第48話 踊り子の服


 今回のレベルアップで、新しいレシピがたくさん手に入ったわけだけど、この中でまず最初に優先して進めるべきものは、ゴーレムに着せる服だろうな。



 というわけで、俺はざっとレシピを見返してみた。



 今ある素材だけで、すぐ作れるのは……これだな。




・カーバンクルの毛×5 + ポムポム草×5 = クマの着ぐるみ×1




 あとは森に素材採取に出している隊と、ダンジョン建設中のゴーレム達から自動的に入ってくる素材があるので、改めて確認してみる。



 すると、青インドル草とギブリ麻、そしてアルミナを確認できた。

 ちなみにアルミナとは、ばん土とか呼ぶこともあるけど、アルミニウムのこと。



 そんな訳で、以下の三つも作れそうだ。




・カーバンクルの毛×2 + 青インドル草×2 = 魔法使いの服×1


・カーバンクルの毛×2 + ギブリ麻×1 = 格闘家の服×1


・鉄鉱石×10 + 銀鉱石×5 + アルミナ×5 = 騎士鎧ナイトアーマー×1




 となると、残されたのは唯一つ。




・カーバンクルの毛×1 + シェルビーズ×100 = あぶない踊り子服×1




 これだ。



 足りない素材はシェルビーズと呼ばれるもの。



 それって何だ?



 シェルっていうくらいだから、シェルとかだろうか?

 しかも百個も必要とか一体どんな素材なんだよ……。



 とにかく情報が無いと探しようがないので、側にいたアイルとプゥルゥに聞いてみることにした。



「ねえ、二人ともシェルビーズって知ってる?」



 すると二人は揃ってぼんやりとした表情を見せる。



「しぇるびーず? ボクはしらないなー」

「申し訳ありませんが……私も存じ上げておりません」



「そっか……困ったな」



 なら、キャスパー達に聞いてみるか……。

 そう思って城の方へ足を向けようとした時だ。



「あ、そういえば」



 何か思い出したのかプゥルゥが跳ねた。



「何?」

「うんとね、まえにイリスがシェルなんとかが、おいしいんだーっていってたのをきいたことがあるようなきがする……」



「マジで?」

「うん」



 ならイリスに聞いてみよう。

 ってか、シェルビーズって食べ物なの?



 さっき思い当たったように、貝だったら食べられそうだけど……。

 この辺に貝がいそうな場所ってあったかな?



 近くに海は無いし、西側に川があるくらいだな。

 あとは、もしかしたら森の中に湖があるとか?



 どのみち貝だったら――の場合だけど。



 まあ、とにかく、イリスの所へ行ってみよう。



          ◇



 俺は城門の近くでイリスの姿を発見した。



 その手にはジョウロがあり、どうやら花に水をあげているようだった。



「この花壇ってイリスが作ったの?」



「うん…………えっ!? わ、わわわ……」



 突然、声を掛けたのがいけなかったのか、彼女は慌てて転びそうになった。

 咄嗟に俺はその体を支える。



「おっと、大丈夫?」

「っ!? だ、だだ……だいじょうびゅ……」



 全然、大丈夫そうじゃないな……。

 なんか噛んでるし。



「まずかった……?」



 イリスは不安そうに尋ねてくる。



「え? ああ、花壇のことか。いや、全然。入り口が華やかになっていいんじゃないかな?」

「……へへ」



 彼女は嬉しそうにはにかんだ。



 いきなり城門横に花壇とは魔王城らしくはないが、こんな魔王城もあっていいと思う。

 あんまり、おどろおどろしいのは好きじゃないしね。



「それにしてもイリスはこういうのが好きなんだね」

「うん……とっても美味しいから」



「えっ……まさかの食用!?」



 彼女はそこで照れ臭そうに俯いた。



 食用花とかあるのは知ってるけど、この世界の花はそんなにムシャムシャ食べるようなもんなのだろうか……?



 色々気になるが……今は、あのことだ。



「ちょっとイリスに聞きたいことがあって来たんだ」

「なに……?」



「シェルビーズって知ってる?」

「シェル……ビーズ? 知らない……」

「そっか」



「でも……マグマシェルなら知ってる」



 マグマシェル?

 一応、シェルという名が付くから、何らかの関係があるかも知れないな。



 手掛かりがあまりないので、そいつをちょっと調べてみるのもありかもしれない。



「マグマシェルってのは、どういうものなの?」

「貝。そして……とっても美味しい」



「ほう……」



 やっぱ貝なのか。

 っていうか、イリスって意外と食いしん坊キャラなのか??



「そのマグマシェルってのをちょっと見てみたいんだけど、それが居る場所を教えてくれる?」

「うん……」



 イリスは小さく頷いた。



「では、お願いするよ」



「じゃあ……はい」



 俺が頼むと、何故だか彼女は赤ら顔で両手を横に広げた。



「ん? 何?」

「……抱っこ」



「ふぁっ!?」



 なんか前にも同じようなシチュエーションがあったなーと思い出す。



「まさか……」

「火山の上なので……」



 そっかシェルだもんな……。

 そうなるよな……。



 そんな訳で、俺はまた彼女の懐にお世話になり、北の山の頂へと向かった。


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