第92話 事情


「私は無理矢理、討伐に来させられたにすぎません。私が魔王に倒されたということになれば、ラデスはもう村に手出しをするようなことはないでしょう」



 リアは俺が予想していたことと、ほぼ同じ理由を話してくれた。



 しかし、彼女は戦う意志が無いとは言うが、信用するには早計だ。

 村を救うには魔王を倒すという選択肢も残されている。



 なぜそっちの選択は端から排除されているのか知る必要がある。

 だがその前に、彼女の能力を探っておきたい。



「貴様が倒されたいと言うのであれば、こちらもそうするまで。だが、その前に聞いておきたいことがある」

「?」



「ここまでの道のり、我が配下が守護していたはずだが、その防衛網をどうやって突破してきた」



 すると彼女は、あっさりとした口調で答える。



「あ、それですか? 私、隠密ステルスのスキル持ちですから」

「……」



 隠密ステルス!?

 なんか持ってるだろうなーとは思ってたけど、やはりそっち系のスキルだったか。

 エルフ特有のスキルっぽいもんなー。



「だから途中に立ってたクマのゴーレムさんとか、騎士のゴーレムさんとか全然気付かれないでここまで来られたんです」



「ほう、なるほど……って、今ゴーレムって言った!?」

「ええ、言いましたけど?」



 彼女はぼんやりとした顔で言った。



「他にも魔法使いのゴーレムさんとか、格闘家のゴーレムさんとか、そこに立ってるのもゴーレムさんですよね?」



 リアは言いながら、壁際に控えている踊り子服を着たゴーレムを指差した。



 アイル・ゴーレムは、まんまゴーレムだから仕方ないとしても、他の偽四天王は全部ゴーレムだってバレてた!



 ということは……この偽魔王も……。



「あ、そうそう、あと魔王さんもゴーレムですよね?」



 やっぱバレてた!!



「それにしてもゴーレムの魔王だなんて珍しいですね」

「え……あ、まあ……そ、そうかもしれないな」



 だが、セーフだった!



 ただの変装にすぎないから、バレ易いといえばそうなのだが……こうも瞬時に見抜かれると、スキルを疑う。



 無数に仕掛けた罠だって見破ってる訳だし。



「貴様は罠も見抜けるようだが……それもスキルか?」



「ああ、そっちは感知パーセプションのスキルです。感覚が研ぎ澄まされるので、周囲にあるものが手に取るように分かるのです」


「……」



 スキルを二つ持つ勇者もいるんだな。

 ってか、そんなスキル……もう、この城、裸同然じゃね!?



 と、それはさておき……。



 そんだけスキルを持ってて、なんでわざわざ倒されに来るんだ……?



「しかし、分からないな」

「え?」



「そこまでのスキルがあって、なぜ我を倒そうとしない」



 すると彼女は真顔で答える。



「それは私の攻撃力が、皆無に等しいからです」

「は?」



「ダメージを与えられなければ倒す以前の問題ですもんね」

「いやいや、ではその背中にある弓はなんの為にあるのだ」



「これですか? 確かにこの聖弓には魔王さんを封じる力があるみたいなんですけど……私に攻撃センスが絶望的に無くて……目標に全く当たらないのです」

「当たらないって……」



「試しに射って見せましょうか?」



 彼女は背中から弓を手に取る。



「いや、いい! いい!」



 変な所に当たったら困るからな。



「それより、そんなに当たらないというのなら、確実に当たるような至近距離まで近付けばいいだけのことではないのか? 貴様はそれを可能にするスキルを持っているはずだが?」



 隠密ステルススキルで背後に近付き、至近で放てば、どんなに攻撃センスが無くったって当たるだろう。



「それは当たるかもしれないですけど、それ以外の部分で無理です」

「以外の部分?」



「この聖弓、弦を引く時……めっちゃくちゃ、うるさいんです」

「……」



「こんな感じなんですけど……」



 彼女は試しに弦を指で引っ張ってみせた。

 すると、



 ギョォォォォォォォウォォォギィヒィィィッ



「っ……!?」



 黒板を爪で引っ掻いた時の数百倍は鳥肌が立つような音が響いた。



 さすがにこんなのを間近で引かれたら誰でも気付く。

 というか、ムズムズする。

 そりゃ、当たらんわな。



 リアがそのまま弦を引っ張り続けると、光の矢が現れ弓に番われる。

 物理的な矢ではなく、魔力で無限に装填できるらしい。



 罠で設置した大弓みたいな感じだな。

 ってか、そのまま射る気じゃないだろうな?



「せっかくだから試しに放ってみますね」



 やっぱりそうだった!



 しかも、その矢先は俺(偽魔王)に向けられている。



「ちょっ!?」



 制止する間も無く、矢は放たれた。



 しかし、飛び出した矢はまるでレールにでも乗ったように綺麗な弧を描いて、斜め上の天井に突き刺さって消えた。



 攻撃音痴にもほどがあるだろ!



 リアは自嘲するように言った。



「ね?」


「……」

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