第112話 助っ人
「行ってしまいましたね……」
「ああ、行ったね……」
俺とアイルは空を見上げながら呟いた。
床スイッチにセットしたウルトラ金ダライが遙か空の彼方まで飛んで行ってしまったのだ。
今では、その姿形を全く確認出来ない。
だから俺とアイルは呆然とするしかなかった。
床スイッチにセットしたら、どんな結果になるのか? 三つほど予想したけど、どれも違っていて……。
四つ目に考えていた、一番まさかと思っていた結果になるとは……。
四、天井が無い限り、延々と上昇し続ける。
ってやつ。
俺は空の彼方に目を凝らす。
「どこまで行っちまったんだろうなあ……」
あのまま上がって行ったなら宇宙?
それもこの世界が、俺のいた世界みたいに惑星の形をしているならば……ってのが前提だけど。
それにしても……困った。
せっかく作った貴重なウルトラ金ダライを失ってしまったぞ……。
まだ材料となる素材は手元にあるけど、中には魔碧石のように少なめなものもある。
大事に使っていかないといけないのに。
そこまで考えたところでふと、思い当たる。
いや、待てよ?
ウルトラ金ダライが消えて無くなったように見えるけど、上昇し続けてるってことは床スイッチとの連動が切れてないってことでもあるんじゃないか?
ということは、まだ罠として有効な状態であるってことだ。
要は、俺の足元に設置されている床スイッチを踏めば、落下して戻ってくる可能性が高いってこと。
だがしかし――。
これをどうやって踏むかが問題だ。
以前、スーパー金ダライを試した時は、床スイッチの上にノーマル金ダライを滑らせて罠を発動させた。
今回もその方法を取れなくもないが……ウルトラ金ダライの効果範囲が不明なので、どれぐらいの距離を離れれば安全かが分からない。
十トントラックがぺしゃんこ……っていうくらいだから結構な威力だ。
仮に余裕を持って五十メートルくらい離れたとしよう。
その距離から床スイッチにノーマル金ダライを当てられる技術が必要になってくる。
それって、カーリングの選手を超えるような能力じゃね?
下は氷じゃなくて、ゴツゴツした地面だし、尚更難しい。
この方法は、あまり現実的ではないなあ……。
となると、やっぱり直に足で踏むのが確実。
それを誰に踏ませるかだが、手っ取り早いのはゴーレムやメダマンだ。
彼に踏んでもらえば、俺達は遠くで見ているだけでいい。
高い防御力を持つゴーレムなら、ウルトラ金ダライの威力にも耐えられる可能性が高いし、もし粉砕されても元通りになる。
でも……それをやらせるのは、たとえ土と石で出来た体でも、なんだか可哀想な気がする。
なんだかんだでゴーレムには意志っぽいものがあるし、それに自分で作り上げたものには愛着があるのだ。
じゃあそれが無理ってなると……他に思い付くものが無い。
ウルトラ金ダライの衝撃にも耐えるタフさや、それを避けることの出来る素早さを持ち、尚且つ、何事にも動じない頑強なメンタルを持つ者。
そんな者に床スイッチを踏んでもらえるなら俺も安心して送り出せるのだが……そんなのってある?
その条件を元に俺の記憶に検索をかける。
すると、意外にもサーチに引っ掛かるものがあった。
「そうか、あいつなら!」
「あいつ?」
唐突にそう口にした俺のことをアイルはきょとんとして見ていた。
俺は早速、その名を呼ぶ。
「おーい、瞬足くーん!」
ズゴゴゴゴ……。
叫んだ直後、遠くの方から地鳴りが近付いてくる。
それから大した間も空かず、俺の目の前を風が駆け抜けた。
突風に煽られた髪の毛をアイルが手で押さえる。
次の瞬間、俺達の眼前に立っていたのは、
元勇者で今ゾンビの瞬足くんだった。
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