んじゃ、実際にやってみよう。だけどその前に……」



 どれぐらいの破壊力があるのか分からない。

 なので充分な余裕を持って距離を取っておいた方がいいだろう。



 瞬足くんをその場に残し、俺達は二百メートル程離れた所に移動する。



「これくらい離れておけば、大丈夫かな?」



「ですね。前回のスーパー金ダライが床ブロック十個分くらいの範囲にダメージがありましたから、その上を行く今回は倍の床ブロック二十個分くらいではないでしょうか?」



「そ、そうだね……」



 毎回毎回、詳細プロパティの内容を超えた威力を発揮してきた罠達。

 今回も恐らく、予想を超えてくる予感がするが……さすがにこれだけ余裕を持たせておけば……。



「それじゃ、床スイッチを踏んでくれるかい」



 俺は瞬足くんに寄生しているメダマンを通じて指示を出した。

 ついでに踏んだら充分な距離まで離れるようにも伝えた。



「グゲゲ……」



 喉から絞り出すような返答が聞こえ、瞬足くんが動き出す。



 そっと足を伸ばし、床スイッチを踏む。



 カチッ



 しっかりと踏み込まれた音がした。



 彼は素早く俺達が待機している場所まで離脱する。



 そして全員で衝撃に備えて身構えた。



 が――。



「……」

「……」



 いつまで待っても落ちて来る気配が無い。



「何も起きませんね……」

「ああ……」



 二人して空を見上げるが、白い雲がゆっくりと流れているだけで物凄く平和な雰囲気だった。



 もしかして、惑星の重力圏を出てしまった?

 宇宙空間をふわふわ漂い始めていたら、そりゃ戻ってこない可能性もある。



 ということは……。



 俺の中で絶望感が広がる。



「ああっ、貴重なウルトラ金ダライがぁっ!」



 と、悔やんでいても仕方が無い。



 もったいないが、あのウルトラ金ダライは諦めるしかない。



 どうすることも出来ないし。



 じゃあ、もう一度作り直そう!

 と、思っても所持している素材に限りが有るので、あんまりホイホイ作る訳にもいかない。



 魔法石系はまたすぐに手に入る目処は無いしね。



「仕方が無い。もう作ってしまおう」

「?」



 いきなりアルティメット金ダライを作ることにしたのだ。

 どのみち作ることにはなってた訳だし、素材が目減りする前に確保しておきたいってのもある。



 というわけで、コンソール上でアルティメット金ダライを合成し、そのまま手元に現出させる。



 取り出したそれは、黄金の輝きを放っていた。



「まあ! もしかして……それがアルティメット金ダライですか!?」



 目映い光に誘われるようにアイルが寄ってくる。



「ああ、ウルトラ金ダライの威力を試す前に実戦投入することになってしまったけど……素材も節約しないとだしね」



 アイルはワクワクした様子でアルティメット金ダライを見ていた。



「良いではないですかっ! これでラデス帝国をやってしまうのですね」

「やる……っていうか、ある種の保険みたいなもんだけどね……」



 実際に使うかどうかは分からないが、持っていれば安心だ。

 それに、使用しなければならない事態が起こったとしても、ここから遠く離れたラデスなら、俺達には影響が無い。



 で、このアルティメット金ダライの使い方だが……。

 床スイッチと連動させることが困難なのは分かってるので、別の使い方をしないといけない。



 床スイッチは落下させる切っ掛けを作るだけの仕掛けでしかないので、恐らくタライを投げただけでもその能力は発揮出来るはず。



 手榴弾とか、そんな感じの投擲武器みたいなもんだ。




 それはそれで良しとしてだ……。




 実際にラデスに向かわせるのは瞬足くんだ。



 しかし、彼はゴーレムのように俺が合成した魔物ではないのでアイテムボックスと連動していない。



 なので、必要な道具は全部、持たせてやらないといけない。

 それはアルティメット金ダライも同様だ。



 結構な大荷物だけど……何に入れて持たせようか?



 リュックに入れる?

 いや、そもそも、リュックというものが無さそうだな……。



 直接手で持って行くのはさすがに無防備すぎるだろう。

 落としたり、奪われたりしたら大変だ。



 やっぱり、それなりに大きい袋が必要だろうな。



「ねえアイル、この金ダライが入るような袋ってない? 出来れば瞬足くんが背負えそうなやつがあったら尚いいんだけど」



「それなら城に紐付きの麻袋が御座います。腕を通せるように手直しすれば背負うことも可能かと」



「じゃあ、それを頼めるかな?」

「承知しました」



 彼女は深く頭を下げると、準備の為の行動を開始した。


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