第8話 アンケート

 四天王の紹介が終わったところで、アイルは「そして――」と続けた。



「四大魔団を取りまとめる役割と魔王様の忠実なる右腕、それがこの私、魔団参謀アイルで御座います」



 彼女は誇らしげに胸を張り、優越感に浸った後、頭を垂れた。



「以上が、魔王様直属の配下になります」

「なるほど」



 一瞬、これだけ? となってしまいそうだが、それぞれの魔団長の下に多くの配下を抱えているそうだから、実際には相当な規模になりそうだ。



「さて、ここに皆を集めた理由だけど、ただの顔合わせって訳じゃあないんだ」

「と、仰いますと?」



 早速、猫耳執事のキャスパーが渋い声で尋ねてくる。



「このことは既にアイルに話してあることだけど、俺はこの城の地下に巨大なダンジョンを作ろうと思っている」



「ダンジョン……」



 四天王達がざわつく。



「それは勇者に邪魔されない、快適で優雅な空間。そこへ皆で移り住もうという計画だ」



 再び、ざわつく。

 と、そこでキャスパーが皆を代表して口を開く。



「お言葉ですが、魔王様はこの世界の覇者となられる御方。今後の進軍についての計画をお聞かせ願いたいのです……にゃん」


「……」



 にゃんて……。

 相変わらずの語尾である……。

 それはさておき、自分の考えを伝える。



「進軍とかしないよ」



「え……」



 キャスパーだけでなく、その他の四天王達も唖然とした表情をしていた。



「じゃあ逆に聞くけど、それって楽しい?」



「楽しい……とかいう感情は、申し訳御座いませんが私には分かりかねます。ただ、それに近い物というのならば……。魔王様はこの世を治める御方、私達はそのお手伝いをさせて頂く。それが至上の喜びと考えております」



「なんか無理してない?」

「いいえ、そんなことは……」



「俺は、痛いのとか苦しいのとか凄く嫌なんだよね。だから勇者との戦いは全力で回避したいと思ってる。そもそも、そんなことで時間を潰すよりも楽しいことって一杯あると思うんだ」

「は、はあ……」



「俺に尽くすことが至上の喜びと言うのなら、ダンジョン作りにも喜びは広がってると思う。寧ろそっちの方が世界征服しているよりも楽しいと思うんだけどな」



「魔王様がそうなさりたいというのであれば、私はそれに従うまでで御座います」



 納得はしてない感じだが、まあ今はそれでいっか。



「他の皆はどう?」



 尋ねると、



「シャルは魔王様の言うことなら何でも頑張っちゃうよ」



 シャルは両手を胸の前でグーにして言った。



「なんだか、たのしそう。ボク、やるきがでてきたよ」



 プゥルゥはその場でボヨンボヨンと体を弾ませる。



「それでいい……」



 イリスは照れ臭そうにしながら呟いた。



 どうやら皆協力してくれそうだ。



「魔王様の崇高なる計画の為に、今こそ皆の力を合わせる時です」



 アイルがそう先導すると、四天王達は同調するように声を上げた。



「じゃあ皆の意志が一つになった所でアンケートを取るよ」



「ア……アンケート??」



 唐突な俺の提案に皆、目を丸くする。



「それは一体、何のアンケートですか?」



 当然の反応が返ってくる。

 そう聞いてきたのはアイルだ。



「ダンジョン内に、それぞれが快適に暮らせる部屋を作ってあげようと思ってね。今のうちに要望を聞いておこうかと」



「!? 魔王様が……私達の為に部屋を作って下さるんですか? なんと恐れ多い……」



 アイルは恐縮が度を超えて動揺しているようだった。



「気にしなくていいよ、結局俺の為にもなることだから。という訳で、こういう部屋がいいとか具体的なものでなくても、してみたい事だとか、困っている事とか、そういうのでもいいんで、教えてくれないかい?」



 するとすぐにアイルが、



「私は部屋などなくとも、勇者共が泣いて苦しむような罠がダンジョン内にあるだけで至福の喜びで御座います」



「ああ、そうだったね」



 彼女の場合はそれでいいとして……。



「シャルはどんな部屋が欲しい?」



「えっと、私は一度でいいからお日様の当たる部屋で日向ぼっこがしてみたいの。でも、実際にやると私の体って腐っちゃうから……」



「なるほど、日の当たる部屋か。地下ダンジョンでは中々難しい要望だけど、一応頭に入れておくよ」

「わーい」



 彼女は嬉しそうにスカートを翻した。



「じゃあ、プゥルゥは?」



 プゥルゥは迷ってるのか、うねうねと軟体をくねらせる。



「へやのコトじゃないんだけど……」

「ああ、それでもいいよ」



 すると安心したように透明の体がぷっくりと膨れる。



「ボクはね、ニンゲンがおいしそうにたべてるリョウリっていうモノをあじわってみたいんだ。ボクって、いつもどうぶつをまるのみして、カラダのナカでとかしちゃうだけだから……」



「なるほど料理ね。考えとくよ」



 クラフト系のゲームだったら作物栽培や料理の素材もあったりするのが普通だ。

 もしかしたら俺の強欲の牙グリーディファングでも可能かもしれない。



「次、イリスは?」



「わ……私は……その……」



 彼女はモジモジするばかりで中々言おうとしない。

 ここでは言い難いことなんだろうか? だったら、



「じゃあ、イリスには後でゆっくり聞くよ」

「え……あっ……」



 惜しそうに見えたが気のせいだろうか?



「じゃあ最後にキャスパー」



 すると彼は非常に落ち着いた態度で答える。



「私は今の状態で大変満足しております。これ以上、魔王様から何かを頂くなど、烏滸がましい限りで御座います」



「そう? でも、何か小さな悩みくらいはあるんじゃないの?」

「悩みですか……そうですね……」



 キャスパーは顎髭に手を当て考え込む。そして、



「強いて言えば〝痒み〟でしょうか」

「痒み??」



「ええ、ここら辺をご覧頂くとお分かりになるかと思いますが」



 そう言って彼は猫耳の辺りを指し示してくる。

 言われた通り近寄って良く見てみると……なんだか小さいものがピョンピョン跳ねているのが分かる。



 これって、もしかして……。



「ノミか!」

「ええ、そうです……にゃん」



 そうか、一応、猫獣人だもんな……ノミがいてもおかしくないか。

 これを解消するには普通の猫だったら風呂に入れてやったりするが……。



「!」



 そこで俺は、合成レシピのことを思い出した。



 そういえば……レシピの中にバスタブってのがあったぞ!


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