第229話 枝豆(塩茹で)


「も、申し訳ございませんっ!」



 鹿威しの衝撃波が去った後、アイルは平謝りだった。

 でも、そんなことをされる謂われが無い。



「ん? どこに謝る要素が?」

「それは……本来であれば魔王様の身は私がお守りしなければならないはず。そこを逆に魔王様に救われるなど……参謀としてあまりにも無能過ぎると思いましたので……」



「なんだ、そんな事か」

「へ?」

「配下の身の安全を守る。それも主君たる魔王の役目だしね。当然のことだよ(キリッ)」



「やだ……! かっこいい……」



 わざとらしく決めてみたら、アイルが瞳をキラキラさせていた。

 ちょっと笑いを取るつもりでやってみたんだけどなあ……。

 本気にされると、ちょっと恥ずかしい。



「ええーと……それは良しとして、次の罠を試そう」

「はい」



「新レシピでは、これが最後だな。枝豆かあ」



 そのレシピはこれ。



 ・エンダール豆×3 + 調味塩×1 = 枝豆(塩茹で)×25



 これもライトニングのお陰で手に入れることが出来た素材で作れる。



 にしても、これって料理じゃなくて罠扱いなんだよなー……。

 食べたら不味いんだろうか?



 ともかく一つ、作ってみよう。

 とは言っても一度に二十五個出来ちゃうんだけど。



 そんな訳で俺は枝豆を合成した。



 すぐにアイテムボックスから一つ取り出してみる。



 手の中に現れたのは、やはり何の変哲も無い枝豆だった。



「うーん、前の世界での枝豆とほぼ一緒だな。しかも既に茹でられている感じだ」

「なんだか美味しそうですね」



「ああ、見た目はね。でも止めておいた方がいい」

「どうしてですか?」

「アイテムの説明によると、中の豆が銃弾のように飛び出すらしい」

「じゅうだん……ですか?」



 アイルは首を傾げた。



 そうか、この世界には銃とかは無さそうだもんな。

 その単語の響きだけを聞いてもあまりピンと来ないだろう。



「罠というより、武器として使うのが良さそうだけど……試しに安全そうな方へ向けて豆を飛ばしてみようか」

「では、私が実際にやってみます」

「え……」



 思わず俺は言葉を詰まらせた。

 ありがたい申し出だが、嫌な予感しかしない。



 自ら罠に引っ掛かりに行く性質の彼女にやらせるのは、かなり不安だ。

 だが、せっかくやってくれると言っているのに、任せられないなどと言ったら信頼に影が落ちる。



 そもそも枝豆を鞘から押し出すだけだから、いくらなんでも大きな間違いは起こらないだろう。

 うん、今回ばかりは大丈夫だと思う。

 でも慎重にはやらないとな。



「じゃ……じゃあ頼むよ」

「承知しました」



 俺は枝豆を彼女に渡しながら言う。



「中の豆を普通に押し出すだけでいいからね?」



 念には念を入れて再確認する。



「はい、では、どちらに向けてやりましょう?」

「そうだな……じゃあ、あっちの林に向けてやってみよう」



 向こう側は奥に森が続いているだけで、特に何があるっていう訳でもない。

 被害を受けるようなものは何も無いはずだ。



「では、行きますよ」

「おう」



 彼女は枝豆を横に持つと、挟んだ指に力を込める。



「ぐぬぬぬ……これ……結構、硬いですね……」



 歯を食いしばりながら、指先に力が入る。

 すると、



 ムリムリムリ……。



 という感じで中の豆が鞘を割って外に顔を出し始めた。



 なんだ、普通の枝豆じゃん。



 そう拍子抜けした直後だった。



 ポンっと鞘から飛び出した豆が、有り得ない軌道を描いて、アイルの頬を掠めたのだ。



「!?」



 弾け飛んだ豆が、彼女の横髪の二、三本を刈り取って飛んで行くや否や、彼女の背後にあった大木に大きな風穴を空けていた。



 メリメリメリという音と共に、その大木が穴の空いた箇所から折れ、大音響を立てて地面に倒れる。



「……」



 これって……銃弾どころか、砲弾クラスの威力じゃん!



 それにしても彼女が不器用なのか?

 それともこの枝豆がコントロールが利かない代物なのか?



 使い所が難しいアイテムであることは確かだ。



 それはそうと……。



 俺はアイルに目を向ける。



 危うく豆に頭を吹き飛ばされる所だった彼女は、青ざめた顔で立ち尽くしていた。


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