第147話 手作り新メニューを求めて
ここは魔王城下のダンジョン。
第一階層にある食堂だ。
そこに四天王とリリア、そしてアイルが集結していた。
とはいっても、堅苦しい雰囲気は一切無く、みんな各々の席に着いてだらーんとしている。
大学のカフェテリアみたいな感じだ。
そんな場に俺が現れると、取り敢えずみんなシャキッと姿勢を正す。
教室に入ってきた先生はこんな気持ちなんだろうな。
俺は皆の顔をさらっと見渡して様子を探る。
温泉饅頭という結構強力なパワーアップアイテムを食べた後だから、どこか体調に変化が起きたりとか、具合が悪くなったりしてないか確認する為だ。
そうでなくても配下の体の調子に気を配るのは主としては当然の事。
今日もいつも通りの面々が、いつも通りの生き生きとした表情で迎えてくれている。
よーし、皆元気そうだな……。
そう安心して視線を流した最後だった。
アイルと目が合った。
途端、彼女は顔を真っ赤にして「あわあわ」と動揺し始めたのだ。
「おい……アイル、大丈夫か?」
「ふえっ!? あ、だっ、だだだだだいじょうぶですっ! わたわたしはあばばばばばっ……」
全然、大丈夫そうじゃなかった。
体内でお湯でも沸いてるんじゃないかと思うほど上気した顔で、しどろもどろの状態。
「アイル、本当に大丈夫?」
「ヨコになってたほうがイイとおもう」
シャルとプゥルゥが彼女のことを心配してくれていた。
俺としては彼女がこんな事になっている理由に心当たりが無いわけじゃない。
いや、心当たりありまくりだ。
先日、彼女に与えた温泉饅頭。
それがサキュバスとしての能力をパワーアップさせてしまったのか?
はたまた、媚薬効果があったのか?
理由は定かではないが急に積極的に迫ってきて、俺は物凄い力で部屋に連れ込まれ、あんな事やそんな事を……。
しかし暫くすると、素に戻ったのか、自分のした行為が急に恥ずかしくなってきたようで、その時から俺の顔を合わせる度にこんな具合なのだ。
「アイル、落ち着かないようなら休んでていいぞ」
「いっ、いえ大丈夫でひゅっ!」
でひゅっ! ……って……。
「まあ、それなら耳だけで聞いていてくれ」
「あい……」
それで彼女は耳を赤くしてテーブルの上に突っ伏した。
「さて、今日皆に集まってもらったのは、先日の温泉饅頭によるパワーアップも出来たことだし、この流れに乗って魔王城の更なる防御力アップ計画を進めて行こうという話をしようと思ってね」
「「「「「ふぁっ!?」」」」」
それを伝えただけなのに皆揃って素っ頓狂な声を上げた。
「え? どうしたの? 何かマズいこと言った?」
するとキャスパーが唖然として固まっている皆を代表するように口を開く。
「いえ……マズいなどということは無いのですが……その……今の状態でも充分な防御力を誇っていると思っていましたので……その上でまだ魔王城の防衛を固めるというお話が出て驚いている次第です」
「そうかなあ? 人生何が起こるか分からないよ? 備えは充分すぎるくらいにしておかないと。これまでと違って想像の斜め上を行く勇者とかが現れたりするかもしれないじゃない。それでも辛うじて勝てたとしてだよ? 俺、痛いのは嫌だし。充分に安全策を取って勝利したいよね」
「お、仰る通りで御座います」
キャスパーは目を伏せ頷いた。
「それに、俺だけじゃなく、皆にも痛い目にはあって欲しくないし。やっといて損は無いでしょ?」
「魔王様……」
皆、感激したような視線を俺に向けてくる。
配下の怪我を未然に防ぐのも体調管理の一環だしね。
「それで実際にどんな対策を施すの?」
シャルが興味津々で聞いてきた。
「やっぱり、罠とかをもっと増やしたいよね。あと、魔軍の皆の力を余す所なく発揮出来るような仕組みとか施設とかあったらいいかも」
「わあ、面白そう」
彼女はまるで遊園地のアトラクションが増えて喜んでいるような反応を示した。
「でも、それには合成レシピを増やさないといけないから、今すぐには出来ない」
レシピを増やすには★をゲットしないといけないからね。
「なので、皆の生活環境を整える方を先に考えて行きたい」
「おー」
それが結果、★を得ることに繋がる。
「取り敢えず最近、気になってるのは食事の面だ」
「ん? マオウさまのおかげで、ミンナまいにちおいしいモノたべられてるよー?」
プゥルゥが嬉しそうに椅子の上で跳ねる。
「料理レシピのお陰で大分、色々な料理が出せるようになったけど、さすがに毎日カレーじゃ飽きてこない?」
「むむむ……」
プゥルゥが口籠もった。
「食事らしい食事は今の所、バットカレーとミートパイだけでしょ? 特にミートパイは肉の供給が安定するまではあんまり出せないし、後のレシピは全部スイーツ系ばっかりだから食事には不向きだしね。だから新しい食事メニューをこの食堂に加えて皆の食環境を充実させようと思うんだ」
「美味しいもの……いっぱい……」
イリスが独り、瞳を輝かせていた。
「でも、レシピがないのに、どうやってシンメニューをふやすの?」
プゥルゥが自分の体をクエスチョンマークの形に曲げる。
「合成レシピを使って作るのは一瞬だから簡単だけど、料理ってそもそもそうやって作らなくても出来るもんでしょ?」
「あ……」
彼女はそれを忘れていたようだ。
「そんな訳で食材になりそうなものを集めて、なんか作ってみよう」
前世の知識があれば、出来るものもあるかもしれないし。
「瞬足くんがラデスから帰ってきたら、魔王城2の建設で忙しくなるだろうし、それまでにやるよ」
「おー!」
皆が返事をした中で、イリスだけが元気良く手を上げた。
「あ……」
注目を浴びた彼女は恥ずかしそうにモジモジするのだった。
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