第227話 電気柵
モルガスの襲来に備えて新しい罠のテストをすることにした俺は、魔王城の周りに広がる死霊の森に来ていた。
無論、いつものようにアイルが一緒に付いてきた訳だけど、どうも様子がおかしい。
目を合わせないようにしている所とか、同じ側の手と足を同時に出しながら歩いている所とか、色々ぎこちない。
多分、俺の部屋で回復さんと俺が戯れている所を目撃してしまったからだと思う。
明らかに事故で誤解なんだけど、彼女の目にはそう映っているようだ。
一応、言い訳っぽいことをしておいた方がいいんだろうか?
「あの……さっきの事だけどさ……」
「いいと思いますよ!」
「はい?」
「いえっ、あの……魔王様は魔王様ですから……女性関係も……その大胆で……ううっ……」
泣いてるし!
てか……やっぱり、思った通りだ。
「あれは事故だから」
「へ? 事故……?」
彼女はきょとんとした。
そこで俺は事の顛末をそのまま彼女に話した。
すると、急に意気揚々とした感じになって――、
「ですよねー! 魔王様とあろう御方が元勇者の、しかもスケルトンの出来損ないみたいなのを本気で相手するわけないですもんねー」
口が悪かった!
まあ……それはともかく、いつもの調子に戻ったようで良かった。
これで話を進め易い。
俺達は少し開けた場所で足を止めた。
「じゃあ、この辺りで新しい罠を試してみるから、ちょっと実験に付き合ってくれる?」
「はい、承知いたしました」
「あと、いつもの事だけど、何が起こるか分からないから充分に気を付けてね」
「分かりました」
毎度の事だけど、アイルは意図せず自ら罠にかかりに行く体質だからな。
念を押しておいても、どこか心配だ。
一度は彼女を連れてこないようにした事もあったけど、結局罠に嵌まってたからなー……。
無理に避けようとしても余計大変なことになりそうだから、傍に置いておいた方がまだマシだと思う。
「じゃあ、まずは電気柵から行ってみよう」
レシピはこれだ。
・鉄鉱石×20 + 木材×10 + 電気鼠の肝×1 = 電気柵×100
ライトニングの協力で手に入れることが出来た素材を使うことになる。
それにしても、これだけの材料で百個も作れちゃうんだからお得だ。
早速、俺はそのレシピを使って素材を合成してみた。
するとアイテム画面にあっさり百個の電気柵が出来上がる。
「よし、出来た。では試しに一つだけ設置してみよう」
設置したい場所に狙いを付けて右手を伸ばす。
直後、ドスンという音と共に地面に柵が立った。
「……?」
とは言っても、想像していた柵とは、見た目がなんだか違う。
俺の中では野生動物に畑が荒らされないようにする為の防護柵のようなものを想像していたのだが……目の前に現れたそれは……。
繊維を編み込んだような緑色の網だったのだ。
「これって……テニスコートにあるネットじゃん!」
長さも丁度、テニスコート一面分の大きさ。
これでアイテム一つ分らしい。
しかもテニスのネットだから、異様に高さが低い。
ちょっと頑張れば跨げるじゃん!
防護柵としてはまるで意味の無い高さだった。
「うーん……俺の予定では魔王城の周囲をこの柵で囲ってしまおうと思ってたんだけどな……。これじゃあ簡単に侵入出来ちゃうよ」
いや、でも待てよ……。
よくよく考えればこれって十万ボルトの電気が流れているって話だったよな。
逆にこの低さが嫌らしいかもしれない。
だって、簡単に乗り越えられそうだから、侵入者は安易に跨ごうとするだろう。
それで股に少し擦れでもすれば……それだけで黒焦げのジ・エンドだ。
それに低いから草むらにも隠し易い。
ただの低草地帯だと思っていると、いつの間にか足を引っかけている可能性だってある。
案外、使えるかもな。
採用の方向で話を進めるとして……実際、どの程度の威力があるのか試しておこう。
そう思って、近くにあった手頃な木の枝を折り、そいつを電気柵目掛けて放り投げようとした時だった。
「わーこれが電気柵ですかー。魔王様の仰る通り、簡単に跨げちゃう低さですね。こんな感じで、よいしょっと……」
俺の目の前で今まさに、アイルが電気柵を跨ごうとしていたのだ。
「おわっ!? ちょっ、アイル待った!!」
「え? なんです?」
跨ぎかけた時に声を掛けたのが余計に不味かったんだろうな。
俺の方に顔を向けた拍子にアイルの内股がネットの最上部に触れたのだ。
「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「アイルっ!?」
絶叫が森に木霊した。
そんな……こんな事で俺は大切な配下を失ってしまったのか!?
いや、まだ諦めちゃ駄目だ! 彼女を助けないと!
電流で痺れて体を震わせている彼女。
それを助けようとして手を触れれば、俺も感電してしまう。
何か方法は……!
だがそれは救出方法を見つけ出す前に訪れた。
「いぃぃぃぃぃっ! まおぅさまぁぁぁぁぁ! これぇぇぇぇきぼじぃいぃぃぃですぅぅぅぅぅよぉぉぉっ!」
アイルが電流に痺れながら言葉を発したのだ。
よく見れば彼女の体は高電圧だというのに黒焦げにもならず、ただ震えているだけだ。
表情も苦悶どころか、恍惚の表情を浮かべ気持ち良さそうに見える。
「なんだこれ……」
彼女にとって電気柵は、電気マッサージだったようだ。
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