第5話 魔王の力
「じゃあ残りの落とし穴も設置しちゃおう」
俺が手持ちの落とし穴を全部設置しようとした時だった。
「ちょっと待って下さい、魔王様」
「ん、どうしたの?」
アイルが何かに気付いたようで難しい顔をしていた。
「私、今思ったんですが、二つ目の落とし穴は勇者も不意を突かれて落ちると思うんですよ。でも、三つ目からはさすがに警戒されるんじゃないでしょうか?」
「ああ、そのことなら一応考えてはいるよ」
「?」
「二つ目の穴から這い上がった所は一応普通の床にしておいて、一旦ホッとさせたところで一歩踏み出た先をまた落とし穴にしておく」
「なっ、なんという鬼畜さ……」
「それで、『これは無理だ、一旦退却』って踵を返した箇所にももう一つ設置しておく。右利きの勇者なら右回りで反転しそうだから右斜め後ろに設置しておけばOK」
「そこまでお考えとは……敬服いたします」
アイルは改めて俺の前に跪いた。
「でもさ、落とし穴だけじゃさすがに守り切れないと思うんだよね……。他にも何か作れればいんだけど」
合成レシピ画面を見る限り、今の所作れるのは〝落とし穴〟と〝トゲ罠〟だけだ。
これがゲームの世界だったら、プレイを重ねる度にレシピが増えて行くんだろうけど、この世界ではどうやったらそれが出来るんだろうか。
「ねえ、アイルは合成レシピの増やし方を何か知ってる?」
「ごうせい……レシピ……? それは
「まあ、そうなるかな」
「私は魔王様に
彼女は申し訳無さそうに言った。
なるほど、この力の使い方は俺自身で探らないといけないってことか。
このゲーム画面みたいなやつもアイルには見えてないっぽいしな。
うーん……そうなると、どうしたらいいだろう。
ゲームだと、より多くの素材を集めたり、レベルが上がったりするとレシピが増えたりするけど……。
ん? レベル?
思い当たって、改めて素材パレットの画面を呼び出す。
すると視界の端っこに三本線が引かれた意味ありげなアイコンを発見。
これか!
迷わずそれをクリックする。
[ステータス]
名前:魔王
レベル:1 ★:0
HP:3561 MP:2892
攻撃力:621 防御力:549
素早さ:438 魔力:573
運:611
特殊スキル:
ステータス画面だった。
ゲームならレベルがあると思っていたが、やっぱりあった。
この世界に転生したばかりだからレベルが1なのは分かるが、それにしたって数値がやけに高い気がする。
魔王補正ってやつ?
特殊スキルにも、いかにも戦闘向きな名前の技が並ぶが、今のところ出番は無さそうである。
何より今はレシピだ。
このレベルが上がれば、覚えるレシピが増えそうな感じがするけど……問題はどうやったらレベルが上がるのか? ってことだ。
あとレベルの隣にある謎の★マーク。
これだけ数値が0だけど、どういう意味があるのだろうか。
勇者がモンスターを倒してレベルを上げるように、魔王は人間を倒してレベルを上げるのだろうか?
でも、元人間の俺が人間を倒すというのも良い気がしないなあ。
そんなことを考えていると、俺の側でアイルがなんだかそわそわしていることに気が付く。
どうやら落とし穴を設置した床が気になるようだ。
「どうしたの? 何か気になることでも?」
「い、いえ……先程、魔王様が言っていたように、この落とし穴の底にトゲ罠があったらさぞ楽しいことになるのではと……そのことばかりを考えてしまって。勇者が落ちた姿を想像するとワクワクが止まらないんです」
「へ、へえ……」
アイルは恍惚の表情で今は床に擬装されている落とし穴を見詰めていた。
そういうサディスティックな部分は、魔族らしいといえばそうなのかもしれない。
それはさておき、レベル上げやレシピを増やす方法がいまいち不明な今、やれることと言ったら素材集めだ。
何か集めているうちに変化があるかもしれない。
それに期待しよう。
「ちょっと、この辺りを掘ってみる」
「えっ……」
俺はエントランスから飛び出して、城の正面入口付近の地面を掘ってみた。
玉座の間とは違った素材が取れるかもしれないと思ったからだ。
結果は――、
[素材パレット]
城床ブロック×10
土×284
石×115 NEW!
鉄鉱石×20
うわ……新しく石が取れたけど、あとは土ばっかり増えるだけで余り変わらないなあ……。
あと鉄鉱石が少し増えた。ちょっと嬉しい。
これでトゲ罠が作れるようになったぞ。
鉄鉱石二つで一個のトゲ罠が作れるから丁度、十個作れる。
落とし穴と同じ数だ。
早速、合成していると、アイルは掘削された地面を横目に慌てた様子で近付いてくる。
「ま……魔王様、お言葉ですが、城の顔たる正面入り口をこんなふうに掘ってしまっては……荘厳なイメージが損なわれる可能性があります」
「そう? じゃあ後で適当に埋めとく」
土、多すぎだし。
「それより、アイルが欲していたトゲ罠が出来たぞ」
「えっ……まあ!」
その言葉を聞いた途端、彼女は目を見開き歓喜の声を漏らした。
「それは嬉しゅうございます。もしかして不肖な私めの為にわざわざ作って下さったのですか?」
「え……あ、まあ」
「なんというお優しさ。感激です」
成り行きだけど結果的に喜んでくれて良かったよ。
俺は早速、エントランスに戻ると、そのトゲ罠を落とし穴の底に設置してみた。
トゲ罠付き落とし穴の完成である。
それを見届けたアイルは再び目を輝かせる。
「早く勇者が落ちませんかねー。わくわく」
彼女は、まるで新しい玩具を手に入れた子供のように好奇心一杯の表情を浮かべていた。
そんな時だ。
俺は彼女の頭上に何かが飛び出すのを見た。
それは黒い色をした――★だった!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます