第111話 ウルトラ金ダライ


 パールゥの落ち着ける場所を作ってあげた後――。



 俺は死霊の森を出てすぐの所へ来ていた。



 魔王城の南側に伸びる森の道を辿った先の場所だ。



 その理由は、既に作成済みのウルトラ金ダライと、アルティメット金ダライの二つを実働実験する為。



 まずはウルトラ金ダライの方から試したい。



 前回のスーパー金ダライが、通路の床を陥没させるくらいの威力だったからな。

 それより威力が上ってことを鑑みると、外でやることが前提なのだが……。



 アイテム説明によると、十トントラック一台くらいならペシャンコに……って書いてあった。



 その辺を考慮すると、森に被害が出ないこの場所が妥当なところ。



「罠の実験……ワクワクしますねっ!」



 そう口にしたのはアイルだ。



 俺が森の外周まで出ると聞いて、心配して付いてきてくれたのだ。



 相変わらず罠に興味津々な彼女。

 すっかり、罠実験の見届け人として定着しつつある。



「それで、本日はどんな罠を?」

「まず先に試すのはウルトラ金ダライだ」



「あれ? 以前、魔王様が仰っていた究極の罠と名前が少し似ていますが……?」



「うん、前にアイルにも見てもらったスーパー金ダライとアルティメット金ダライの間に相当する威力の罠だよ」


「なるほど」



 そこでアイルは期待に満ちた表情を見せる。



「それで、それを先に……と言うことは、やはり、後があるということですよね?」



「ああ、その後にはアルティメット金ダライが控えている」



 言うと、彼女は目を見開いた。



「と、とうとう完成したのですねっ!」


「ああ」



「おめでとうございます!」



 彼女は瞳を輝かせ、今にも飛び跳ねて喜びそうな感じだった。



「これでようやく、リゼル王国を脅しにかかれますね」

「まあ、そうなんだけど……ちょっと状況が変わってきたので、先にラデス帝国かなあって思ってる」



「そうですか。リリアの一件ですね?」

「まあね」



「どちらにしても勇者共の恐れ戦く姿が目に浮かびます。ぐふふ……」



 アイルは口角を上げてニヤリと笑った。



 彼女にとっては、勇者が慌てふためく姿さえ見られれば、どちらの国が相手でも構わないようだ。



「じゃあ早速、やっていこうか」

「はい」



 と、言ってみたものの……どうしようか? と考える。



 スーパー金ダライの時はダンジョンの狭い通路だった。



 しかし、ここは外だ。



 壁や天井の無いこの場所にどうやってそれを設置する?



 とりあえず、アイテムボックスから作成済みのウルトラ金ダライを取り出してみる。



 銀色に輝くタライが地面の上に出現した。



 これを手に取って放り投げても良さそうだが……。

 どれぐらいの範囲に効果が現れるか不明なので、ちょっとその案は危険だ。



 中途半端な投擲距離では、こちらに被害が及ぶ可能性がある。



 やはり、床スイッチとの連動で、メダマンに踏ませるなどして遠隔的に発動させるしかないだろうな。



 となると、疑問が湧いてくる。



 スーパー金ダライの時は、床スイッチの上にタライを乗せると勝手に浮き始めて、天井付近で不可視化した。



 それと同じようになればいいんだけど……。



 問題は天井の無い場所でそれをやったら、どんな結果が起こるかだよな……。



 予想出来る結果は……。



 一、ある程度の高さで設置と見なして静止、不可視化する。

 二、天井の無い空間では設置不可。よって無反応。

 三、浮き上がるが、天井が無いので不可視化しない。



 四つ目は、まさかとは思うが……。



 ともかく、試すことに実害は無さそうなので、やるだけやってみることにする。



 俺は床スイッチを作ると、それを地面に設置した。



 そしてその上に、そっとウルトラ金ダライを置く。



「さて……」



 少し離れて見守る。

 アイルも興味深く動向を窺っていた。



 すると――



 フワッ



 ウルトラ金ダライがゆっくりと浮き始めた。



 おおっ?

 行けるのか??



 そのまま銀色の物体は俺達の背の高さを超え、更に上昇して行く。



 そして周囲の木々の高さを超え――、

 果てには首を逸らして仰ぎ見るくらいの高さに到達。



 そこまで来ると俺の中で嫌な予感がし始めた。



 ウルトラ金ダライはぐんぐんと高度を上げ――、



 最終的には空の彼方で銀色の光をキランッと煌めかせる。



 それで視界から完全に消え去った。



「……」

「……」



 俺とアイルは、空を見上げたまま呆然と立ち尽くしていた。



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