第218話 模擬戦開始


 北の方で勇者対勇者の戦いが始まろうとしていた頃、魔王城下のダンジョンでは別の戦いが開始されようとしていた。



 但し、こちらの場合は全く緊張感が無いものだった。



 空いているフロアを利用して闘技場の代わりにし、そこで序列決定戦を行うことにしたのだ。



「組み合わせは決まったようだな」



 くじ引きで決めたトーナメント表をゴーレムが壁に貼り付ける。



 その内容はこうだ。




[一回戦]

 キャスパー VS ライトニング


[二回戦]

 イリス VS プゥルゥ&パールゥ融合体


[三回戦]

 ラウラ VS リリア


[四回戦]

 アイル VS シャル




 なんだか一回戦目から結果が目に見えてるんだけど!



 まあ、彼女達が納得行くまでやってもらうとしよう。



 そんな訳で早速、第一回戦目が――、



「シャァァァァッ!!」

「ひぃぃぃぃぃっ!?」



 音速で終了していた。



 ライトニング逃亡。

 よってキャスパー不戦勝。



 なんという予想通りの展開!



 でもまあ、サクサクと進んで良い感じだ。

 さあ、次行ってみよう。



 次はイリスとプゥルゥ&パールゥの融合体の戦いだ。



 皆からズルいだのなんだの言われてたけど、結局そのまま行くことになったらしい。



「ふふふーん、ボクがんばっちゃうよー」



 見た目はパールゥの巨体と変わらないけど、喋り方からして意識の主導権はプゥルゥにあるようだ。



 対するイリスは、緊張した面持ちで前に進み出る。



「よ、よろしく……」



 彼女はプゥルゥ&パールゥに対して、ちょこんとお辞儀した。



 それでプゥルゥ&パールゥは……って、長くて言いにくいなっ!

 略してパープーってことにしよう。

 なんかアレな響きだけど、仕方が無い。



 で、そのパープーは挨拶も早々にすぐに攻撃に出た。



 審判である俺が、まだ始めって言ってないんだけど!?

 まあ、もう始まっちゃってるからいいけどさ。



「ばいーん」



 パープーは開始早々、その巨体を跳ね上がらせた。

 そのままイリスを押し潰さんと落下してくる。



 しかし、そこは動きの素早いイリス。

 自慢の翼を羽ばたかせ、素早くかわすと、パープーの体に遠慮無くボディブローを食らわす。



 イリスは細い体でありながらも竜人だ。

 そのパワーは四天王随一と言っても過言ではない。



 そんなパンチを食らったら、勇者でも一溜まりもないが、パープーはこれを分裂という手で衝撃を分散させた。



「ばぁーんっ!」

「むっ……」



 パープーの体が細かい粒になって弾け、すぐに再び結合する。



 ――これは案外、良い勝負だな……。



 一体、どんな決着の仕方をするんだろう?

 そんなふうに、結構ワクワクしてきてしまった。



 そんな時分だった。



「降参……」



 いきなりイリスがそんなことを呟いたのだ。



 え? 意味が分からない……。

 結構、接戦だったと思うんだけど、何が彼女をそうさせたのか?



 そんなイリスは苦しみの表情で腹を押さえながら訴えた。



「お腹空いた……」



「……」



 そっちが優先なんかーいっ!



「それに……魔王様への気持ちは……序列とは関係無いし……」



 元も子もないこと言っちゃた!



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