第226話 ベッドの隙間


 元勇者を主体とする新四天王が誕生し、ややこしいことが一先ず落ち着いた。



 そこで俺達はレジニアの勇者モルガスを迎え撃つ為、罠の準備を整えることにした。



 とは言ってもまだプランが固まっていないので、罠の整理と現状の分析を行う為、少しばかり自室に籠もって考えることに。



 そんな訳で部屋に入ると、早速ベッドに寝っ転がり思案する。



 これまで使用してきた罠や、まだ使えていない罠ももちろん投入するが、あのモルガスのスキルに一番有効な罠は何だろうか?



 素材が揃ったことで新たに作れるようになった電気柵と鹿威し、そして枝豆もどこかで使えないかな?



 やっぱり実際に設置してみて、その効果をこの目に確かめるのが一番だと思う。

 それによって新たなアイデアが思い浮かぶかもしれないし。



 新レシピに関しては試してみてからってことでいいとして……。

 現状で使える罠で何か出来ないだろうか?



 モルガスのスキルは相手の力の方向をねじ曲げる能力だ。

 逆にその力を利用出来ないものか……。



「うーん……」



 ベッドの上で知恵熱を出して呻っていると……、



 ゴソゴソ



 寝ている真下に何やら気配を感じた。



「!?」



 ベッドの下に誰かいる!?

 まさか俺を狙う刺客が入り込んでた!? 暗殺者!?



 俺は慌てて飛び起き、壁際に張り付く。



「そこにいるのは誰だ?」



 ベッドの隙間に向かって投げかける。

 すると、



「カタタ……」



 ベッド下の闇からそんな音が聞こえてきた。



 ん? この音には聞き覚えがあるぞ。

 てか、間違うはずもない。



 このカタカタ言ってるのは回復さんだ。



 そういえば彼女に部屋の掃除を頼んでいたのを忘れていた。

 正確には忘れていないのだけど、まさかそんな場所にまだ居るとは思ってなかったのでビビった。



「そんな所で何してるの?」

「カタタカタタ……」



「え? ベッドの下を掃除してた? いやいや、自分まで入らなくても掃除出来るでしょ?」

「カタカタァ」



「この方が隅々まで綺麗にできる? まあ、そうかもしれないけど、そんな所に居られると心臓に悪いからさ……。取り敢えず出て来てもらっていいかな?」

「カタ」



 返事をした彼女はのそのそとベッドの下から這い出てきた。

 と、そこまでは良かったのだが……。



 俺の目の前に現れた彼女は、どういう訳か全裸だった!



「ぶふっ!?」



 あられもない姿を目の当たりにして思わず噴き出してしまう。



「ちょっ! なんでまた脱いでんの!?」



 この元勇者、どういう訳か脱ぎ癖がある。

 半分嬉しいが、半分困る。



「前にローブをあげたはずでしょ?」

「カタカタ、カタタータ」



「え? どうにも窮屈で着ていられない? いやいや、物凄くゆったりしてる服でしょが! ローブってそういうもんでしょ。とにかく、早く着てくれ。てか、ローブどこやったの?」

「カタタ」



「洗濯しただって?」



 一枚しかないのを洗濯したら、そうもなるか。



「ならもう一枚あるから、ほら、これを着て」



 俺はタンスから同じ形の紺のローブを取り出すと彼女に渡す。

 すると回復さんはどことなく不満そうに、のそのそとそれを着込んだ。



 ふぅ……これでなんとか落ち着いた。



「じゃあもう掃除はいいから下がっていいよ。俺は考え事があるから少し一人にしてくれ」

「カタ」



 返事をしたのを確認して、俺は再びベッドに寝っ転がる。

 すると、



 ゴソゴソ



 またもやベッドの下で物音が。



「って、今度は何!?」

「カタタ……」



「回復さん!? なんでまたそこに入ってんの!?」



 というか、まだ居たのかよ。



「カタタータ、カタ」

「はい? 掃除道具をベッドの下に置き忘れた? それは仕方が無いな……。じゃあ、それを取ったら終わりにして」



 ゴソゴソ



 しばらくすると、ベッドに下から箒の先がニュッと現れ、続けて回復さんが姿を現す。

 しかし、その姿は――全身肌色だった!



「いつの間に脱いだんだよ!?」



 油断も隙もあったもんじゃない。



 彼女は俺の目の前で箒を縦に持って立つ。

 そのお陰で辛うじて大事な部分は隠れているが、ネット動画なら即削除レベルである。



「そして、さっきのローブはどこやった!?」

「カタ……」



「はいぃ? なくしただって? この短時間に? この狭い場所で?」



 有り得ない! 絶対、わざと無くしただろ!



「本当にどこにやったんだよ……」



 俺は部屋の中を探し回る。

 するとベッドの下に黒い塊が。



「こんな所に押し込んで……」



 俺は床に這いつくばると、ローブに向かって手を伸ばす。

 魔王が何やってんだって話だが……。



「っと……よし……取れた」



 なんとか掴んで起き上がる。

 すると、回復さんは俺の様子を背後で屈んで見守っていたらしく、起き上がった直後に彼女の体にぶつかった。



「……っと!?」



 後ろに転がる回復さん。

 それに手を伸ばそうとした俺も一緒に転がる。



 ぷにょん



 直後、非常に柔らかい感覚を顔面に受けた。



 これはあれだ……前にもこんなのあったぞ。

 いわゆる所のラッキースケベというやつだ。

 なんでいつもこうなるかな……。



 俺は彼女の体に覆い被さるように胸の中に顔を埋めていた。



 そして毎度、運が悪いことに……。



 コンコン ガチャ



「魔王様、どうなされました! 今の大きな音は……」



 物音に心配したアイルが扉を開けて入ってきたのだ。

 当然、彼女はこの状況を目撃してしまうわけで……。



「あっ…………」



 アイルの顔が凍り付くのが分かった。

 そして唇がぷるぷると震えだし――、



「ひっ……ひつれいひましたぁぁっ!!」



 そのまま、凄い勢いで出て行ってしまった。



「……」



 何これ……? この絵に描いたような誤解の図は……。


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