第217話 勇者と勇者


〈勇者モルガス視点〉




 モルス山脈の麓。



 その地に据えられた古の扉から、一人の勇者が姿を現した。



 彼の名はモルガス。



 神聖レジニア皇国の勇者だ。



 恰幅の良い体と、程良く付いた筋肉。

 まさに勇者という名が相応しい体付きの男。



 彼の聖具は、背負っている身の丈に迫る勢いの戦斧だ。



 モルガスは、ふと天を仰ぐと、目映い日差しに思わず目を細める。



 ――レオとヒルダは敗れたか……。



 彼らが戻ってこないということは、そういうことだろう。



 ――レジニアの勇者も残り少ない。ここで我が全てを終わらせるしかないだろう。



 決意を持って、足を進める。



 ――このまま南方に下り、リゼルで足を得よう。

 徒歩ではさすがにキツいからな。



 そう思いながら山脈の裾野に広がる森の中を抜けて行く。




 それは数日をかけ、ようやく森から平野へと出た直後だった。




「あなたがレジニアの勇者ですか?」



 突然、目の前に線の細い一人の青年が立ち塞がった。

 彼の隣には覆面をした珍妙な姿の少女の姿もある。



 だがモルガスには、すぐに彼らが何者かが分かった。



 青年が身に付けている甲冑、そして少女が腕や脛に嵌めている防具。

 それらは白銀の輝きを見せていた。



「――勇者か」



 モルガスは思わずそう呟いた。



「この人、勇者が勇者に勇者か、だって! ぷーっくくくっ、面白いこと言うでござるなー」



 少女の方が緊張感の無い声を上げた。



「ああっもう! お前は黙ってろ! 話がややこしくなる」



 青年は最初の落ち着いた印象と違い、少女に強く叱咤する。

 だが、彼の方が話が通じそうだった。



「私は帝政ゼンロウの勇者、ユウキ・クラウゼヴィッツ。そしてこっちが同じく勇者のカルラです」



 ――帝政ゼンロウ……。東方にあるという国か……。



 その勇者が何故、ここに?

 しかも、我がこの場に現れることを事前に察知していたかのような振る舞い……。



 モルガスは不信感を持って接する。



「ほう、その勇者が我に何の用だ?」



 するとユウキと名乗ったゼンロウの勇者は、その整った顔立ちを歪ませニタリと笑う。



「あなたを倒させて頂こうと思いましてね」

「……!」



 それは、モルガスにも予想が出来ない答えだった。


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