第100話 魔法石の行方


 さて、リリアをトラップ補助係に任命した所で、色々整理しておかないといけないことがある。



 彼女の詳しい素性だったり、ラデス帝国の情報だったり、今後の為に聞いておかないとな。



 そもそも彼女はラデスにどう言って出てきたのか、それによってこちらの対応も変わってくる。



 ラデスはリリアに攻撃力が無いに等しいことを知ってるだろうし、そんな彼女を一人で行かせることにメリットがあるとは思えない。



 他の勇者と連携させた方が、ずっと有効的な戦い方が出来るはずなのだから。

 その辺の所を詳しく聞いてみよう。



「で、リリアはラデス帝国を出発する時に何て言って出てきたんだ?」



「ん? 特に何も言わず出てきましたが、何か?」

「……へ?」



 ちょっ、ちょっと、何も言わずに出てきたって、どういうこと!?



「一人で魔王討伐に行くって言ったら絶対止められますからね。隠密ステルススキルでこっそり抜け出してきました」



「でもそれじゃ、無駄死にになる可能性が高くないか?」

「あ、一応、〝魔王倒しに行ってきます〟と書き置きだけは残しました」



「な、なるほど……」



 しかし、それでは人質があるとはいえ、単に脱走したと思われてもおかしくないぞ?



 それなら早いとこ、勇者リアが魔王にやられて死んだって話を流さないといけないな……。

 エルフの村に手が入ってしまう可能性があるだろうし。



 それにあれだ。

 いずれはラデスの他の勇者がここに攻めて来るだろうし、結局やり合わなくてはならないことには変わらない。



 だったら、その前に情報を集めて優位に立っておくっていう手もありだな。うん。



 となると、



 当初の予定ではリゼル王国へ脅しをかけるつもりだったが、こっちを先に対処することになりそうだ。



「じゃあ、リリアが言ってた通り、勇者リアが死んだってことをラデスに伝えようと思うんだけど、帝都の警備状況とか、建物の配置とか分かる範囲で教えてくれないか?」

「あ、はい。見取り図を書きますね」



「それと、ラデスには現在何人の勇者がいるのか念の為、聞いておきたいんだけど」



「私以外に、あと十人います」

「じゅっ……十人!?」



 勇者、多すぎっ!



 ただ情報を伝えるだけなら容易いが……それだけの勇者がいて、面倒なことにならなきゃいいけど……。



「あのー……」

「ん? なんだ?」



「私が死んだって話はどうやって伝えるんです?」

「ああ、その役割は瞬足くんに担ってもらうつもりだよ」



「瞬足くん??」

「元勇者のゾンビさ」


「え……」



 彼女は固まっていた。

 自分も元勇者だから、そりゃ動揺くらいはするよな。



 ともかく瞬足くんを使って、ラデスでどんな政治が行われているかとか、勇者達の能力とか、軍事力とか、エルフの村の位置とか、そういったものも調査出来たらいいな。



 それには手ぶらで行かせるには、ちょっと心許ない。

 やはり、アレだけは完成させてからにしたい所だが……。



 そう、アルティメット金ダライのことだ。



 それには残り二つの魔法石を集めなくてはならない。



 魔蒼石については、水のエネルギーが長い間蓄積されたような場所ってことで、プゥルゥが言ってた湖に行ってみるということになっている。



 もう一つは魔碧石なんだけど……。



 火土水……ときたら、順当に考えて次は、風だよな。



 風のエネルギーが溜まるような所といったら、ある程度の風速が常に保たれているような場所……?



 渓谷とか、窪地とか、そんな場所では常に風が吹いてそうだけど……果たして、そんな場所がこの近辺に存在しているだろうか?



「関係無い話だけど、この辺りに谷とか窪地とかってあるかな?」



 すると側に控えているアイルが真っ先に答えてくれる。



「死霊の森を含め、その周囲には、なだらか平地がずっと続いています。この近辺には、そのような地形は存在しないかと……」

「そっか……」



 うーん……となると、どこにあてを付けたらいいのやら……。



 そんなふうに悩んでいると、リリアが尋ねてくる。



「谷で何かするんですか?」

「いや、なんというか、風の魔力が溜まりそうな場所を探してるんだ」



 すると彼女は刮目した。



「風のことならエルフにお任せですよ」

「……!」



 そういえばエルフって風の魔法と相性良さそうな種族だよな。

 彼女なら何か知ってるかも。



「あのさ、魔碧石って知ってる?」

「魔碧石? あ、それならここに持ってますよ」



「へ?」



 意想外な答えに俺は虚を衝かれた。



 彼女は、腰のポーチから手の平に収まる程度の小石を取り出す。



 それは緑色に輝く宝石のような石だった。



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